10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

文字の大きさ
45 / 76
4章 ベイツの過去

42話 倉木家からもたらされた最善策

しおりを挟む
私が光希に助けを求めてから、1時間半が経過した。その間に太陽も沈んでしまい、周囲がどんどん暗くなっていくのだけど、公園の遊歩道沿いに設置されている街灯のおかげで、大樹周辺は辛うじて薄暗さを保っていた。そんな状況の中でも、ここから少し離れた場所には、大勢の人々が私たちと大樹様の状況を見守っている。

嵐が止んだせいで、大樹様の声が街の全土に届いてしまった。ここへ来た当初、全員が状況を理解できず混乱していたけど、威圧から復帰したユウキが私たちの置かれている状況を皆に説明したおかげで、混乱も鎮まった。ユウキによると、ここにいる人々全員が大樹=精霊であることに驚いているらしく、ストレスの原因は自分たちにあることを深く理解したため、状況が落ち着くまではここにいることを決めたみたい。

『話を聞けば聞くほど、興味が湧いてくる。咲耶の言う[鳥居][石畳][灯籠][しめ縄]、日本ではどういった方法で祀られているか聞いたが、いまいち想像できない。妹からの連絡はまだか?』

ここに至るまでの間、私は自分の持つスキル[異世界交流]と[転生者]であることを大樹様とガロードさんに話した。

大樹様は1000年以上生きていることもあり、[転生者]の存在を数多く知っているのか、スキル[異世界交流]ばかりに興味を持ってくれた。ガロードさんもフリード分身体から事情を聞いているので、私の状況を全部把握しているけど、聞き慣れないスキルに興味を持ってくれた。私は異世界[日本]のことを話し、スキルで文字だけの交流ができることを順に明かしていく。そして、神社で祀られている大樹様の情報を、日本側にいる光希に相談するところを実際に見せたことで、大樹様もガロードさんも驚いていたわ。

スキル発動で出現するタブレットで、地球のネット検索を使えればいいのだけど、あれはあくまでスキルのみにしか使えないことも判明したから、光希に頼るしかない。1人だと限界があるから、お母さんや悠太が協力してくれているはず、大樹様に見合うものとなると、かなり限られてくるわ。私なりにのイメージはあるけど、もう暗いから紙にも描けない。今は、日本にいる家族からの連絡を待つしかない。

その間、特にやることもないので、大樹様の愚痴を聞いたり、日本の神社関係の話をしたりして時間を繋いだ。私を経由してガロードさんもユウキも内容を理解しているから落ち着いているけど、ここから離れた場所にいる見学人たちは、ユウキが説明するまで意味不明なので、ハラハラした気分でいるはずだ。

「もうちょっと……あ‼︎ メッセージが来ました‼︎」
『やっとか!?』

《お姉ちゃん、待たせてごめんなさい。お母さんとお兄ちゃんにも協力してもらい、大樹様を祀るための立派な祭具を探していました。大樹様には添付ファイルの順番で見せてください》

添付ファイルが12個もあるわ。

「大樹様、妹の光希が資料を探し出してくれました。まずは、順に見せていきますね」

私は、フリードの法術で大樹様の目と同じ位置の高さにまで浮遊され、添付ファイルを開封し、画面を最大サイズにして、画像を見せていく。

① 奈良県、島根県、兵庫県などにある巨大鳥居  3点
② 鳥居と両端に一定間隔で佇む立派な石灯籠  2点
③ 豪華な絵が彫られた木製賽銭箱 1点
④ 大樹様の由来が刻まれている立派な石碑 1点
⑤ 賽銭箱の上に設置されている巨大しめ縄[画像は島根県の有名な某神社] 1点
⑥ 大樹を囲う豪華な柵 2点
⑦ 大樹を囲う神聖かつ立派なしめ縄 1点
⑧ それらの画像を合成して作られた大樹様を祀る社 1点

最後の画像、かなり念入りに違和感なく編集されている。
小学1年生の光希には、絶対無理だよ。
ユウキとガロードさんに見てもらってから、これらを大樹様に見せる。

『うおおおおおお~~~~~これだ~~~~これなんだよ~~~~~私の求めていたものは~~~素晴らしい~~~この雰囲気、厳かさ、神聖さ、日本人たちの祈る態度、これこそが私の求めていたものだ~~~~~』

大樹様がこれまでにないくらいの喜びの声をあげ、根っこをバシンバシンと地面を猛烈に叩く。私たち3人と1体は、これが歓喜に満ち溢れたものだと理解しているけど、後方にいる見学者たちには何も伝わっていないので、かなり騒ついている。

「こいつは驚いたな。何故、こんな形で祀るのか不明だが、見るだけで神聖さを感じる。これが、日本中にあるわけか。訳さなくても、大樹様が喜んでいるのがわかるよ。周辺の敷地面積も広いから、これと似たものを建築できる。周囲の景観と似ていないからこそ、ここだけが別世界のような錯覚すら感じるだろう。大樹様の願い、街の新たな観光スポット、どちらも満たされる。辺境伯にはスケッチだけを見せて、俺が納得させる」

辺境伯でもある領主様は、私のスキルと、前世に関する事情を知らない。この人物自身は大変厳格な方と聞いているけど、本国の国王と貴族だけでなく、隣国の国王や貴族とも深い繋がりがあるらしく、私の事情を全部話せば、何らかの理由で隣国に漏れる可能性があると考えたみたい。ただ、[クザン]の騒動の件もあり、私=リリアーナ・フェルデナンドであることだけは知っている。

この社の提案に関しては、全部ガロードさんに任せよう。

「お願いします。大樹様も納得してくれたので、後は魔物化の引き金となったものを掘り出せばいいですよね」

「そうだな。走りながら、フリードの分身体から少しだけ聞いている。2年くらい前に埋められた箱が原因らしいが?」

「はい、その通りです!!」

ミーシャさんとティリアから聞いた内容は、全部正しかった。街の危機を教えてくれたのだから、あの2人は良い人たちだよ。何か特別な事情があるのだろうけど、明日の朝にベイツさんの家へ寄りますと言っていたから、その時に事情を聞いてみようかな。

『咲耶』

大樹様に呼ばれたので、私は顔をあげ、彼の目を見る。

「はい、何でしょう?」

『感謝するぞ。あの画像で見たもの全てが、いずれここに建てられるのだからな。向こうにいる連中には、そこにいるユウキが事情を一部説明してくれている以上、私が精霊であることも広まるだろう。根の動く今のうちに、一つやっておく動作がある。咲耶、動くなよ』

大樹様の根っこが、私の右手付近に近づいてきた。
目覚めた直後は激怒していたけど、今はかなり落ち着いている。

顔の形相が怖いけど、攻撃される気配もない。フリードは何故か首を横に振りながら、《やれやれ、仕方ありませんね》と呟いているわ。

根っこが私の右手の目の前で止まったけど、私との握手を求めているのかな?
私が右手で優しく握手すると、その瞬間、何かが流れ込んできた。

まさか、この感覚は!?
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...