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12 時が満ちるまで
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◆◆
シリルは再び、他人のベッドで目を覚ます。
(——ここは……)
あれから、ロメオの部屋でいつの間にか意識を失うように眠っていたようだ。
前日の無理がたたった上に、ロメオからもあんな扱いを受けて身体が悲鳴を上げていた。発熱し頭がぼんやりとする。
目を開けると、すぐ近くで心配そうな顔をしたロメオが覗きこんでいた。
「…………」
「……具合が悪かったんだね。ごめん……俺、シリルに酷いことした」
先程の怒りに満ちた顔はどこかにいって、今はいつものロメオに戻っている。
だが、一度あんなことをされてすぐに元通りとはいかない。近くに寄られるだけでも身体が強張り、震えがはしる。
それはロメオのせいだけではなく、昨日からの行為がシリルの身体に恐怖として蓄積された反動だ。
「……大丈夫、なにもしないから。怖がらせるつもりはないんだ。ただ謝っておきたかっただけ。本当にごめんなさいっ。俺は知らなかったんだ。まさかシリルまでが俺の落とし前を付けさせられてるなんて……それなのに俺は……最低な奴だ……」
うつむく琥珀色の瞳から涙が零れる。
「……ロメオ……」
「シリルが嫌ならいつでもペアは解消するし、俺もここから出ていく。でも今はとにかくゆっくり身体を休めて……」
ロメオはベッドの横のサイドテーブルに、水の入ったグラスとみずみずしいブドウを置くと部屋から出ていった。
けっきょく丸一日ベッドから起き上がることができなかった。
その間もロメオは、距離を置きながら献身的に世話をしてくれた。シリルが部屋のベッドを占領していたので、自分は居間の長椅子で寝ていたようだ。
ロメオはこうなる原因を作った一人だが、シリルは少し申し訳ない気持ちになる。
熱が下がり体調も回復してきたので、久しぶりに湯船へ浸かりながら、起こった出来事について心の整理をしていた。
気持ちを落ち着けるように、ローズマリーとラベンダーの香油をお湯に垂らして、ゆっくりと目を閉じる。
自分はなんのために、この身を犠牲にした?
ロメオとの生活を続けるためだ。
レーリオは上部に報告しないどころか、苦労して手に入れた燭台までこちらに譲っていった。
さすがに今回は自分のやりかたがまずいと思ったのだろう。
しかしシリルはレーリオを許すつもりはない。
行為のあいまにあの男から投げつけられた侮蔑の言葉は、今でも胸に刺さったままだ。
一緒にペアを組んでいたころは、あんな酷いことをする男ではなかった。媚薬を使って強引に身体を繋げられたことや、貶める言葉をかけられたこともなかったので、そのショックは大きい。
(そしてロメオからも……)
今思い出しただけでも、頬に涙がつたう。
「…ううっ……」
あまりの仕打ちに、ついには嗚咽までもが漏れる。
ロメオからは謝られたが、シリルの心の傷は未だに血を流し続けている。
一度口から出された言葉は、消そうとしても消えるものではない。
レーリオから受けた行為よりもロメオのとった対応のほうが傷は大きかった。
仕事の問題は解決したはずなのに、シリルには今まで通りにロメオと接する自信がない。
(——どうしたらいいんだ……)
事件からしばらく経ったが、ロメオとの関係に答えを出すことができないまま、二人は共同生活を続けている。
昔のように、シリルを朝起こしに来ることはなくなったが、シリルの好物のクロワッサンは毎朝出てくる。盗賊の仕事も相変わらず続けているが、やはりロメオのピッキングの技術は欠かせない存在だ。
シリルは冷静になってあの時のことを考えてみた。
(——もし私がロメオの立場だったら……)
本当になにも知らないまま現場を目撃してしまったのだ、薬のせいとは言えあんな行為が目の前で繰り広げられていたら、自分のことを軽蔑してもおかしくない。
それに真実を知った後に、ロメオは涙を流して自分に謝ってきたではないか……。
ロメオもレーリオから陥れられた側なのに、このまま二人が仲違いしてしまったら、それこそ相手の思う壷ではないのか。
なによりも、あんなことがあったにも関わらず、ロメオを可愛いと思う自分がいる。
お日様のような笑顔が、はつらつとした声が、シリルの心を捉えてはなさない。
あの時以前の関係にはもう戻れないが、ロメオがいない生活など考えられないと思いはじめたころ……今後の二人の関係を決定づける出来事が起こった。
