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閑話
第50話 化け物と書いてリーベと読む
しおりを挟む付与防具屋『ガイズ』
防具に魔法耐性などの効果を付与してくれる店だ。ただの防具屋ではなく専門的な店として経営しているということは、その道1本で生計を立てることが出来る、ということに他ならない。
私と、私によるサイコキネシスで強制的に運搬されているライアーはダクアを旅立つ前にこの店に寄った。
「あ、リィンさんとダディ」
「ーーーーーー!!!」
声にならない悲鳴が空中から聞こえてきた気がした。
同時に魔法を使うのは魔力をとてもとても食うけど、うるさいのでサイレントも一緒にかけている。
サイレント、便利だよなぁ……。他者の音を封じることも出来るし、自分の音を封じることも出来るし、他人に聞こえなくさせることも、自分に聞こえなくするのも自在だ。
この世界の魔法は伝承魔法だから、応用のきく魔法が多い。私が習得している簡単な攻撃魔法も、大きさを変えたりとか色々バリエーションを付けることが出来るから。
え、というかめちゃくちゃ全力で暴れるじゃん。
「あはは、冗談です。ライアーさん、リィンさん、こんにちは」
「こんにちは」
ベルトを浮かせているので腰から宙吊りの状態のライアー。私が彼にサイレントを使っているのをわかっているので、動きで文句を訴えていた。
読唇術使えないのでごめんなさいね! 早く降ろせお前が女狐だってことバラすぞとか言ってるのはよく分かんない! ぶち殺すぞ。
「マント、似合ってますね」
獣人娘が顔に笑みを浮かべ、そう言った。
「でしょ?」
盗賊退治、というよりはリーベさん捜索の依頼。その報酬で私はマントをタダで貰ったのだ。
しかも既存の服に付与をするのでは無く、獣人娘が私に似合うようにデザインしてくれた服にリーベさんが魔法耐性を付与してくれた。
自分のマントを眺める。
全体的に黒でシンプル。下に着る服を甘くしようが辛くしようが似合う万能デザイン。
ただし、袖口にナイフホルダー。内ポケットはもちろん、マントのポケットと裾に色々仕込めるようになっている。
……何を目指しているんだろう、私。
まぁ、家族(特に双子の方の姉)に負けないようにだが。
「そういえば、近いうちにダクアを離れる、んですよね」
「そう、故に何着か一応購入ぞしようかと。それに私旅は初体験ですて」
「あぁ! それならですね、テントを買うより防水加工された大きめのマントを上から被っておくといいです!」
「ヘぇ!」
「荷物にもなりませんし、場所取りませんし」
イキイキとそれ用のマントを探し始める獣人娘。しっぽがブンブンと振られている。
「えぇ~~~! やだぁライアーちゃんじゃない!」
……ほーらやってきたよ。
店の奥の方、そこから裏声を放ちながらこの街のボスがやってきた。
化け物さんだ。
相変わらずの筋肉ダルマで、ケバッケバに紫の化粧を施している。化けると書いて化粧だが、本当に化け物が生み出されるとは。
「お父さん」
「もうウル! 親父かママンとお呼び!」
「それはそれでどうなのです?」
私この親子にツッコミ切れないや。
パチン、と指を鳴らしてライアーに掛けていた魔法を解く。
「うぐっ」
サイコキネシスとサイレントが同時に解かれた為地面にべチャリと落ちた。
受け身も取れないとは嘆かわしい。それでも前衛職?
「月組に聞いたわよう! あんたらこの街離れるんだってね……ッ! ──これが今生の別れになるとも知らず、男と女は再会を約束しながらその唇を……」
「言いながら近付くなカマ野郎!」
「あ゛ぁん誰がカマだって?」
巻き込まれない限りはこの2人見てるのとても楽しい。
主観的に見れば悲劇でも客観的に見れば喜劇なんだよね。
「そういえば何故ライアーぞ大好きですか?」
「やめろこら」
純粋にこの化け物さんがライアーを気に入った経緯に興味があったので聞いてみると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに顔を輝かせた。
それとは対称的にライアーの顔面はこの世の地獄を見ていますみたいな色に染まっていた。
「そう、あれは6年前のこと……」
予想よりずっと昔だった。
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そう、あれは6年前のこと。
ダクアにはリーベという男がおりました。
「ふぅ……。これで依頼の採取は終わりか」
サッパリと切り揃えられた黒く短い髪。額に垂れる汗を拭って。鋭い目がジリジリと肌を焼く太陽を睨んだ。
そんな、一般的に言うとイケメンの部類に入る男前がおりました。
「──ちょっと待つして」
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私は咄嗟に回想にストップをかけた。
「何よおリィンちゃん」
「ちょっと、待つして」
2回目。
私は語られた言葉を噛み砕いても噛み砕いて、なんかおかしいことに気付いた。
「その男前、誰?」
「アタシだけど」
……。
あ、なるほど!
