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これって、女神が言っていた、文句なしのハッピーエンド? ①

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 私は、商店街で出会ったおじさんに、連れ歩いているハムチュターンが獣人だと聞いた。しかも、番だと。

「え? 冗談ですよね? だって、ハムスターですよ?」

「ハムスターってなんだ? そいつはハムチュターンな。南の国の小さな島の一つにある灰色黒縦縞のハムチュターン族だろ? ただのハムチュターンはそんなじっとしていないし、どうみてもお姉ちゃんに惚れ込んでいるじゃないか。ん? ひょっとして人化したそいつから話を聞いていないのか?」

「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりそんな事を言われても……。このコとは半日前に出会ったばかりですし、ずっとこの姿なんですけれど……」

「うん? ひょっとして魔力がたらなくて人化出来ないのかもな。基本的にこんな寒い地域にそいつらが来るなんて珍しいし。何か事情があるのかもなあ……。そいつな、お姉ちゃんの事嫌がるどころかすぐに懐いただろう? 基本的にハムチュターン族は警戒心が強いしそんな短時間で懐かんぞ?」

 想像していた反応と違うからか、おじさんが満面の笑顔から一転して真剣な表情になった。少し心配げな瞳の色があって、このおじさんは見知らぬ他人にも優しくて親切な人なのだと分かる。

「確かに、最初から人懐っこいコでしたけど……」

「まあ、とにかく、そいつは番だからお姉ちゃんと離れないと思うが……」

「え? まさかの執着つきまとい系ですか?」

 ヤンデレから逃げ切った先には、執着系の獣人がいましたなんて洒落にならない。絶対に嫌だと思った。

「いやいや。だから、番なんだって。なんて説明したらいいんだろうな? 獣人にとって番は生涯でたった一人の最愛のパートナーなんだ。お姉ちゃん、今まで周りに獣人いなかったのか?」

「クマの獣人ならいましたけれど……」

 執事のクマ獣人のおじいちゃんを思い浮かべる。そういえば彼も奥さんだけ一筋だって言ってたっけ。

「人間よりも圧倒的に数が少ないし、めったに縄張りから出ないからなぁ……。ハムチュターン族は、番の気持ちを第一に考える種族だから無理やりとかはないはずだ。ちゃんと話を聞いてやれよ?」

「えー……」

 露店のおじさんに、少しパニックになってしまい、やすやすと受け入れられない話を色々聞かされた。

「……まあ、なんだー。出会ったばかりなんだろ? そいつも必死なんだ。だから、せめて放り出すとかだけはやめてやってくれないか? 番に冷たくされたら辛くて死んじまう種族もいるんだからな? 関係ないけど俺からも頼む。ほら、今も俺たちの会話を聞いてフラれたあげく追い出されると思ってるのか泣きそうじゃねえか、可愛そうに……。とにかく、人化したら裸なんだから、成人男性の服買っとけ」

「えー……」

 ふと手のひらに視線を下げると、私とおじさんの会話を聞いて理解したのか、さっきまであれほど、ひとなつっこくて頬ずりまでしてたハムチュターンが、お座りをしてションボリしていた。きっと、私の反応が思わしくない事がわかったのだろう。

 正直、ヤンデレやストーカーといった男たちに辟易していた。それに、今回の人生は女一人を謳歌したくて北の国まで来たのに。
 

──このまま、このハムチュターンを迷子センターに引き返して預けたらダメかしら……?

「チ……チゥ……」
「う……」

 耳を折りたたんで、顔を下に向けてぷるぷる震えている可愛いハムチュターンの姿を見ると、このまま何も聞かずに捨てるようなマネをする事に罪悪感が半端なく押し寄せる。慌てて彼の頭を指先でなでなでしてあげると、少しうれしそうにお鬚だけがぴくぴく動いた。

「チ……チチ……チィ……」

「ううう……そんなつぶらな目で……。…………うーん、おじさん、ほんとに、このコ無理やりとか強引とかしない? 絶対?」

「ん? ああ。ハムチュターン族はな、特に番が人間だった場合、すでに番に恋人や夫がいたら辛いのを押し殺して諦めるんだ。親戚が黄金色のハムチュターン族の女の子と結婚したから知ってるんだけどな。そいつの種族ほど、番の気持ちや幸せを考えて行動に起こす獣人はいないほどらしい」

「そっか……。おじさん、親切に教えてくれてありがとう。私、このコと話をしてみます。ハムちゃん、取り合えず今日は帰ろうか。言葉はわかってるんだよね?」

「チ」

 力なくだけど頷くのを見て、質問形式で色々聞けるかと思い家に帰る事にした。

「おじさん、またねー!」

「おう。あのな、獣人のそいつとしっかり向き合ってやってほしいが、こればっかりは気持ちの問題だから、お姉ちゃんもそんなに思い悩むなよ? でも、上手く行くといいな! 相手が番だと、滅茶苦茶大事にされて幸せらしいぞ? まあ、頑張れよー」

「うん、ちゃんと向き合って話を聞いてみますね。ほんと、ありがとうございました!」

 おじさんは、激励にクルミを彼に渡してくれた。彼は、クルミをもそもそと口に入れるけれど、やっぱりさっきまでの楽しそうな様子がない。

<家に、帰ろう>

 私はチート魔法を唱えると、瞬時に自宅に戻った。彼の服なんかはあとでも準備できるから、とりあえず先に話を聞いてあげようと思ったのだった。


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