シリルは再び、他人のベッドで目を覚ます。
(——ここは……)
あれから、ロメオの部屋でいつの間にか意識を失うように眠っていたようだ。
前日の無理がたたった上に、ロメオからもあんな扱いを受けて身体が悲鳴を上げていた。発熱し頭がぼんやりとする。
目を開けると、すぐ近くで心配そうな顔をしたロメオが覗きこんでいた。
「…………」
「……具合が悪かったんだね。ごめん……俺、シリルに酷いことした」
先程の怒りに満ちた顔はどこかにいって、今はいつものロメオに戻っている。
だが、一度あんなことをされてすぐに元通りとはいかない。近くに寄られるだけでも身体が強張り、震えがはしる。
それはロメオのせいだけではなく、昨日からの行為がシリルの身体に恐怖として蓄積された反動だ。
「……大丈夫、なにもしないから。怖がらせるつもりはないんだ。ただ謝っておきたかっただけ。本当にごめんなさいっ。俺は知らなかったんだ。まさかシリルまでが俺の落とし前を付けさせられてるなんて……それなのに俺は……最低な奴だ……」
うつむく琥珀色の瞳から涙が零れる。
「……ロメオ……」
「シリルが嫌ならいつでもペアは解消するし、俺もここから出ていく。でも今はとにかくゆっくり身体を休めて……」
ロメオはベッドの横のサイドテーブルに、水の入ったグラスとみずみずしいブドウを置くと部屋から出ていった。
けっきょく丸一日ベッドから起き上がることができなかった。
その間もロメオは、距離を置きながら献身的に世話をしてくれた。シリルが部屋のベッドを占領していたので、自分は居間の長椅子で寝ていたようだ。
ロメオはこうなる原因を作った一人だが、シリルは少し申し訳ない気持ちになる。
熱が下がり体調も回復してきたので、久しぶりに湯船へ浸かりながら、起こった出来事について心の整理をしていた。
気持ちを落ち着けるように、ローズマリーとラベンダーの香油をお湯に垂らして、ゆっくりと目を閉じる。
自分はなんのために、この身を犠牲にした?
ロメオとの生活を続けるためだ。
レーリオは上部に報告しないどころか、苦労して手に入れた燭台までこちらに譲っていった。
さすがに今回は自分のやりかたがまずいと思ったのだろう。
しかしシリルはレーリオを許すつもりはない。
行為のあいまにあの男から投げつけられた侮蔑の言葉は、今でも胸に刺さったままだ。
一緒にペアを組んでいたころは、あんな酷いことをする男ではなかった。媚薬を使って強引に身体を繋げられたことや、貶める言葉をかけられたこともなかったので、そのショックは大きい。
(そしてロメオからも……)
今思い出しただけでも、頬に涙がつたう。
「…ううっ……」
あまりの仕打ちに、ついには嗚咽までもが漏れる。
ロメオからは謝られたが、シリルの心の傷は未だに血を流し続けている。
一度口から出された言葉は、消そうとしても消えるものではない。
レーリオから受けた行為よりもロメオのとった対応のほうが傷は大きかった。
仕事の問題は解決したはずなのに、シリルには今まで通りにロメオと接する自信がない。
(——どうしたらいいんだ……)
事件からしばらく経ったが、ロメオとの関係に答えを出すことができないまま、二人は共同生活を続けている。
昔のように、シリルを朝起こしに来ることはなくなったが、シリルの好物のクロワッサンは毎朝出てくる。盗賊の仕事も相変わらず続けているが、やはりロメオのピッキングの技術は欠かせない存在だ。
シリルは冷静になってあの時のことを考えてみた。
(——もし私がロメオの立場だったら……)
本当になにも知らないまま現場を目撃してしまったのだ、薬のせいとは言えあんな行為が目の前で繰り広げられていたら、自分のことを軽蔑してもおかしくない。
それに真実を知った後に、ロメオは涙を流して自分に謝ってきたではないか……。
ロメオもレーリオから陥れられた側なのに、このまま二人が仲違いしてしまったら、それこそ相手の思う壷ではないのか。
なによりも、あんなことがあったにも関わらず、ロメオを可愛いと思う自分がいる。
お日様のような笑顔が、はつらつとした声が、シリルの心を捉えてはなさない。
あの時以前の関係にはもう戻れないが、ロメオがいない生活など考えられないと思いはじめたころ……今後の二人の関係を決定づける出来事が起こった。
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