私はようやく納得出来て手のひらに拳をポンと置いた。
「美化100%!」
「失礼しちゃうわっ! どーう考えてもアタシそのものじゃない! すっぴんだし」
「すっぴん。」
じゃあなんでお化粧するの?
「お父さん、昔はすごくイケメンだったんです。まぁ、6年前なので私もあまり覚えてませんけど」
「10年前王都で開催されたミスターコンテスト。ミスコンにクアドラードで最もスポーティーイケメン部門で堂々たる1位だったわ」
「リーベさんが!?」
「ふっ飛ばすわよ」
化け物なのに!?
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王都の前職を辞めたばかりのリーベは田舎で娘を育てるべく稼ぎのいい依頼をこなしていた。
停戦中だといえど戦時下。
これまた王道的に、リーベは西の森でトリアングロの兵と鉢合わせてしまった。
証拠に、兵士は鎧を着ていた。トリアングロの紋章が付いた鎧を……!
「──お前たちは……!」
「ま、待て! 俺たちは怪しいものじゃ……!」
警戒心を強めた瞬間。
森の奥から一陣の風が吹き抜けた。
それは一瞬の出来事だ。鮮やかな赤が舞う。リーベの目に、男の姿が見えた。
茶色の髪を邪魔にならないようオールバックにした、比較的若めの男。──ライアーだ。
「ッ!」
ガキンッ!
ライアーはトリアングロの兵士を一瞬で殺したかと思うと、そのままの勢いでリーベに斬りかかった。
リーベとてただ斬られるわけにはいかない。
刃と刃がギリギリと音を軋ませながら均衡を保っていた。
「トリアングロの人間か、クアドラードの人間か」
「クアドラードだ」
ライアーの問い掛けにリーベは間髪入れずに答えた。
観察するような視線に耐えながらリーベは、ライアーの乱れた髪を見て──
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「普通に殴りかかったわ」
「あ、そこ惚れるしたとかじゃ無いのですね」
というか、ライアーがトリアングロの兵士を殺したってのが不思議な感じ。
「……なんだよその視線は」
「あまり国とか関係なきって感じのタイプだと思うすてますた」
「はァ……。昔は昔、今は今。詮索しねェっつったろ」
お前は言ったけど私は言ってないね。
私個人は国とか面倒くさくてどうでもいいし、個人で使えるならクアドラードだろうとトリアングロだろうとどっちでもいい。でも立場的にはそう簡単にいかないから貴族って面倒くさいよね。
いっそ白蛇のシュランゲが言っていたようにトリアングロ側について個人の力を増やすべきかな…………面倒くさ。
「その後すぐ、一緒に依頼受けてたやつらがアタシを探しに来たからライアーちゃんは後始末任せて消えてったんだけど」
「あーあー! 聞こえねェな!」
「ライアーうるサイレント」
流れる様にサイレントをするとライアーは静かになった。視界はうるさいけど。
「消える前ね、ライアーちゃんがアタシを見てこう言ったのよ」
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「──お前、中々やるな」
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……何様かな?
「キャー! もー! その時から私の心はトキメキで木っ端微塵!」
「何様かな」
「しかも鼻で笑ったのよぉ!? 乙女にならなくてどーうすんのよ!」
いや、ならなくてもいいんじゃないかな。
あー、あれだ、リーベさんはライアーの夢女子だ。女子かどうかはさておき。
多分リーベフィルター掛かってるせいでライアーが5割増しくらいでかっこよく見えたんだと思う。
命を狙われたという恐怖や興奮から来る不整脈が恋だと錯覚してんだ。
ライアー可哀想…………だとは思わないけど。でも流石に弁明の機会を与えなければ不平等だからサイレントは解除した。
「ライアー何様?」
「何者、とかじゃなくて何様って来るのやめろよ不思議語」
「珍しきことに口に出す言葉と心で思うすたことが一致してるですよ。何様?」
「…………若気の至り様ってやつだ」
カッコつけたのは認めるんだ。
ライアーは視線を逸らしていた。
「お父さん昔騎士だったんだっけ?」
「そうよぉ、アタシ騎士様。ま、ウルを拾ってから危険な仕事はやめとこうって辞めちゃったんだけど」
こっちの方が自分に合ってる。
そう言いながらリーベさんは化け物みたいな自分らしい姿と、嫌われながらもなんだかんだ好かれている店を愛おしそうに見つめた。
「はぇ」
「へぇ」
「──興味なさそうねあんたら!」
でも納得した。
人間のリーベさんと、獣人のウルさんが親子である事に。
応援ありがとうございます!
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