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第4章・立ち上がったのは史上最凶の悪役令嬢。

05逆襲を始めましょうか。

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 荒唐無稽こうとうむけい与太よたな考えだと僕自身もそう思う。

 でもそれしか考えられない。
 今、目の前にいるお嬢様はお嬢様じゃあない。
 別人と入れ替わっている。

 僕がお嬢様を見間違えるわけがない。
 だが、これはどう考えてもお嬢様ではない。

 悪意や敵意は感じない、言葉遣いは違えど節々にお嬢様の優しさを感じることもある。

 でも行動がまるで違う。

 僕は誰よりお嬢様を見てきた。
 僕より僕の違和感に確信が持てる人間を、僕は他に知らない。
 確信を持って僕はお嬢様へと不敬な眼差しを向ける。

「…………へえ、ノワール。やっぱり貴方は素晴らしいわね、素直に好きよ私、貴方のこと……ねえノワール」

 甘い煙草の香りに包まれたお嬢様の姿をした何かは、優しい笑顔で。

?」

 そう言った。

 

 稀に、この世界とは異なる世界での記憶を持った人間が現れることがある。

 生まれた時から記憶を持っていたり、何かをきっかけで思い出したりするようでお嬢様は後者だったようだ。

 最後に確認された異世界転生者は百何十年以上前だったので、その存在にすら懐疑的な奴らもいるが僕の故郷にも四百年くらい前に異世界転生者が現れたと伝わっている。

 僕の使う、合気道を伝えた人物だ。

 今も昔も辺境の地にあるド田舎な村に道場を開いて村人たちへ合気道を通して護身の極意を教え、盗賊や敗残兵の襲撃すらも非武装で返り討ちにして捕らえてしまうような異常な村へと変えたらしい。

 故に、僕もその流れを汲む者が故に、異世界転生が絡むというのなら納得が出来てしまう。
 半年間に渡る心神喪失状態をきっかけに、お嬢様は異世界の記憶を思い出した。

 その記憶、というより人生に多大な影響を受けた。

 お嬢様の思いと想い、かつて生きた世界での記憶、感情、理性、全てが混ざり合って。

 ジュリエッタ・ディアマンテは立ち直り、立ち上がった。

「そゆこと、貴方の違和感は間違いじゃあない。でも間違いなく私は私よ。ただほんの少しばかり前の記憶に引っ張られた思考と趣向を持っただけなの」

 煙草の火を消しながらお嬢様は僕の理解を肯定する。

「さて、ノワール。改めてこの半年間の逃避行、記憶は曖昧あいまいですが私の世話と様々な危機への対処、本当に感謝いたします。もう安心なさい」

 お嬢様は僕の知る優しい笑顔でそう言った。

 ああ、やっぱりお嬢様はお嬢様なんだ。良かった、そりゃあそうだ。大事なのはお嬢様が無事であることなんだ、煙草や言葉遣いなんて些細ささいな問題だった――。



 僕の安心を引き裂くように、邪悪な笑みを浮かべてお嬢様は宣言をする。

 ああ、確かに煙草や言葉遣いは些細ささいな問題なようだ……。

 
 劣勢れっせいである者が、攻勢こうせいに打って出ること。

 国軍や捜査機関に追われ、追い込まれ、消耗しょうもうちるのを待つだけの僕らが。

 立ち上がるという、そういう話だ。

 なんて大それた感じに言ってはみたが、始まったのは現状についての把握や残りの金銭、ここにいたるまでの道のりというか渡って来た町や出会ってきた人々、戦闘になった回数や相手。

 とにかく事細かに質問攻めにあっただけだ。

 お嬢様はその答えを、煙草をくわえながらメモを取ってまとめていく。

「……なるほど、訓練を受けている五人を同時に相手……常軌じょうきいっしてるわよ貴方」

 僕の話を聴きながら呆れるようにお嬢様は漏らす。

「逃走経路は正直甘いけど悪くはない。特に今居るこの拠点は良い。恐らく捜査網の中でもかなり優先度は低いし町を仕切ってる輩も思想が強めっぽいから私たちみたいなワケあり逃亡犯を国の組織に売るつもりはない。今までの傾向けいこうで読むなら少なくとも捜査機関と国軍がここに辿たどり着くには一ヶ月はかかるでしょうね。もし一ヶ月以内に辿たどり着ける人間がいたとしたら、そいつはかなり優秀ね。まあノワールが思いつけた以上、誰かが辿たどり着けないわけでもないからそんな三流みたいな油断はしないけどね……。それも踏まえて、資金は思ったより残ってはいるけど使えてはいないと。金策について具体的に動き出すにはまだ情報が足りないけど、ある程度の見当はついたし……」

 僕の話をメモしながら、咀嚼そしゃくするように情報をまとめて精査して落とし込んでいく。
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