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戦争編〜第三章〜

第159話 十人十色と言うけれど

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「だから! 俺はここの人達を助けたいって言っているんだよ!」
「そんなこの国の常識とかけ離れたことをしてみろ! 隠密活動の意味が無くなるだろうが!」

 こちら現場のリィンです。

「すぐ目の前に救えるかもしれない命があるのに諦めるって言うのかよ!」
「あぁそうだ諦めろ! 命の取捨選択位出来る様になれ! お前が言っているのはただのわがままだ!」

 夜番が終わり十分な睡眠を取って起きると、そこには喧嘩をしている月組が居ました。

 なんでやねん。

「……おはようござります。単刀直入一刀両断で申し訳ござりませぬが」
「なんて言いました? あ、おはようございます」

 8時間はぐっすり寝たテントから起き上がってすぐの騒動。倉庫の中とはいえどこで聞き耳立てられているか、そもそもエリアさんの信頼度、諸々考えた(一秒)結果。

「──月組、今すぐここにぞ正座しろ。うるさき」

 お叱り胃痛タイムに入るのだった。



「で、私が寝る最中に一体何ぞ起こるすたのですか?」

 頭にげんこつ一発ずつぶち込めばようやく冷静さを取り戻したのか、喧嘩の勢いをしぼませた2人に問いかけた。

「その……」

 事情はカナエさんが説明してくれた。

 私達が睡眠を取っている最中、見張りはグレンさんとエリィのコンビになった。その間、リックさんとカナエさんは集落の中を見回ったらしい。
 集落は年寄りか怪我人か子供しか居ないらしく、満足に扱えない体で畑を耕したりなどしているらしい。

 リックさんは集落の人間と話を何度かしたようで、この集落にいる人間は弱者搾取の生活に疲れ果て、または生活に必要なリソースすらも搾取された人が殆どらしい。働き盛りの健常な男女が居ない理由はそういうことだろう。

「子供が」

 リックさんがポツリと呟く。

「子供が教えてくれたんだ。盗賊に友達が殺されたんだ、って。見せしめらしい。それで、その子の遺体を皆で食べたんだって。……そうしないと食べるものが無いから」

 その言葉にエリアさんが小さな動きで口元を抑えた。吐きそうという訳ではなく、感情を読み取られないようにする仕草だ。

「その時スダンさんがやってきてね、リック君が思わず詰め寄ったんだよ」

 カナエさんが引き継ぐ様に説明を繋げた。

 この集落は予想通り盗賊に占拠されているらしい。集落からは生きる最低限だけを残された搾取、盗賊の基本的な生業は商会を襲うことらしい。集落と盗賊行為には何も繋がりがないらしく、盗賊行為が成功しようが失敗しようが搾取される生活には影響がないらしい。いい意味でも、悪い意味でも。だから私たちみたいな商会を逃がそうとする様だ。

 ただ、その盗賊というのが厄介で、どうやら幹部の子飼いらしい。自称ではあるのだが。本当に偽っているだけの自称、という可能性は低い。なぜなら幹部の名を借りる行為は、リスクが高すぎる。



 そこからは簡単に察することが出来る話。リックさんはいつものようにグレンさんに説明をして、そして言い合いになった。
 リックさんは集落の人を助けたい、グレンさんは危険性が高すぎる、と。

「なるほどね」
「そういう事ですか」

 納得いった、といった様子で私とエリアさんが頷いた。

「勝手な考えだってわかってる。変装もしたからあんまり目立っちゃダメだってのもわかってる。でも、子供が泣いて助けてって言われたら助けるしかないだろ……!」
「お前っ、一体何様なん……」
「分かってるよ! 街ひとつ、国ひとつ、誰かに助けられてる立場の俺が、自分よりも苦しんでるからって助けようって思うことがどんだけ傲慢なのか! 分かってるよ! 嫌ってほど思い知った! 俺の目の前に落ちてくるのはこれだけじゃない! もう、泣くほど分かってんだよそんなこと!!!!」

