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第3章・勘違いされたのは最も公平で善意の貴族令嬢。
05エリィ・パール。
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かつて何人目かの異世界転生者の方が、民や一部の貴族を先導して奴隷解放に乗り出したのです。
これは二百年以上前のことです。
確かに奴隷制は人権的な部分や倫理的な面での問題はあります。
現在では奴隷制は殆ど廃止されており、刑の執行としての犯罪奴隷しか残っていません。
ただ、現実的な問題としてかつてこの国が今ほど裕福ではなかった頃は人が食べていく為の最後の受け皿としての側面もあったのです。
故に当時の奴隷解放運動は、奴隷の方々の中で奴隷ですらなくなったらどういう風に処分されるのか野垂れ死にするしかないのではないかという恐怖が募り。
奴隷の方々は結託して、自分たちを守るために奴隷解放運動をする者たちに暴力を用いた主張を行ってしまったのです。
その結果、混乱の末に多くの命が失われました。
異世界転生者は良くも悪くも、影響力が強すぎるのです。
そういった混乱を避ける為に、一つの法が制定されました。
異世界転生者保護法。
進んだ知識を持つ異世界転生者をすみやかに保護し、国家で影響力を調整する為の法です。
これは異世界転生者を対象としたものではなく、異世界転生者と関わる人間を対象としたものなのです。
異世界転生者の知識や主張を、悪用する者を罰する為の法律です。
技術革新による経済の混乱や兵器開発を誘発し、利益を独占するようなことを防ぎ。それを過激に防ごうと異世界転生者の方を拉致したり命を狙うなどのトラブルから守る為のものでもあります。
まあただ。
この法は制定以来百五十年以上、一度も適用されていません。
誰も存在すら覚えていないような法ですが、|列記れっき》とした有効な法律です。
何故こんなマイナーな歴史の授業でほんの少しだけ触れて試験にも出ないようなものを、普通の学業成績を収める私が知っているのかと言えば。
この法律を作ったのが、当時のローグ侯爵。つまり私のお爺様のお爺様のお父様なのです。
百五十年前のローグ侯爵は、一人の異世界転生者に出会って行動を共にした際の記録を残している。
その時点で既に過去の奴隷解放運動からなる事件から異世界転生者の方はトラブルメイカーと同義とされており、後見人としてしっかりと手綱を握れる貴族家が預かることになったのです。
端的に言って、当時のローグ侯爵はとにかく異世界転生者に振り回されて大変な思いをしたと言います。
命の危険に晒されるような場面にも巻き込まれ、正直ちょっとした冒険小説よりハラハラする内容でした。
その経験から当時のローグ侯爵は晩年、異世界転生者保護法案をねじ込んで立法まで漕ぎ着けたのでした。
まあまだ彼女が異世界転生者である確証はないので――。
「ディーン、調べて欲しいことがあるの」
「かしこまりました。お嬢様、なんなりとお申し付けください」
私は執事のディーンに、彼女について調べてもらうことに致しました。
ディーンは線が細く、身長も私より小指の爪ひとつ分ほど低いのだけれども。
私が彼に恋をしているという点を除いても、公平な視点で優秀です。
いや、優秀だからこそ恋をしたのかもしれない。幼き頃から私はディーンに助けられ続けています。
身分の差が故に、現状では結ばれることはなく実ることのない恋心ですが。
まあそれは今は置いておいて。
そんな優秀なディーンからの報告を聞く。
彼女の名前は、エリィ・パール。
北西部の生まれで、実家は靴職人で卸だけではなく販売店も営んでいるようです。
両親ともに平民で、特別な教育を受けたわけでもないのに学校での成績は常にトップ。
さらに実家の靴屋ではスニーカーと呼ばれる運動靴や、つま先に金属板を仕込んだ作業靴などの機能的で革新的な靴を製造販売しているらしい。
無論、これは彼女が子供の頃に考案したものとのこと。
地元では神童と言われ、誰も聞いたことない楽曲を口ずさんでいたという。
実家の靴屋は現在スニーカーや作業靴に目をつけた貴族家により、生産数と販路の拡大をしている。
成績も申し分なく貴族の後押しもあり、彼女は特別修学制度にて学園へと入学を果たした。
