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第4章・立ち上がったのは史上最凶の悪役令嬢。

12化物騎士。

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 騎士は当たり前のように短槍たんそうをキャッチしてくるりと回して構えるが。

 その間に僕は思いっきり背を向けて、全速力で逃走する。
 僕の合気道は護身、つまりは身を護ることを目的としている。
 まあもっといえば自然との調和とか世界平和への貢献とかあるんだけど、簡単にいえば大事なものを守ってみんなで健康に過ごしましょうってことだ。

 さばくのも投げるのもめるのも、全ては安全を手にする為の行動でしかない。
 この化物騎士相手に一番安全な策は、戦わないことだ。

 人によっては逃げることは恥じるべきこととするんだろうが、合気道は相手を叩きのめすものでもない。お嬢様とお嬢様を護る僕自身が護れるのなら何でも良い。

 この騎士はお嬢様ではなく僕を優先的に狙うと言っていた。お嬢様が狙われているのなら粉骨砕身ふんこつさいしん全身全霊をもってこの騎士を転がしてめて手足をへし折ってやろうと思うけど、今の狙いは僕だ。

 なら逃げる、こいつをいてお嬢様と合流する。

 良し、やはり追ってくるか…………ってはっええ。

 嘘だろ? 僕もまあまあ足は遅くないと思っていたけど、速すぎるだろう。
 ただ、この裏町の地理はお嬢様に言われて叩き込んである。

 分岐や路地、高低差、様々を利用しながら逃走を続け。

 そして。

「…………はぁ――――――――――……っ、はぁ――――――っ」

 僕は廃屋に身を隠して、壁に寄りかかりずりずりと腰を落としながら大きく息をする。

 疲れた、ギリギリけた。
 想像以上に時間は掛かったけど、やっとこさくことに成功した。

 いやはやマジに、騎士ってのはどうなっているんだ。
 途中路地に転がってた大樽を投げつけてきやがったり、塀やら窓枠やらに手をかけてなんとか屋根に逃げたら三角飛び一発で登ってきたし、なんか壁も走ってた気もする。

 それを無茶な飛び降りからの受け身でなんとか逃げ切った。

 とりあえずここで少し休んでから、あの化物騎士が国軍やらを呼んで包囲網を張る前にさっさとお嬢様と移動しないと。

 あー気を抜いたらめちゃくちゃ身体痛くなってきた……ちくしょーいってえ……。
 冷静に考えてもあの騎士……ディーン・プラティナとか言ったか……僕もまだまだ若者の枠組みに入るはずだけど、僕よりもさらに若くあの練度ってどんだけ才能があって鍛錬を積んだんだ。

 孤児だった僕が村で生きるには、道場で内弟子として下働きをしながら、誰よりも真摯に合気道を修練する以外に選択肢がなかった。
 だから僕は村で誰よりも早く黒帯を得て六段になり、それを見込まれディアマンテ家に拾われた。護衛の出来る執事としては合気道家はぴったりだった。

 あの騎士ディーンとやらは何をモチベーションに、化物に至るまでの鍛錬を行ったんだ……?

 …………いや、考えてもわからないし誰だって何かある。もう二度と会いたくもないし会わないだろうから知ることもない。考えても仕方がない。言うほど興味もない。

 無駄なことを考えている間に、息は整った。
 早急さっきゅうにお嬢様と合流しよう、心神喪失から脱したとは言え一人にするのは心配だ。

 思考を切り替え、僕はゆっくりと立ち上が――。

「い……っ、ぎあ⁉」

 脇腹に激痛が走り、反射的に転がる。

 その際に見た。
 穿

 間髪入れずに、短槍たんそうが突き出た壁を蹴り破り。
 化物騎士ディーン・プラティナが鬼の形相ぎょうそうで現れた。

 驚きというより、ただただ恐怖でしかない。
 長らく放置されたボロの土壁だ、確かに奴の鋭い突きなら壁越しに貫くことも蹴破ることも容易たやすいだろう。
 でもやるか? しかもここ二階だぞ? なんでこいつ当たり前に高低差を無視すんだ馬鹿なのか?

 痛みと恐怖で思考がまとまらない。
 でも一つ、確実に言えるのは。

 もう僕に逃げ場はないということだ。
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