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第4章・立ち上がったのは史上最凶の悪役令嬢。
01ジュリエッタ・ディアマンテ伯爵令嬢。
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僕、つまりクロガネ・ノワールはジュリエッタ・ディアマンテ伯爵令嬢に仕える、いわゆる執事だ。
いや…………、執事……まあ執事でいいか。
訂正するのであれば、ディアマンテ伯爵はもう伯爵位を剥奪されジュリエッタお嬢様は伯爵令嬢ではないということだろう。
ある日突然、状況は一変した。
ディアマンテ家の屋敷に国軍が押し寄せて、旦那様と奥様を捕らえた。
この時は何が理由でこんなことになったのか全くわからなかったけど。
どうにも旦那様は国政に疑問を持ちその在り方を正すために政治的主導権を握るローゼンバーグ公爵家を貶める策略に参加した容疑をかけられた。
実際はそれには無関係だったようだけど、別件というか旦那様は革命思想を持って活動していたようなのでそっちが本命なのだろう。
学のない僕には旦那様の思想や行動の正誤もわからなければ善悪もわからないけど。
とにかく僕は国軍からディアマンテ家を守るために暴れに暴れた。
ボッコボコに殴られながらも、なんとか一度旦那様を取り返した際に。
「私たちのことは良い……っ、ジュリエッタを、ジュリエッタを連れて逃げろっ! 頼む……」
旦那様は僕にそう命じた。
僕は旦那様の言葉の通りに、ジュリエッタお嬢様を連れて逃げ出した。
その直後に、屋敷から火の手が上がった。
旦那様と奥様がお嬢様を逃がすために国軍と相討ちを狙ったのか国軍が旦那様たちを追い詰めるために火を放ったのか、わからないし正直どうでもいい。
燃え盛る屋敷よりも、取り乱して泣き叫んで暴れるお嬢様を押さえるのに必死だったことの方が記憶に残っている。
それが半年前。
僕はその間、国軍や捜査機関からの追っ手からお嬢様を連れて逃げ続けている。
屋敷を出る前に旦那様から王都内に何ヶ所かあるセーフハウスの場所を知らされていたのでそれらを回り何日か居を構え、隠してあった現金や宝石などを回収してギリギリで逃げたりギリギリで見つかったり。
最初のひと月で全てのセーフハウスを潰されてしまい、僕らは王都の裏町に身を隠した。
裏を仕切るゴロツキに金を握らせ、宝石を換金したりして、身を隠せる家を見つけて。
それでもこの国の捜査機関はとても優秀で、何度も追い詰められてきた。
それを僕は、とにかくぶん投げて乗り切った。
お嬢様の安眠を妨げる真夜中の突入をしてきた捜査機関。
街中で追っかけ回して来た国軍の兵士。
宝石の換金で足元見てきたゴロツキ。
僕らを売った宿屋の親父。
例外なく、ぶん投げて腕を極めてへし折って腱を切って落として乗り切った。
確認をしていないからわからないけど、多分僕は何人か人を死に至らしているかもしれない。
もちろん僕もやり返されたし、何度か死にかけた。
自分で傷口を縫って焼いて塞いだり、現在進行形で肋骨も折れてはないにしても痛めている。
辛いよ。
いやもう、痛いし、怖い。
もう随分まともに寝てないし、投げて叩きつけたり関節極めてへし折るのもやりたかない。
僕は確かにそれなりの使い手だし、多分まあまあ強い方なんだと思うけど別に好戦的なわけでもない。
そして何より――。
「それでねノワール。お父様ったら紅茶を零してしまって、服にシミが出来ることより書類を汚してしまうことに慌ててたのよ。本当にお父様ったら仕事が一番ですのよ。それでね――」
お嬢様はボロボロの宿の軋む椅子に優雅に座りながら、半年以上前の出来事をまるで先程の出来事のように嬉々として語る。
これが一番、辛いんだ。
半年前、屋敷が燃え上がりご両親と生活と地位と思い出を、人生が焼かれていくのを目の当たりにしたことにより。
壊れてしまった。
お嬢様の心は、砕けてしまった。
今日はまだ良い方だ。
お嬢様は今、全てが無かったことのように半年以上前に戻ってしまっている。このエピソードはたしか去年の暮れくらいの事だったと思う。
他にもぷつりと糸の切れた人形のように力なく動けなくなってしまう時もあれば、力いっぱい無茶苦茶に泣き叫んで暴れてしまうこともある。