 リックさんが苦しむ様に叫んだ。
 その様子に私はともかく、グレンさんが非常に驚いた。

「……はぁ。それで、この問題に関して他の人はどう思うですか?」
「俺は捨て置くべきだ。冷静に考えてそっちの方が合理的だ。無駄に危険な橋を渡る必要も無いだろ」

 間髪入れずにグレンさんが発言した。

「幹部と繋がっているって可能性があるなら尚更だ。リィンが苦労してこの伝手をもぎ取ったのを知ってる、この隠れ蓑を無駄には出来ない」

 静かに、しかしがんと譲らずだ。まぁ確かに苦労はした。金髪を露出することで危険性が高かったのだけど、それ以上に現地の、しかも国を背後につけているスパイ組織と繋ぎを取れたのは危険を犯す以上のメリットがあった。

「カナエさんは?」
「うぇっ、あたしも!?」

 話を振られるとは思っても見なかったのか驚いた様子だったがカナエさんはそれに応えた。

「あー……あたしは戦えないし、頭も言い訳じゃない。でも……見捨てるとか、なんかすごく嫌だな……。助ける、なんて器用な真似あたしにできっこないから逃げて貰うように言うとか……。正直知らないままの方が良かったかも、あたしの国民性、知らないフリとか見ないフリとか得意だしさ!」

 カナエさんは情に弱いタイプだよね。あと同調性。とにかく問題から目を逸らして争いを避ける傾向にある事なかれ主義。けど、知ると何かをしなくちゃやと思うのは個人の性格だろう。第三都市から国境基地まで駆け抜けた彼女の行動力は評価に値する。

「エリィは?」
「……私は、リックさんと殆ど同じ意見、ですわ。でも唯一違う点と言ったら、私はこの行為が傲慢だと思わない事ですの。何故誰かを助けることが偉そうになるのかしら?」

 最初はしょぼんと下を向いていたけど、最終的には首を傾げていた。難しくてよく分からない、と言われる事を予想してたから意外だったけど、らしい発言だ。

「エリアさんは?」
「私、ですか。……そうですね。グレンさんと同意見、でしょうか。ここで盗賊を退治したとしても問題を先延ばしにしているだけで根本的な解決には至りません。本当に救いたいのであれば戦争を解決し、政治に参加し、またはそういった立場の貴族とコネクトを取り集落問題に取り組むべきかと」

 うーん、曖昧な濁し方だ。そして答え方が完全に貴族視点。決定的や具体的な考えは言わず、問題点を自分達が起こす事象による影響から集落問題の解決にすげ替えている。論点をずらすというか、無視するしかない意見、にしやがったなコイツ。
 まるで現状やることはないので意見はお任せします、と言わんばかりと発言だ。

 ……気付いているのは私だけか。
 グレンさんと同意見、って枕詞が付いたから発言をグレンさんに任せている形になる。

「それでリィンさんは?」

 こちらの心情を知ってか知らずか、エリアさんは私の方を向いた。

「私に害があるかないか、以上!」
「以上って……」

 今グチグチ言ってるけど、何も起こってないんだよね。問題。
 盗賊が私に害をなせば潰す。けれど集落も盗賊も両方共、私にとっての利益にも不利益にもならない。
 手を出したら不利益になるかもしれない、という可能性論は私にとっては議論外。私、専守防衛主義だから。反撃するけど。

 報復と復讐は蜜の味って言わない? 言わないか~。

「──この問題に関すて、私は意見を出しませぬ。どうするかは滞在中、月組の2人で決めるすてください」
「は!?」
「マジで?」

 月組は揃って驚きの表情をした。

「さて、それでは2日目からはコンビぞ入れ替えするです。あ、現段階のリックさんとカナエさんは引き続き荷物の監視ぞ。それで今夜は──」

 活動方針は任せ、エリアさんと再びコンビを組むのは普通に嫌なので別の組み方を提示する。

 さて、どうなるかな。
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