10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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5章 猫の恩返し

68話 アレスへの詰問 *アレス視点

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ターゲットのダークエルフと人間の男たちに関しては、ザフィルドに任せればいい。罪人用の枷に関しては5人分用意しているし、既に心も折られているのなら暴れることもないだろう。そうなると、残りは僕自身の課題だけとなる。正直、咲耶の調理した【イカ焼き】、これは鉄板上での調理しやすさや材料の仕入れや目新しさなどを考慮すれば、露店販売でもそれなりに売れるだろうけど、僕の求めるものではない。やはり、貴族も求める優雅なものじゃないと、父上も納得してくれないだろう。

「アレス、君は咲耶とどんな関係を望む?」
「急に何を…言っているのかな?」

ルウリの迫力が、突然増した。
なんだ、この圧迫感は?

スキルを行使されているわけじゃないのに、目が合っただけで、身体が重く感じる。
この鳥は、僕に何を求めている?

何を言えば、正解なんだ?

ザフィルドはダークエルフと人間の男を担ぎ、僕から距離をとっているから、アドバイスを期待できそうにない。

「僕と猫たちは、スパイ捜索の任務を請け負っていたけど、今の時点でこいつらを含めると7名を捕縛している。一応、フェスタ最終日まで領主とアマンガムの邸や商会本部に潜む者、系列支店周囲に怪しい人物がいないか調査するけど、これ以上見つかることはないと思う。そうなると、残るは君だけだ」

おいおい、僕の返答次第ではこの場で抹殺するかのような雰囲気を醸し出している。ここは、真面目に答えた方が良さそうだ。

「ベイツさんの家で語っただろ? あれが全てだ」

「あの時に聞いたのは、ここへ来た目的だ。勿論、それが真実であることも知っている。今、僕が聞きたいのは、フードフェスタ後のことだよ。咲耶は平民、君は公爵令息長男、この身分の壁は乗り越えられない。君は、どうしたい?」

乗り越えられないと断定されたせいか、僕はカチンときた……が、心に灯る怒りをなんとか鎮め、あの時のことを思い返す。

……なるほど、あの時はその後のことに関して何も言っていない。そもそも、父にも僕が咲耶とどんな関係を結びたいのかなんて言っていない。この鳥は、それを聞いているのか。

「王都へ帰った後も、僕は咲耶と文通を通して、友人関係を保っていきたい」
「文通ね、それで?」

これでは納得してくれないか。僕だって、ここへ来るまでに、咲耶とどんな関係を築いていくか悩んださ。蒸気列車の中で、ザフィルドにも忠告されている。

・両親の前で平民になることを宣言し、全てを捨て咲耶のいる街で暮らすか?
・咲耶との関係を断ち切り、フォルナルト公爵家長男として生き続けるか?

最後に…『初恋を拗らせ、公爵令息として彼女を愛人にするか?』と言われた瞬間、僕は一瞬で沸騰し、彼を殴ってしまった。僕だってしっかりとその先のことを考えていたけど、他人にああまではっきり言われると、これほど腹が立つとは思わなかった。あの時、すぐに謝罪したけど、僕の中でどうしたいのか、答えは出ていなかった。でも、咲耶を見続けたことで、今は一つの答えを持っている。

「ルウリ、君から聞いた以外にも、咲耶はスキルを保有しているだろう?」
「ここまで彼女を見続けているのなら、君達も気づくか。それで?」

「咲耶の持つ力が何なのかは僕にもわからないけど、彼女はマナリオの件もあり、国内で注目を浴びつつある。今の時点では精霊の巫女というだけで、利用価値はないと貴族に判断されているけど、このまま目立っていけば、いつか必ず目を付けられる。君達が力で排除しても、ずっと隠し通せるとは思えない」

そう、話を聞いていく限り、ルウリとフリードは極力表舞台に立ちたくない。王家との連絡に関しても、辺境伯やベイツさんに頼っている。このまま力で解決させていくと、どこかで歪が発生し瓦解する恐れがある。最悪、咲耶はこの国に居られなくなる。

