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気弱なハムチュターンのラブラブ初デート①

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 泣きながら、番が準備してくれたエサを全部食べつくした。きっと太っちゃう。カロリー消費のため、箱の角を一生懸命グルグル走っていると段々楽しくなってきた。
 夜が白み始めた頃、さすがにあくびが出て来た。目もとろんとしてきてしまって、巣材を集めようとのそのそタオルの柔らかい場所を探す。

──お? このタオルはいいものだ。王宮とかで使われている天然の最高級の糸で編まれているんじゃないか?

 俺は、愛しい人が愛する俺のために、こんな超高級タオルを惜しげもなく使用してくれた事に感激する。すでに、箱の底は俺が走りまくったせいで、折角の彼女の香りが少なくなっていた。

──ハニー……。今すぐ君の側に行きたいよ……。グスッ、グスッ

ガジガジガジ……グスグスッ、ガジガジガジ……グスグスグスッ

 糸の繊維の奥から、まだ残る愛しい彼女の匂いが立ち込める。もっともっと、箱の中の空気全体を彼女で満たしたくなって、巣材に必要な量だけでなく、糸の一本一本までしっかりと毛羽立たせた。
 一面、ふっかふかのもっこもこに仕上がるまで、俺は齧り、唾液で繊維を柔らかくする。

 彼女の香り成分たっぷりの糸を餞別して、それだけを巣材にした。

 とっても貴重な俺専用のベッドは、

『ひなの〇〇の場所だけを厳選し、さらに餞別した希少な羽毛を使った布団が、なんと! この番組終了後30分以内にご注文いただいたお客様だけのスペシャルプライスです!』
『さらに、……さらに! この機会にもう一組ご注文された方には、収納するのに便利な圧縮できる魔法石もおつけします!』

 みたいな、毎日年がら年中同じ謳い文句で、ご好評につき今回かぎりだけの復活! みたいなあれよりもレアな本当の一点ものなのだ。

 俺は、彼女の香りに全身包まれて、巣穴の中に体を潜り込ませて夢の中に旅立った。



※※※※



「おはよう、ハムちゃん」

 眠りについてからまだ1時間ほどしか経過していない。昨夜、疲労困憊だったうえ、一晩中動きまくったせいで寝不足だったが、彼女の声で飛び起きた。

 流石に、頭がぼんやりして、彼女が何を言っているのか半分ほど理解できていない。
 目の前に出してくれた巨大なキャベツをもしゃもしゃ食べていると、顔の右に番の指が来た。

──ん? 俺は、番を放っておいて、何を食べているんだっ! そりゃ、彼女の給餌求愛行動は嬉しいが、彼女をペロペロして愛を伝えないと!

 差し出された指先の柔らかなカーブに手を添える。痛くないよう、そっと指紋に引っ掛けるように爪を当てた。

「ふふふ、ちっこいなあ。かーわい」

「チ」

──可愛いのは君だよ。ハニー……ああ、早く人化して名前を聞きたい……。もう少しだけ待ってくれ。魔力が回復したらすぐに君を抱きしめて色々教えてあ・げ・る!



 朝の給餌求愛タイムの続きを二人きりでラブラブで過ごした。なんて優しいんだろう。大好物のヒマワリの種を、次々に渡してくれたんだ。


──あ、あ……。ちょ、ハニー? 嬉しい。とっても嬉しいんだけど、もう頬袋に入らにゃいよ……? むぐぅ……



 俺は夢中で少し食べたあと、差し出される番のパフューム付きヒマワリの種を頬袋に入れた。片方はすぐにパンパンになってしまって、もう片方にも入れた。
 愛しい彼女の愛の行動を拒否するわけにはいかない。限界の最後の一粒の半分が口からはみ出てしまってちょっと恥ずかしい。

「あ、ハムちゃん……。流石に8粒は多かったかな? ごめんね……」

「……」

──問題ないよ、ハニー。そう返事をしたいのに、口が開かず声が出ないんだ。許してくれ……。ああ、もっと大きな白毛に茶ぶちハムチュターン族とかなら、これの倍でも詰め込めたのに……

 小さな俺の頬袋が、彼女の愛を拒んでしまう結果になってしまってションボリした。

「ふふふ。巣穴に隠しておいで―。待ってるから」

「……」

 俺は、機能的に返事が出来ないまま、愛する恋人の優しい言葉に甘えて、巣穴近くの隠しエサの場所に、ヒマワリの種を全て出したのであった。


「チ、チチッ!」

 少々頬袋が、びよーんと伸びた気がする。ほうっておけば、頬袋がだらしなく垂れ下がる年寄りハムチュターンみたいになっちゃう。
  慌てて手でくるくるとマッサージをしてたるみを元に戻した後、恋しい番の元に最短時間で戻った。すると、俺の帰りを一日千秋の思いで待ち望んでいた番が手のひらに乗せてくれる。

 番の肌を堪能しつつ寝そべりながら、至福のひと時にうっとりとしていたら、いつの間にか街中に来ていたようだ。

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