神様はいない Dom/Subユニバース

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小話系

月刊DomDom 特集:Subからの誘惑 あなたならどうする? 3

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 「どこが”すごい”のか言ってみろ」
 「うぅ…」
 雑誌を持ったまま固まる吉継。厚木のペースに呑まれている。
 軽く押すと、巨体はすんなりベッドに座って沈んだ。厚木も隣に座って、吉継の腰を抱きながら雑誌を覗き込む。
 「ゆっくり聞かせてくれ」
 「あ」
 吉継が、なにか言いたげに厚木を見て、言葉にならずに下を向く。だいたい言葉は足りなくても、気持ち先行で喋る吉継だ。考えを巡らせるように迷う姿はめったにない。
 「この写真のように、欲しい命令コマンドがあるのか」
 「…」
 吉継が、小さく頷いて厚木の言葉を肯定する。
 楽しい。
 これはいい。
 厚木はノリノリだった。
 「お前の好きなプレイに付き合おう」
 「本当ですか?」
 「ああ」
 厚木の快諾に、吉継の顔色が明るいものに変わる。
 「あります。厚木さんにしてほしいこと」
 そう言って、吉継がページを捲っていく。
 あるページで止まって、写真を厚木に見えやすいようにする。
 「これか」
 「はい」
 Domの靴に鼻先を押し付けて舌を出している男性の写真。彼はSubだ。何枚かの写真が連作になっているようで、ページを捲ると、靴紐を咥えて靴を足から脱がせ、靴下も口で脱がせてから足を舐めていた。さらにその先には、胸を踏まれて悦に入っている写真。
 吉継の願望が凝縮されたような世界だった。これらの写真を見て、すごいすごいと興奮していたのか。
 この男性が欲しがっている命令コマンドは、”Kneel”と”Lick”だ。
 きっと、吉継も。
 「これがいいです。厚木さん」
 今まで、厚木から興味がないと突っぱねられていたプレイがしてもらえるかも知れないという期待で、吉継の雑誌を持つ手が微かに震えている。
 「わかった」
 「…!」
 「吉継」
 「はい」
 「”Kneel”」
 「は…」
 命令コマンドを聞いて吉継は、体を強張らせたあと、脱力したようにベッドからずり落ちた。
 「あ、…あ」
 吉継がなにかよくわからない声を発しながら蹲る。目の前に見えた厚木の靴の先から足首まで頬ずりを始める。満足するまでそうしたあと、体を起こし、厚木の足を股に挟むようにしてぺたりと座った。”ご主人様”を見上げて、褒められるのを待っている。
 「これがお前の”Kneel”か」
 「厚木さん…」
 「いいコだ」
 顎を擽ってやると吉継は喜んだ。
 厚木は今まで、Domの欲望がこんな雑誌で易々満たされるなら、苦労はしないと思っていた。吉継は、簡単には思い通りになるSubではなかった。
 トレーニングプレイをしても、狙った効果はあまり得られなかった。はっきり言って手を焼いていた。おかげで厚木は、パートナーがいるのに、常時慢性的な欲求不満だ。今まで察しのいい、風俗のSubが相手だった厚木は、言葉が少なくても意図が伝わった経験しかない。吉継のように、1から100まで懇切丁寧に、手取り足取り教えないと伝わらないSubは、はじめてだった。
 厚木は、Domとしての至らなさを毎回突きつけられていた。人生でほとんど味わったことのない挫折感を、パートナーである吉継に味わされている。
 こんな雑誌一冊で、吉継パートナーの歓喜する姿が見られるなら悪くない。
 足を舐めさせる姿で支配欲を満たすなど、全く趣味ではない。厚木は、痛すぎず優し過ぎない、気持ちよさと不快感の狭間で、慣れることのない痛みに耐えて悶える姿に滾るタイプだ。その痛みを厚木が与えていることに、加虐心と支配欲が満たされる。吉継は、暴力的な痛みを知っている。痛みを平気に思っているSubだ。それは厚木の求めているものではなく、吉継とのプレイを模索していた。
 今の吉継は厚木の、仕事を終えたばかり、ベストスーツを着たままの膝に何度もキスをしながら、革靴の紐を解いている。
 写真の男性は、すべて口を使っていたのを思い出す。
 「口でしないのか」
 「できません」
 吉継は、厚木の足を恭しく持ち上げて、そっと革靴を脱がせた。靴下も。
 「厚木さん…」
 素足の指一本一本に唇を落として、吉継は大きな手をフットレスト代わりにして、厚木を見上げる。その目に宿る熱を厚木が見下ろしている。
 今はそれでもいいと、楽しいと感じている。吉継の好きなプレイを支配している高揚と。そして、じくじくと抱えていた不満の行き先も、見えてきた気がした。
 「厚木さん…俺…」
 吉継は厚木を見上げたまま、次の命令コマンドを待っていた。忠誠心すら感じる視線を受けて、厚木の胸にも熱が灯る。
 「”Lick”」
 「はい」
 吉継は、厚木の足に飛びつく勢いで、べ、と舌を出して足の指を一本ずつ舐めあげていく。吉継に雑誌の男性ほどの色気はない。ただ熱心なだけだ。したかったことをさせてもらえ、歓びに震えながら吉継は厚木の命令コマンドに応えていた。
 「吉継、もういい」
 「あ…はい…」
 返事をして顔を上げても、吉継は足から手を離そうとはしなかった。厚木が足を動かせると、名残惜しそうに目で追ってくるが、手はすんなりと離れた。足指で吉継の喉を押せば、嬉しそうに厚木の足に押しつけて感極まった声を出した。その声が厚木の支配欲も満たした。


 夕食は吉継の希望で、宅配のピザだった。普段食べつけないものを食べた厚木は、一切れすら食べられず、ギブアップした。そんな厚木を不思議そうな顔をして見ながら、吉継は一枚をペロリと平らげた。
 吉継は食べた後も、あの雑誌を離さなかった。よほど気に入ったのか、写真だけでなく、記事の方も熱心に読んでいた。
 「面白いか」
 「はい。いろんな人がいます」
 「それは持って帰っていい」
 「はい」


 それからは、この仮眠室に、各社新聞や英語新聞や論文誌などの小難しい本に混ざって、『月刊DomDom』がラックに加えられることになった。

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