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閑話

第51話 秘密の強制交換

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「グレンさん?」
「ちょうど良かった。俺とお茶しない?」

 一昔前のナンパの様な手法で、普通にナンパに誘われた。



 ==========


 知らない相手でもないし、と思い一緒に適当なカフェに入った。
 異世界だからといって食文化が進んでなかったりとか、そういうわけではなく。食事の質は金銭格差が前世より大きいだけで、金さえ使えば料理チートとか使うまもなく普通に美味い。
 まぁ、私が手作りした料理で人が倒れないかって言われると笑顔で無言を貫くけど。

「それで……」
「俺の、秘密を聞いて欲しくて」

 グレンさんは冷たいお茶を飲み、喉を充分に潤わせると、そう言った。

 はて、グレンさんの秘密?

「それ私が聞くすて命危険とか存在する?」
「……えーっと。あぁなるほど、秘密を共有したからと言って俺の命もリィンの命も危険にはならないよ」

 まだ私の不思議語に慣れてないのか読み込むために数秒の時間を有した。
 はーやれやれ。仕方ないなぁ。他の月組は宿に遊びに来るけど、グレンさんは自主的に狂信する人じゃ無いからなんだかんだ絡む機会は少なかったもんね。

 私はズズっと果実水を飲んだ。

「白華教があるのは教えたな」
「はい。鎮魂の鐘、という組織がクアドラードにあることで白華教と言うすてる、とはご存知ですぞ」

 この世界の葬儀屋さん。
 ──鎮魂の鐘。

 その世界規模の組織が、国ごとの特色に合わせて名前を変えている。クアドラードは白華教。トリアングロは神使教。
 他の国は知らないけど、そんな感じの名前。教と付くが宗教ではなく、『死体放置したらてめーを死体にしちゃうぞ☆』って教えを広めてる組織だと認識している。

 一体、白華教がグレンさんの話になんの関係が……。

「うん。俺な、鎮魂の鐘の枢密院出身」

 …………ん?

「鎮魂の鐘はな、死と死後の世界に関わりのある組織で」

 ちょ、ちょっと待って。

「あ、死後の世界のことを天獄の狭間って言うんだけど」

 まっ。

「天獄の狭間から使者の天使サマがやってきて、んで地上の監視として俺たちの一族を」

「──待つして! 少し! 待つして!」

 私は机を乗り出して対面に座るグレンさんの口を思いっきり塞いだ。
 いきなり声を上げた私に周囲は視線を寄せるが、私の連れが月組だと分かってそっと目を逸らした。関わりあいになりたくないらしい。分かる。

 〝サイレント〟

 自分とグレンさんを包むように魔法を発動した。2人の会話はこれで周囲に聞こえない。
 というか、私が聞きたくない。

「……情報量多すぎでは」
「さっさと話した方がいいと思って」

 話さない方がいいと思います私は!
 というか、私基本的に面倒なことは知りたくないタイプなんだよね! 世界の秘密とか、知ったら後戻り出来なくなっちゃう。

 無知とは罪であるとか言うけど、私は無知は最大の防御策だと思うね。

 だぁってほら! こんなにも胃が痛い!!!!

「それ、本当に聞くすていいやつです?」
「いいやまずいやつ」
「グレンさん!」

 思わず喚く。
 しれっと言ってるけどタチが悪すぎる! この世界、もしかして事情を一方的に語って強制的に無理矢理巻き込もうって人が多いのかもしれない。タチが悪い(2回目)。

「まあまあ、ここまで聞いたなら聞いてけよ。どうせ知ってようが知らぬまいがリィンは関われないんだから」

 その言葉にピタリと動きを止める。

「どういうこと?」
「鎮魂の鐘の総本山は大陸に隠されてあるし、まあまあ手間かかる方法でしか向かえない。それに、関わったって意味がない」

 グレンさんはグイッと飲み物を飲み干した。

「天獄の狭間ってのは死んだ後転生する前に魂がとどまっておく世界だ。そして、狭間では生前の記憶はもう無く、人格だけが残っているし、本能的に次の生へと足を進める。狭間での記憶を無くし、輪廻転生」

 知ってます。

 ……いや、本当に。
 天獄の狭間自体の記憶はないんだけど、前世の記憶が削除され、そして転生する前に時空の狭間に落っこちちゃったから。まぁ、時空の狭間に落ちる前に自動的に天獄の狭間での記憶は消えたみたいだけど。

