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受け入れるもの、変わるもの
塞翁が馬 12
しおりを挟む厚木のために買ったパンも早く届けてあげたいと思ったが、吉継は、山科にお土産を買いたかった。
「マダム向けなら…、アクセサリーなんかはどう?」
「はい、いいと思います。案内してほしいです」
「吉継ちゃん、聡実ちゃんとこの家政婦さんが好きなんだ?」
「好きです」
「それ笑顔だよね?吉継ちゃんの表情筋は怠惰だねえ…ちなみに、俺のことはどぉ思ってたりするのかなぁ?」
「理生さんは気障だから嫌です、さっきも言いました」
「だよねぇ…その歪みのないところ、俺は好きだよ…」
理生に連れて行かれたのは小さな雑貨店だった。
アクセサリーなどの装飾類が置いてあって、ぱっと見ても山科に似合いそうだと思うものもある。しかし、種類が多くて目移りしてしまう。
「ゆっくり選んでいいよ、いいのがなければ違うお店にも行けるけど」
「いいえ、ここにします」
「そう?」
吉継は、理生を待たせていることも忘れて、かなり時間をかけて山科へのお土産を選んだ。商品を手に取っては戻し、また手にとって眺めることの繰り返しでなかなか決まらない。
「もう店ごと買えば?」
まちくたびれた理生が適当なとこをいい始めても吉継はうんうん悩んでいたが、ようやくこれといったものを決めた。
「これにします」
「あ、いーね」
明るい色のスカーフとエコバッグだ。休日用と仕事用のつもりだ。はっきり言って、山科にはいつでも気にかけてほしい。考えは重いが、物に罪はない。喜んでくれる顔を想像しながら、レジへと向かう。
「聡実ちゃんからカード預かってるけど」
「いりません」
出発前、笠井に相談して、ドルも幾らか交換してもらっている。
理生が通訳してくれたおかげで、「サンキユー」というカタカナ英語のみを披露するに留まり、会計を済ませた。
帰りに公園で散策して、ホテルに着いたのは日も暮れかかろうという時間だった。激しい運動はしなかったが、一日しっかり動いたので体はすっきりしていた。エレベーターに乗り、あとは部屋でゆっくり厚木を待つのもいいかと思ったところで、理生が最上階のボタンを押したので慌てた。
「理生さん、ありがとうございました。もう帰ります」
「いーよ、俺も楽しかったよ。まぁそう言わず、もうすぐだからね」
理生がまた性懲りもなくウィンクするが、最上階に用がないので、エレベーターのボタンを泊まっている階で押そうとしていた吉継は見ていなかった。
「聡実ちゃんが待ってるよ」
「厚木さんが?」
厚木の名前に気を取られている間に、泊まっていた階を通り過ぎた。
あ、と思って理生を振り返る。気障男は、肩をすくめていた。
最上階に着き、理生が先に降りて泊まっている部屋を通り過ぎたので、仕方なく後をついていった。
奥の部屋で止まり、ノックをする。エレベーターからここに来るまで、結構歩いた。廊下からしてだだ広いホテルだ。
理生は返事を待たずドアを開けた。そこは吉継が泊まっている部屋よりもかなり大きな部屋だった。壁には大きな本棚、凝ったデザインの長机が真ん中に置かれていて、厚木はそこのお誕生日席に座っていた。目を閉じて動かない。
「あらら、寝てる」
「起きている」
寝ている厚木を見たことがない。興味を持って理生の肩越しから覗いたときにはもう目が開いていた。吉継と目が合うと、クッと目を細めた。
「吉継」
「厚木さん、部屋に戻ります」
「もう終わる。ここでいい」
「はい」
「あれ?俺って邪魔なのかな?」
「邪魔だな」
「えぇ…ひどくない?…まあいいけど…。ちゃんと送り届けたよ」
「ああ、助かった」
「理生さん、ありがとうございました」
「いいよー吉継ちゃん、また行こーねー」
「…」
いや、理生はもういい。
厚木がいくつかのファイルを棚に戻している。
「スマホはどうした」
「カバンです」
「ふん」
多分、山科へのお土産と、お財布と『ポケット英会話』の下あたりに入っているはずだ。
「厚木さん、お土産です」
机の上にパンの入った紙袋を置く。もうホカホカではないが焼きたてだ。厚木が吉継の言葉で、置かれたものを確認する。
「…」
食べられるものだとわかった厚木は、満更でもない表情で、紙袋を取って吉継に渡した。
「食べさせろ」
こんなときも厚木は偉そうだ。
「は?」
「食べさせろと言った」
「…」
聞こえていたが、そういうことではない。
「ここでですか」
「ああ」
「部屋ならいいです」
「わかった」
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