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王都編下
第78話 そして真犯人はちょっと後悔した
しおりを挟む色々な手続きがあり、結局徹夜となってしまった私です。牢屋で寝ておくんだった。
朝の鐘もまだ鳴らぬ早朝に宿の安眠民に戻ってきて、宿の人が同情したような顔で軽くご飯作って来てあげると言ってくれたので眠気もまだ来ないしお言葉に甘えることにした。これ、多分9時くらいに吐きそうなくらい眠くなるやつ。ピピーッ、急性胃炎です大人しく寝なさい。寝かせてくれなかったんだよッッッ!
「私でもしんどき物なのにライアー平気そうですね?」
「……歳のことは言うな」
「言ってなきです」
言葉にしてないだけで言ってるけど。
「俺は普段この時間くらいに戻るからな」
「暗殺でもすてる?」
「してねェよバカぶん殴るぞ?」
「最近ライアー私に躊躇ぞ無さすぎでは!?」
ぶん殴られた脳天を押さえながら涙目で訴える。
殴るぞって言いながらもう殴ってんだよ! 拳骨で! 私が石頭じゃなかったら頭かち割れてたよ!?
いやまぁさ、色街っていうかそういう店に言ってるのは知ってるよ。
結構な頻度行ってるなーーって思って。いや私女だし子供だし生まれてこの方性欲感じたことないから分かんないけどさ。
「そんな溜まる?」
「年頃の娘に話すわけねぇだろボケ」
「年頃の娘に向く言葉じゃ無き事は確かですぞね」
否定も肯定もしなかったなコイツ。
これは肯定と見て間違いなさそうかなぁ。うーん、将来結婚したとして、男性の一般的な性欲を考えると愛人作らせる方が良さそう。
私の実家が辺境伯であることを考えると私が夫人であることは確実。子供や跡継ぎ問題は第二夫人とかに任せて、領地経営や社交界とかに専念する方がいいのかな……。
社交出来る程の語彙力(言語的な意味で)無いけど!!
この歳になるまで言語的な問題で婚約者が居ないことを考えると本気で結婚出来ない気がしてきたな……。貴族の娘として、もしくは冒険者として。将来の選択肢を増やしておかなきゃまずい。政略結婚所の話じゃない。
「朝っぱらからお前らなんの話してんの?」
呆れたような顔でペインが現れた。
「ッ、ペインーーーー!! 聞くすて! ねぇ! 私ぞ嘘つき無きって証明すてーーー!?」
「うわっ、なん、何、なになにどうしたんだ?」
突撃した私をバランス崩しながら受け止めてくれる。
ヒッッッデェ冤罪吹っかけられたんだけどこっちはさ!
「何その深夜テンション……。寝てねーの?」
「お前だって寝てねぇだろ。俺らが帰ってきた時もぬけの殻だったじゃねぇか」
「どこゆきてたーーー!?」
実は宿に戻ってこれた瞬間ペインの魔法を見込んで寝起きドッキリ仕掛けようと思ったのにいなかった。
だからホールで待機していたってのもある。
「あーーー、うん、まァー。ちょっと、うん。ラウトは乗り気じゃなかったし、金も入ったし。うん、ライアー助けてくれ」
「……なるほど。まぁまぁリィン、落ち着こうぜ。ほら、リーヴルさんが身近に居ながらその素振りを見せねぇからてっきり本当に男か疑っていたが。ペインおぼっちゃまくんもちゃんと男だったって事だよ」
「ライアーに頼ったオレがバカだったー!」
ぴえんと泣き喚くペインが私の肩に顔を埋めた。
本当かどうかはさておき察した。
「なんか……ごめんです?」
「謝るくらいなら気付かないフリしてくれよー!?」
わざとらしい態度で泣き崩れている。
なんで猫かぶってるのこの人。
まるで誰か知らない人に見られているような…………。
キョロキョロと宿の中を見回す。人影は無い。
部屋の隅……じっと見つめる。
あそこ、なんっっか怪しいな。過去ってほどじゃないけど経験したことある何かが起こっている気がする。
「……なにゆえ(監視に)気付くすた?」
「オレは勘」
「ちなみに俺は経験」
あ、これ見られてるとみて確信して良さそう。
ペインだけじゃなくライアーも気付いているというこの始末。
「つーかリィン遅くねーか? オレ宿入った瞬間気付いたけど」
「いや、魔力ですけど。この王都全体的に発動すてある故にちょっと放出されるすた魔力ぞ察知しずらきというか……これがダクアなればすぐに気付くすたというですか……」
「チッ、煩わしい。下手に動けねぇ」
「ねェお前ら何やったの? ついに犯罪に手を染めた?」
「──まだ染めて無きぞギリギリ!」
「──バレるようなヘマはしねぇ」
「お前らさ…………そんなんだから……」
頭が痛いと言わんばかりにペインがため息を吐いた。失敬な。
「それで何があったんだ?」
「かくかくしかじかまあるいおめめ」
「なるほど」
「なるほどじゃねぇんだよなんで分かるんだよ」
ペインが頷きライアーが呆れた目で突っ込んだ。
私とペインが顔を見合わせる。
伝わったのならよし。でもこれ貴方、心読んだりとか過去を見たりとかそういうのが出来るとか言わないよね?
