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八話 銀と言い張れば銀になる
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お母さまに会いたい気持ちが湧き上がり、ぶんぶんと首を振る。そしてそれを忘れようと窓の外に目をやる。
アドフィル帝国の現皇帝は、邪魔になる者すべて殺し、玉座に座った男で、アドフィル帝国は前皇帝の時には侵略国家だった。
私が知るのはその程度のことで、アドフィル帝国が実際にどういった場所なのかはまったくといっていいほどしらなかった。
そのため、馬車から見える光景に目を見張った。帝都はここまで通ってきた国とは違い、とても賑わっている。
大勢の人々が行き交い、露店を広げている商人の呼び声が馬車の中にまで聞こえてきそうなほどだ。
現皇帝が血に濡れた玉座に座ってから、まだ三年しか経っていない。新たな暴君の登場に怯えていても不思議ではないのに、そんな気配は微塵も感じられない。
もしかしたら、誰が頂点になろうと人々の生活は変わらないのかもしれない。
そう思ってしまうほど、行き交う人々の表情は明るかった。
「陛下は玉座の間でお待ちしております」
外の風景を眺めていると、城に到着した。
ヴィルヘルムさんの手を借りて馬車を降りる。アドフィル帝国のお城は、天使を始祖に持つ王様が使っていたものをそのまま使っているようだ。城の壁に羽のような紋章が刻まれている。白い壁も、羽をイメージしているのかもしれない。
エイシュケル王国の城壁も、同じように紋章が刻まれていたのだろうか。じっくりと眺める暇なんてなかったので、外から見てどんな風に見えるのかを私は知らない。
思わず見惚れていると、ヴィルヘルムさんに急ぐようにと声をかけられた。
慌ててヴィルヘルムさんの後を追い、城内に入る。
「陛下は大変気難しく、お忙しい方です。心を広くもっていただければと思います」
そして玉座の間に向かう道中で、ヴィルヘルムさんは皇帝取り扱い説明なるものを話してくれた。
まず、気難しいので余計なことはあまり言わないように。
次に、忙しいのであまり顔を合わせられなくても気にしないように。
さらに、好き嫌いはとくにないので好みなどは聞かないように。
他にも、人に触れられるのはあまり好まないので気をつけるように、などなど。
「わかりましたか?」
「はい!」
つまり、それとは逆のことをすればいいということだ。
「ところで……」
ちらりとヴィルヘルムさんの目がこちらを向く。どこか言いにくそうにしている様に首を傾げていると、ヴィルヘルムさんはこほんと一つ咳払いをした。
「……あなたの髪色は……灰色、ですよね?」
「いえ、銀です」
きっぱりと言い切ると、ヴィルヘルムさんは微妙な顔をした。
ヴィルヘルムさんの微妙な顔が晴れないまま、玉座の間にたどり着く。
そこでようやく、私は自分の夫となった人に会うことができた。
夜の闇を閉じこめたかのような漆黒の髪に、夕焼けのような赤い瞳。肘置きを使って頬杖をついているせいか、どこか気怠そうに見える。
「俺はお前を妃に迎えるつもりはない」
首を垂れる間もなく、氷を思わせる冷たい眼差しに射抜かれ、挨拶すらもなく、拒絶の言葉を向けられた。
アドフィル帝国の現皇帝は、邪魔になる者すべて殺し、玉座に座った男で、アドフィル帝国は前皇帝の時には侵略国家だった。
私が知るのはその程度のことで、アドフィル帝国が実際にどういった場所なのかはまったくといっていいほどしらなかった。
そのため、馬車から見える光景に目を見張った。帝都はここまで通ってきた国とは違い、とても賑わっている。
大勢の人々が行き交い、露店を広げている商人の呼び声が馬車の中にまで聞こえてきそうなほどだ。
現皇帝が血に濡れた玉座に座ってから、まだ三年しか経っていない。新たな暴君の登場に怯えていても不思議ではないのに、そんな気配は微塵も感じられない。
もしかしたら、誰が頂点になろうと人々の生活は変わらないのかもしれない。
そう思ってしまうほど、行き交う人々の表情は明るかった。
「陛下は玉座の間でお待ちしております」
外の風景を眺めていると、城に到着した。
ヴィルヘルムさんの手を借りて馬車を降りる。アドフィル帝国のお城は、天使を始祖に持つ王様が使っていたものをそのまま使っているようだ。城の壁に羽のような紋章が刻まれている。白い壁も、羽をイメージしているのかもしれない。
エイシュケル王国の城壁も、同じように紋章が刻まれていたのだろうか。じっくりと眺める暇なんてなかったので、外から見てどんな風に見えるのかを私は知らない。
思わず見惚れていると、ヴィルヘルムさんに急ぐようにと声をかけられた。
慌ててヴィルヘルムさんの後を追い、城内に入る。
「陛下は大変気難しく、お忙しい方です。心を広くもっていただければと思います」
そして玉座の間に向かう道中で、ヴィルヘルムさんは皇帝取り扱い説明なるものを話してくれた。
まず、気難しいので余計なことはあまり言わないように。
次に、忙しいのであまり顔を合わせられなくても気にしないように。
さらに、好き嫌いはとくにないので好みなどは聞かないように。
他にも、人に触れられるのはあまり好まないので気をつけるように、などなど。
「わかりましたか?」
「はい!」
つまり、それとは逆のことをすればいいということだ。
「ところで……」
ちらりとヴィルヘルムさんの目がこちらを向く。どこか言いにくそうにしている様に首を傾げていると、ヴィルヘルムさんはこほんと一つ咳払いをした。
「……あなたの髪色は……灰色、ですよね?」
「いえ、銀です」
きっぱりと言い切ると、ヴィルヘルムさんは微妙な顔をした。
ヴィルヘルムさんの微妙な顔が晴れないまま、玉座の間にたどり着く。
そこでようやく、私は自分の夫となった人に会うことができた。
夜の闇を閉じこめたかのような漆黒の髪に、夕焼けのような赤い瞳。肘置きを使って頬杖をついているせいか、どこか気怠そうに見える。
「俺はお前を妃に迎えるつもりはない」
首を垂れる間もなく、氷を思わせる冷たい眼差しに射抜かれ、挨拶すらもなく、拒絶の言葉を向けられた。
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