「ふうん、その言い方だと、君の中で答えが出ているようだね。どんな答えを導き出したのかな?」

「僕は公爵令息として、自分自身の力を手に入れる。そして、将来は咲耶の後見人となるつもりだ‼︎」

これが、僕なりに導き出した結論だ。咲耶の力が何処かで露見した場合、貴族たちは何の後ろ盾もない彼女を利用しようと動くに違いない。ルウリもフリードも自分たちの強さを表に出ないよう行動しているから、現状貴族にとって配慮すべき相手は、大樹マナリオとベイツさんだけとなる。マナリオは大樹で動けないし、ベイツさんは保護者というだけで、彼女の護衛ではないから、いつも一緒にいるわけではない。

そうなると、貴族たちは咲耶の誘拐を企むだろう。

そこに、ルウリとフリードが力で無理矢理介入し、その貴族たちをその都度潰していけば、いつか国内のバランスが大きく崩れてしまう。今の時点では、まだそこまで至っていないが、いつか必ず起きる。

だからこそ、後見人が必要なんだ。フォルナルト公爵家が咲耶の後ろ盾として君臨すれば、国内国外の貴族も大人しくなるはずだ。

「なるほど、考えたね。実質、今回の騒動で辺境伯が咲耶の後見人になってもらう予定だけど、それだけだとまだ弱い。貴族の味方は一人でも多い方がいいけど、今の公爵は君の父上だ。彼が認めない限り、後見人は厳しいと思うけど?」

オルバイン辺境伯が、彼女の後見人になるのか。
それは初めて聞いたけど、これまでの功績を考慮すれば納得だ。

「今回の[テンタクルズオクトパス]の件を聞けば、王都内での評価も上がる。そして、僕自身も貴族としての力を身につけるよう努力を続け、父を説得する‼︎」

通常、公爵家が一平民の後見人になること自体、ありえない行為だ。でも、[高位従魔][高位精霊]以外に、公爵家だけに利をもたらす何かをやってくれれば、父も認めてくれるはずだ。

「その言い方では君の父も納得しないだろうけど、まあ正しい答えには辿り着いたようだね。公爵に僕たちのことを話してもいいけど、裏切り行為は厳禁だからね」

「わかっている。僕は……いやフォルナルト公爵家は咲耶を裏切らないことを誓おう」

僕の真剣な言葉に対し、ルウリは落胆したかのような目で僕を見つめる。
何故だ? 僕は、正しいことを言ったはずだ。

「君は、まだまだ半人前だね。今の君には貴族として微々たる力しかない以上、そういう根拠のないことを簡単に言わない方がいい。君の両親が裏切りの行動に走ってしまったら、君はそれについていくしかないのだから」

う、その通りだ。
状況次第では、両親が裏切る可能性もゼロじゃない。
もし、裏切る方向に進めば、僕も公爵令息として逆らえない。
ルウリには、軽はずみな発言に聞こえてしまったのか。

「君自身は、咲耶のことを大切に思っているようだし、一応信頼の証として、僕の加護(小)を与えよう。君の持つ属性全てが少し強化され、病気にもなりにくくなる程度だから、これからも精進するといい」

「加護って……いいのか!?」

高位精霊の【加護】、これは信頼の証でもある。たとえ(小)であろうとも、加護を与える行為は、その精霊に信頼された証だ。

「言っておくけど、加護がある以上、君は僕の監視対象となった。この加護をどう使うか、しっかりとここから見届けさせてもらうからね」

そうか、僕とルウリの間で、絆が生まれたのはいいとして、それは細い線のようなか細さだ。僕の行動次第で、ルウリが僕を見限れば、当然加護も消える。信頼されたのはいいけど、今はまだ試されている段階なんだ。

でも、これでいい。

『咲耶に幸せな人生を送ってほしい』、これが僕の願いだ。
ルウリに深く信頼されるためにも、僕は自分と彼女のために努力を続けよう。
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