 つまり時空の狭間という名の地獄での記憶しかないということだけど。

「魂って初期化されて使い回してるんだって。まぁ、俺も教祖サマのお話でしか聞いたことないし、天使サマなんてお目にかかったことないが」

 突然たくさんの情報が流れてきて、普通ならパニックだよ。
 私は転生した、という記憶自体があるから比較的理解出来ている方だとは思うけど。

「鎮魂の鐘はさっさと魂を天獄に送り届けたいから遺体や死体を燃やして処理してるって聞いたけど」
「……聞いた?」
「俺、出身ってだけで普通の一般常識くらいしか知らねーんだよ」

 だから白華教の人間の方が『なぜ火葬という手段で処理しなければならないのか』って言う理由は詳しいらしい。
 まぁ、理由はどうであれ死んだ人間の抜け殻が残っているのは普通にいい気持ちはしないから、処理に全力かけている組織は衛生的に助かるな。あと火葬文化は慣れてるので違和感がない。

「あの、すいません」
「どうした?」

「簡潔にお願いするです」

 多分細かいことを知ったら戻れなくなる。
 多分ね、こういう世界の秘密に関わる話って誰に聞かれるか分からない昼下がりのカフェでジュース飲みながら聞く話じゃないと思うんだ。もうちょっとこう、謎が謎を呼んで真実は……! って感じに来ると思うんだよね。セオリー的に。


 そう思いながらいえば、グレンさんはニッコリと笑った。

「俺、お前が女狐だって知ってる」






 ……………………………………は?

「よし、話は終わったな。会計は俺がするか──」
「待つして待つして待つして待つして待つして!」

 席を立つグレンさんの服を思いっきり引っ張って踏ん張る。

「文脈と! 経緯と! 情緒ぉ!」

 どーいうことですかーー!?
 一体どうやってそう言う話に辿り着いたのか全くもって意味が分からないんだけどぉ!

「……さっきの話に戻るけど。俺の一族って天使サマに加護を貰ったわけ」
「監視、ですたっけ?」
「勢いよく出した情報なのによく拾えるな。そう、地上の監視」

 そりゃ基礎知識がありますから。転生って名前の。

 グレンさんは椅子に座り直した。サイレント、解かなくて良かった。本当に良かった。習得を決めた過去の私もナイス。

「俺たちは死霊使い。ざっくり言えば。魂の形を見ることが出来る種族」
「魂の形?」
「そう。つっても見るだけで全然意味は無いんだけど。唯一使い所が分かるのは」

 グレンさんが私の心臓を指さした。

「いくら変装しようが、魂で判断する俺には同一人物にしか見えない」

 ヒュッ。と喉が悲鳴を上げる。

「まぁ、正確に言うと変装だけじゃなくて転生したとしても本質的な魂を見てるから見分けが付くんだけど」

 え、つまり。
 女狐の格好をしても、グレンさんには私に見えて。
 リアスティーンで会ったとしても、リィンに見える。

 へ、変装殺し……!


「んで、たまたまお前が正体だと知った俺は──」

 確信している男に誤魔化しなんてものは効かない。
 私は思わず警戒を強める。
 一体、この弱点をどう使う気だ。

 ……本当にいざとなれば、この男を殺して。

「──アンフェアだからお前にも秘密を教えようと思ったってわけだ」
「へぁ?」

 予想外の言葉に思わず素っ頓狂な声が漏れる。

「だってそうだろ? 一方的に秘密を握るのも気味が悪いし、握られているのを知らないのも申し訳ない」
「……?」

 え、そんなこと、思う?
 普通に秘密は握るだけ握るし、相手に悟られてないならカードになるし、まかり間違っても自分の秘密まで漏らしたりはしないけど。

「だから、俺の秘密を聞いて欲しかったんだ」

 グレンさんはニカッと笑って私の頭をクシャクシャになるまで撫でた。

「頑張れよ。俺らの主人公」

 ちなみにリックも気付いてるみたいだぞ。

 その言葉を聞いて、私は顔を覆った。

「えっどうした」
「申し訳ごさいませんです……」
「なんでいきなり謝った!?」

 汚い人間でごめん。
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