学園での彼女には友人……いや、やや恋仲に発展しそうな男子生徒が三名ほどいるらしい。
無論、三人とも貴族家の子息のようです。
これは二百年以上前のことです。
確かに奴隷制は人権的な部分や倫理的な面での問題はあります。
現在では奴隷制は殆ど廃止されており、刑の執行としての犯罪奴隷しか残っていません。
ただ、現実的な問題としてかつてこの国が今ほど裕福ではなかった頃は人が食べていく為の最後の受け皿としての側面もあったのです。
故に当時の奴隷解放運動は、奴隷の方々の中で奴隷ですらなくなったらどういう風に処分されるのか野垂れ死にするしかないのではないかという恐怖が募り。
奴隷の方々は結託して、自分たちを守るために奴隷解放運動をする者たちに暴力を用いた主張を行ってしまったのです。
その結果、混乱の末に多くの命が失われました。
異世界転生者は良くも悪くも、影響力が強すぎるのです。
そういった混乱を避ける為に、一つの法が制定されました。
異世界転生者保護法。
進んだ知識を持つ異世界転生者をすみやかに保護し、国家で影響力を調整する為の法です。
これは異世界転生者を対象としたものではなく、異世界転生者と関わる人間を対象としたものなのです。
異世界転生者の知識や主張を、悪用する者を罰する為の法律です。
技術革新による経済の混乱や兵器開発を誘発し、利益を独占するようなことを防ぎ。それを過激に防ごうと異世界転生者の方を拉致したり命を狙うなどのトラブルから守る為のものでもあります。
まあただ。
この法は制定以来百五十年以上、一度も適用されていません。
誰も存在すら覚えていないような法ですが、|列記れっき》とした有効な法律です。
何故こんなマイナーな歴史の授業でほんの少しだけ触れて試験にも出ないようなものを、普通の学業成績を収める私が知っているのかと言えば。
この法律を作ったのが、当時のローグ侯爵。つまり私のお爺様のお爺様のお父様なのです。
百五十年前のローグ侯爵は、一人の異世界転生者に出会って行動を共にした際の記録を残している。
その時点で既に過去の奴隷解放運動からなる事件から異世界転生者の方はトラブルメイカーと同義とされており、後見人としてしっかりと手綱を握れる貴族家が預かることになったのです。
端的に言って、当時のローグ侯爵はとにかく異世界転生者に振り回されて大変な思いをしたと言います。
命の危険に晒されるような場面にも巻き込まれ、正直ちょっとした冒険小説よりハラハラする内容でした。
その経験から当時のローグ侯爵は晩年、異世界転生者保護法案をねじ込んで立法まで漕ぎ着けたのでした。
まあまだ彼女が異世界転生者である確証はないので――。
「ディーン、調べて欲しいことがあるの」
「かしこまりました。お嬢様、なんなりとお申し付けください」
私は執事のディーンに、彼女について調べてもらうことに致しました。
ディーンは線が細く、身長も私より小指の爪ひとつ分ほど低いのだけれども。
私が彼に恋をしているという点を除いても、公平な視点で優秀です。
いや、優秀だからこそ恋をしたのかもしれない。幼き頃から私はディーンに助けられ続けています。
身分の差が故に、現状では結ばれることはなく実ることのない恋心ですが。
まあそれは今は置いておいて。
そんな優秀なディーンからの報告を聞く。
彼女の名前は、エリィ・パール。
北西部の生まれで、実家は靴職人で卸だけではなく販売店も営んでいるようです。
両親ともに平民で、特別な教育を受けたわけでもないのに学校での成績は常にトップ。
さらに実家の靴屋ではスニーカーと呼ばれる運動靴や、つま先に金属板を仕込んだ作業靴などの機能的で革新的な靴を製造販売しているらしい。
無論、これは彼女が子供の頃に考案したものとのこと。
地元では神童と言われ、誰も聞いたことない楽曲を口ずさんでいたという。
実家の靴屋は現在スニーカーや作業靴に目をつけた貴族家により、生産数と販路の拡大をしている。
成績も申し分なく貴族の後押しもあり、彼女は特別修学制度にて学園へと入学を果たした。
学園での彼女には友人……いや、やや恋仲に発展しそうな男子生徒が三名ほどいるらしい。
無論、三人とも貴族家の子息のようです。
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