「オレが積極的に関わりたくない案件なのはわかった。後は頑張れ」
「冤罪ぞぶっかけられるすたです助けてよペインーー! 銀貨3枚あげる故に!」
「そんなしょっぱい依頼料をはいそうですかって受け取るわけねーーーだろ準優勝者さんよ! 金額50枚賞金出ただろ!」
「1人殺して50枚!」
「あ? 堂々とした殺害予告か?」
やっべ本音が。
まだ賞金を手に入れてないから今日仮眠取ったら冒険者ギルド行かなきゃ。というか朝の鐘鳴ったら行こうかな。後もう少しなら深夜テンション引きずって起きていられるし。
「第2王子誘拐疑惑で王城に捕えるされた」
「……ついにやったか」
「やってねーーーーぞ! 分かるして言ってますぞね!? てめぇその目は飾りか!」
ケラケラ笑い始めるペインにキレ散らかす。
すると宿のおじさんが料理片手にやってきたのでありがたく朝ごはんを頂戴した。
「はーーー。これからどうするよ」
深くため息を吐いてライアーが椅子に腰掛ける。
私もペインも同時に席に着いた。
「もうダクアにぞ帰るましょう。疑いの目は基本疑いの目。監視ぞあってもやましき事ぞ無いです故に」
「……やましいことあるから困るんだよな」
「ライアー今何言うすた?」
「やましいってかやらしいコトだけど」
「言葉の意味ぞ細かく聞くすたわけじゃなきなのですけど意味深野郎!」
そういう怪しめな黒寄りの発言するのやめてもらっていいですか!? 私の正体辺境伯令嬢なので実家に帰れば疑い晴れるし! いや、うん、辺境伯令嬢として言語的な問題で生きれなくなったら冒険者やらざるを得ないかもしんないけどさ。だからちょっとこの問題に巻き込まれたの将来設計的に面倒臭いかなとは思うけどさ。
一人百面相をしているとペインは苦笑いを浮かべていた。
「でもさー。学の無いオレでもお前らがそんなみみっちくてクソめんどそーな事するとは思えねーぜ? お前らが第2王子サマを誘拐した犯人だって決めつけた奴、ぜってー馬鹿だ。間違いないな」
「ぐぬぬ……誰ぞこんな馬鹿みたいなへっぽこ推理すたの……あの大臣は多分違うですぞね……!」※目の前
「どの大臣だよ。平民にそんな事分からねーから」
同意を求められても困る、と言いたげにペインが眉を下げた。
「王都に古く住んでるやつは通行記録の結界魔法は知ってるから言うけどさ、多分お前らが王都にいるのも邪魔なんじゃね? だってほら、犯人が王都を出りゃ王子サマは必然的に王都の外に連れ出されるかずるだろ?」
「殺しすてでも?」
「そう、多分な。まあこのへっぽこ推理の黒幕がもしかしたら事件が進展させるためにお前らを王都から追い出そうとしているのかもな。そこに王子サマの生死は必要なくて、むしろいなくなっても嬉しいーー! ってやつなら」
なるほどね。
何言ってるんだこいつらみたいな感じのライアーの視線を無視して考える。
ペインの言う通りなら『冤罪へっぽこ推理』をしたクアドラード王国側の頭脳。そいつが私たちを『犯人だ!』って言って警戒させると考えられる未来は2つ。
一つ、王都内の協力者と接触した犯人の人の流れから王子を見つけ出す。
これは『周囲を探る』ってことに繋がるだろう。それを探るのが、今私たちが見ている監視役ってわけ。
魔力が発動してあるから魔力察知に優れた私と視線に気づきやすい男2人がすぐに気付いた事は笑えるけど。多分監視役、透明化の魔法か何かを使っているだろうな。
そしてもう一つ、王子が死んでも構わないから王都から犯人を追い出し事件の進展を望む。
この場合は『生活圏から厄介者を追い出す』と『第2王子の排除』を望んでいるとみて間違いない。
第2王子が生きててもいいけど死んでくれたらラッキー! なんて人間は派閥の敵対者か継承権を狙う第3王子及び第4王子の本人とその周辺だろう。
つまり、『王都内にいたら冤罪でめちゃくちゃ疑われる』『王都外に出れば黒幕(王国側と真犯人側)の思い通りになる』ってことね。ウンウン。
私たちが犯人、なーんて決めつけるような馬鹿の。
そんな馬鹿の思い通りってわけね。この、私が。
「…………………………すぅーーーー」
私は肘を机について口元に手を当てながら目を開いた。
「──両方の黒幕ぶん殴る」
ペインが視界の端っこでめちゃくちゃ引き攣った笑いを浮かべていた。
待ってろよ、へっぽこ推理の黒幕と第2王子誘拐の黒幕。
私の地雷を易々と踏んだことと生まれたことを後悔させてやる。
応援ありがとうございます!
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