いずれにしても、お嬢様の時間は半年前のあの日から止まってしまっているのだ。
お嬢様は正常に現状を認識出来ていない。
いや…………、執事……まあ執事でいいか。
訂正するのであれば、ディアマンテ伯爵はもう伯爵位を剥奪されジュリエッタお嬢様は伯爵令嬢ではないということだろう。
ある日突然、状況は一変した。
ディアマンテ家の屋敷に国軍が押し寄せて、旦那様と奥様を捕らえた。
この時は何が理由でこんなことになったのか全くわからなかったけど。
どうにも旦那様は国政に疑問を持ちその在り方を正すために政治的主導権を握るローゼンバーグ公爵家を貶める策略に参加した容疑をかけられた。
実際はそれには無関係だったようだけど、別件というか旦那様は革命思想を持って活動していたようなのでそっちが本命なのだろう。
学のない僕には旦那様の思想や行動の正誤もわからなければ善悪もわからないけど。
とにかく僕は国軍からディアマンテ家を守るために暴れに暴れた。
ボッコボコに殴られながらも、なんとか一度旦那様を取り返した際に。
「私たちのことは良い……っ、ジュリエッタを、ジュリエッタを連れて逃げろっ! 頼む……」
旦那様は僕にそう命じた。
僕は旦那様の言葉の通りに、ジュリエッタお嬢様を連れて逃げ出した。
その直後に、屋敷から火の手が上がった。
旦那様と奥様がお嬢様を逃がすために国軍と相討ちを狙ったのか国軍が旦那様たちを追い詰めるために火を放ったのか、わからないし正直どうでもいい。
燃え盛る屋敷よりも、取り乱して泣き叫んで暴れるお嬢様を押さえるのに必死だったことの方が記憶に残っている。
それが半年前。
僕はその間、国軍や捜査機関からの追っ手からお嬢様を連れて逃げ続けている。
屋敷を出る前に旦那様から王都内に何ヶ所かあるセーフハウスの場所を知らされていたのでそれらを回り何日か居を構え、隠してあった現金や宝石などを回収してギリギリで逃げたりギリギリで見つかったり。
最初のひと月で全てのセーフハウスを潰されてしまい、僕らは王都の裏町に身を隠した。
裏を仕切るゴロツキに金を握らせ、宝石を換金したりして、身を隠せる家を見つけて。
それでもこの国の捜査機関はとても優秀で、何度も追い詰められてきた。
それを僕は、とにかくぶん投げて乗り切った。
お嬢様の安眠を妨げる真夜中の突入をしてきた捜査機関。
街中で追っかけ回して来た国軍の兵士。
宝石の換金で足元見てきたゴロツキ。
僕らを売った宿屋の親父。
例外なく、ぶん投げて腕を極めてへし折って腱を切って落として乗り切った。
確認をしていないからわからないけど、多分僕は何人か人を死に至らしているかもしれない。
もちろん僕もやり返されたし、何度か死にかけた。
自分で傷口を縫って焼いて塞いだり、現在進行形で肋骨も折れてはないにしても痛めている。
辛いよ。
いやもう、痛いし、怖い。
もう随分まともに寝てないし、投げて叩きつけたり関節極めてへし折るのもやりたかない。
僕は確かにそれなりの使い手だし、多分まあまあ強い方なんだと思うけど別に好戦的なわけでもない。
そして何より――。
「それでねノワール。お父様ったら紅茶を零してしまって、服にシミが出来ることより書類を汚してしまうことに慌ててたのよ。本当にお父様ったら仕事が一番ですのよ。それでね――」
お嬢様はボロボロの宿の軋む椅子に優雅に座りながら、半年以上前の出来事をまるで先程の出来事のように嬉々として語る。
これが一番、辛いんだ。
半年前、屋敷が燃え上がりご両親と生活と地位と思い出を、人生が焼かれていくのを目の当たりにしたことにより。
壊れてしまった。
お嬢様の心は、砕けてしまった。
今日はまだ良い方だ。
お嬢様は今、全てが無かったことのように半年以上前に戻ってしまっている。このエピソードはたしか去年の暮れくらいの事だったと思う。
他にもぷつりと糸の切れた人形のように力なく動けなくなってしまう時もあれば、力いっぱい無茶苦茶に泣き叫んで暴れてしまうこともある。
いずれにしても、お嬢様の時間は半年前のあの日から止まってしまっているのだ。
お嬢様は正常に現状を認識出来ていない。
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