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転生直前

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「ううう。好きになった男の子をとられるし。だいたい、お互い幼馴染としての関係に甘んじていたけれど、やっと、両片思いに気づいたってなによぉっ! 彼女が好きなら、私に告白なんてせず、最初っからさっさとくっついとけっ! 仕事ばかりったってこの時期のケーキ屋さんなんだらしょうがないでしょ。処女のまま死ぬなんて……。彼女の歴代の彼氏だって気の毒だわ。うう……クリスマスなんて大嫌いだ……。グスッ、グスッ。ヒック……」

 どう考えてもあの状況で生き残っているはずはないだろう。あまり苦しまなかったのが不幸中の幸いなのかもしれない。今は、死んでしまって残された両親や兄たちの事が気にかかる。出勤するって約束して帰ったお店の事も少し。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん……。うう、会いたいよ……。こんな事になるなら、都会になんか出ずにお父さんたちの言う通り、無理せずお父さんのケーキ屋さん手伝えば良かった」

 高校を卒業してから、働いてお金をためて、パティシエールの学校に入学するため頑張っていた。いずれスキルを磨いて親孝行をしたかったのに。

「うう。アキ君……。ありえるに騙されて大丈夫かなあ? でも、彼女が本気で彼を好きなら、もう死んじゃったんだろうし、幸せを祈らなくちゃ……。グスグス」

 最後に会った時、散々思い知らされた。急速に大好きな気持ちがしぼんでしまったのも自覚している。だけど、やっぱり少しは好きが残っている。元カレの事もやっぱり思ってしまってグスグス泣き続けた。
 ありえるのあの演技と冤罪をかけられた事は、やっぱり許せない。それを信じて一方的に無茶苦茶言ってきたアキを思い出すと、瞬間湯沸かし器よりも早くカーっとなった。

「…………やっぱり、いくら好きでも許せなーい! ううう。お願い神様~! あの二人に天罰を与えたまえ~。ついでにあのおばさんにも~。世のため人のために是非ともお願いします~! ううう。なんで、あんなのが生きてて私が死んじゃうの? グスッ」

 ここがどこなのかわからない。死んだ人に知り合いもいないし、考えられてきた死後の世界は正直眉唾ものだ。体育座りをして泣いていると、突然、声をかけられた。

「可哀想に……。チートをあげるから皆から滅茶苦茶慕われるかわいい女の子と、チートはないけれど婚約者をNTRられる悪役令嬢。丁度その二つしか枠がなくて。どっちがいい?」

 「? え? うわぁ、綺麗……ずびっ」

 涙を流しながら、膝に埋めていた顔をあげるとそこにはとても綺麗な女の人が立っていた。

「あのね、貴女死んでしまったの。わかる?」

「グス……。はい、そうかなって思ってました」

「だからね、ちょうど、転生先があるんだけど。さっき言ったの覚えてる? どっちがいい? それか貴女の世界の日本と言う国では成仏っていうんだったかしら、そうする?」

「……」

 確か、モテモテのチート持ちの転生か、婚約者を取られる悪役っていってたなと少し考えた。

「私、処女のまま死にたくないです……」

 今となっては家族にも会えないだろうし、次こそお互いに大事な恋人を作って、結婚してってそういう普通の人生を歩みたい。そう思った。

「うんうん。だからね、どっちがいい?」

「えっと、モテモテのチートのある方がいいです」

「説明もっと聞かなくていいの?」

「だって、もう一つは失恋確定の悪女なんでしょ? そんなのいや。断然チート持ちのモテモテ女子がいいです」

 いつの間にか流していた涙が止まっていた。

 成仏するよりも、こうやって折角チャンスがあるのなら、そこで幸せになる事が家族への孝行だとも思う。

「わかったわ。じゃあ、転生だから赤ちゃんからになるけど」
「新しい人生のやり直しなんですね。わかりました」

 次の人生ではどんな家族がいて、どんな友達が出来るんだろう。

「転生後に、もしも今回の事で聞きたい事があるのなら転生の女神でもなんでもいいから思い浮かべて。一度だけ貴女の前に現れてあげるわ」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ、新しい人生で幸せになってね」

「はい! 勿論です!」


 女神さまが何かを呟くと、一瞬すらなかったような時間でパチっと目が開いた。

  ひゃっほーい!  これで人生勝ち組じゃー!  

と、喜んだ。赤ちゃんからやり直しだけど、まあいいわ。きっと幸せになってみせるから!






定時は21時、最低1話/日アップします。
明日はおそらく2話。夕方と21時になると思います
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