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受け入れるもの、変わるもの
塞翁が馬 11
しおりを挟む「だいたい聡実ちゃんも吉継ちゃんを手元に置くだけなんて、案外朴念仁だねー。いや、もはやチキン…ちゃんと文句言いなよ?」
口下手ゆえ、意思表示に籠城する吉継を理生は知らない。
「厚木さんは、チキンとか朴念仁では無いと思いますけど…」
籠城の甲斐あってか、忙しくても細かくケアをしてくれるようになった。
「チキンも朴念仁も知らないくせに聡実ちゃんのフォローしちゃって、かわいー」
「うぅ…」
デートを知らないと言ったのを面白がられている。言葉の意味くらい知っている。自分には当てはまらないと思っての返事だったのに…。理生にイジられると腹立たしい。
「まあ、パートナーだったらデートくらいはするよ、普通に」
また来た、『普通』だ。吉継に『普通』はわからない。
結婚もデートも吉継にとっては死角からの襲撃に等しく、唇を噛む羽目になった。
この気障でいけ好かなくてよく喋る男は、デートだ結婚だと、誰と誰の話をしているのか。吉継の貧困な想像力では、デートは遊園地か映画館だと決まっているし、結婚式では厚木がウェディングドレスを着ている。ブーケトスは理生がキャッチしているような歪んだ世界観だ。ありえなさすぎて寒気がする。
「結婚なんてしません、デートもだめです」
「どうして」
理生が意外そうな顔をする。その表情の感情はどういうものなのか。なにより、吉継は男だし、ウェディングドレスを着ている厚木ですら、純白なんて壊滅的に似合わない。なにより厚木は吉継を差し置いて、仕事と結婚しているような男なのだ。
「できないです」
闇雲にだめですと繰り返す吉継に、ふーんと気のない返事をする理生が言うには。
「ボストンは同性婚ができるよ」
「は?」
「うん、できるね。聡実ちゃんはだから吉継ちゃんを紹介したんだと思うよ」
頭の上に雷が落ちてしまったような衝撃。
紹介といっても、厚木があのホテルでなにかエライ人になったから、ボストンに来たのではないのか?
なにより厚木は、言葉もわからず形だけの挨拶をしている吉継に助け舟も出さず、内心びびっている吉継を見ながらニヤニヤしていただけだが?
会場の人たちに偏見はなさそうだったが、そもそも厚木も吉継も国籍は日本だ。いや、でも厚木なら国籍くらいなんとかしそうだ…。余計な情報が入ってきたので、余計なことを考えてしまう。いや、でも。
「けっ、結婚のためじゃないです」
「あーねぇ、婚約披露かな?」
「こんにゃく…」
また重いワードが出てきて噛んだ。
「あぁ、おでん食べたいねぇ」
「…はい…」
パン屋で小麦粉とバターの香りに包まれながら、思い浮かべるのは出汁の効いたおでんだ。
理生が珍しく真面目な顔をして言う。
「まぁ、聡実ちゃんは、ずっとパートナーを欲しがってたからねぇ…」
それは吉継にもわかった。”パートナーを”とまで思っていなかったが、Domからの命令が何より欲しかった。
ダイナミクスにより、第二性を持つものが現れて結構経つが、数は少なく、流行り風邪のようには広がらない。そのうえ安定させるにはプレイとかケアをする必要がある。パートナーを求めることは、第二性に備わっている本能といってもいい。
吉継にもDomを求める気持ちがある。厚木に嫌がられたり、受け入れられたりして、Domに…というか厚木に求めるものが偏っているとわかってきた。吉継の根底にある”ご主人様”への奉仕欲は、厚木に軌道修正されながら、今もSubとして成長している。厚木は吉継の欲しいものだけをくれるDomではないが、命令だけではなく、言葉も体も時間も使って吉継の外側も絡め取りながら教えてくれる。吉継には全部新鮮で、たまに受け入れがたいが、それでよかった。
そんなことを言う理生もDomだ。
吉継にしては珍しく、理生に興味が湧いた。厚木と同じDomだからかも知れない。
「理生さんはパートナーはいないですか」
「いないよ、吉継ちゃんどう?Subは基本的に可愛がり一択なんだけど。偶に可愛がり過ぎちゃうけど、吉継ちゃんなら丈夫そうだから安心かなぁ…」
「理生さんは気障だから嫌です」
「早くオブラートに包む話術を覚えて吉継ちゃん…」
厚木にも初めて会ったときに”頑丈そう”だから”気に入った”と言われた。ついでに頭が緩いとも言われていたので、最初は馬鹿にされていると思って反発していたが、それはSubとしての未熟さを指摘されていたのだった。DomがSubを選ぶ基準は、世間一般の審美眼とか常識とかとは関係ないところにあるのかも知れない。身近にそんなDomしかいないため、新たに偏った知識を得た吉継だった。
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