春の明日になりたい

"タクヤ"

ハルは、立ちはだかる構成員達を次々となぎ倒していく。

すると、背後からドスの効いた太い声が聞こえた。

「一人で乗り込んでくるたァ、肝が座ってんのか只のバカなのかどっちだろうなァ」

ハルが振り返ると、卑下た笑みを浮かべた巨漢が立っていた。

「なんだお前。」

ハルは睨みを効かせながら言った。

「こえーなァ。ガキとは思えねぇ殺気立った目だ。」

男は、ハルをつま先からてっぺんまで眺めると続けてこう言った。

「なるほど、あの下っ端3人組が言ってたブラフェアのガキってのはお前の事か。」

「下っ端3人組？」

「廃墟で戦っただろ？人質がいなきゃ瞬殺されてたって言ってたぜ。」

思い出したハルは「あぁ…」と小さく言った。

人質のせいで力を発揮できず、拘束された上に身体中を触られた忘れたい程おぞましい記憶だ。

「金髪で小柄な体、綺麗な顔立ち。そして何よりその殺気。特徴が一致する。なァお前、ブラフェアの上位ナンバーだろ。あんな大それた襲撃かまして短時間で構成員の半数を行動不能にしやがっただけでなく、場を一挙に混乱させた。見事としか言えねぇ。一般戦闘員とはとても思えねぇな。おめぇナニモンだァ？」

「よく喋るデブだな。」

「あァ？」

「お前こそ誰だ。僕が用があるのはお前じゃない。邪魔だから消えてくれ。」

「言うじゃねぇか。俺ァ、グランギニョールの4幹部の一人、コードネームはダズロだ。」

「幹部が4人いるのか？」

「あぁ。まぁ今は2人だがなァ。あとの2人はこの間の襲撃で殺られやがった。この間の奴らはナンバー2、4、5だっけな。おめぇのその殺気と戦闘力を考えると5より下ってこたァ無さそうだ。ナンバー1か3。どっちだァ？」

「その前にこっちの質問に答えろ。お前達のボスは"タクヤ"って名前か？」

「あァ？なんで知ってんだよ。」

「…やっぱそうか…。」

「ボスは表舞台には一切現れねぇ。名前を知ってる筈がねぇんだ。さては私怨か。」

「お前には関係ない。」

「おい、まだ俺の質問に答えてねぇぞ。お前のナンバー…ぐァッ！」

ダズロの太い首元にハルのハイキックが炸裂した。

ダズロとハルの間には些か距離があったが凄まじいスピードと瞬発力で一撃を入れたのだ。

ハルは間髪入れずに両手の平を床につき、屈伸の容量で両脚をダズロの胸部にぶち込んだ。

「んごぉァ…！」

数秒の間にキメられた2発のダメージでダズロの巨漢はよろめいた。

「ナンバー1の顔を僕は知らないよ。」

ハルは、このタイミングでダズロの質問に答えた。