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女神の決めた最上級のハッピーエンドなんていらない! 私は、私の気持ちのまま行くわ! ③

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 昼間は私が、夜はオスクさんがライラの心身に寄り添った。そうする事でますます自己嫌悪みたいに涙ぐむライラが悲しくて、沢山抱きしめて、大好きな事、ライラがどれほど素敵な女の子なのかを伝えた。
 こういう時、妊娠出産経験があればもっと寄り添えるのかもしれない。

 ご近所に、ライラの事を心配してくれている優しいおばさんたちがいて、その人たちも何かと声をかけに来てくれていた。
 散歩に連れ出すと、近所の人たちの優しい眼差しと、心配と、ほんの少しの好奇心がある瞳には、良くも悪くも、近しいコミュニティの絆がある。
 ここでライラも過ごす以上、プラス面だけでなくマイナス面も受け止めなければいけないけれど、彼女たちも敢えてライラを傷つけようとする人たちではない事がわかりホッとした。

 中には、本心と善意でライラと赤ちゃんのために頑張れっていう人もいる。追い詰められないかどうかハラハラしたけれど、ライラは少しずつ心を取り戻していって一息つけるようになっていった。


 夏になる頃に、ライラはようやく無理に笑顔を作るなんて事が無くなって来た。彼女の綺麗な透き通った薄水色の瞳の濁りがなくなって光を取り戻していた。

『お姉ちゃん、ありがとう……。私、なんかおかしかった。私は変じゃないって、普通なのに皆のほうが大げさでおかしいって、ずっと思ってた。だからおねえちゃんがこうして来てくれて嬉しいけど煩わしいって思ったりして申し訳なかった……。でも、今なら、私がおかしくて危ない状態だったんだってわかる。ありがとう、あり……がと。おねえちゃん、ありがとう……。おねえちゃんがいなかったら、私……。この子がどうなっていたか……グスッ……グス……』

『ライラ……いいのよ。こうして、貴女が元気になってくれるだけで、それだけで私は、ううん、オスクさんやライノも幸せなの』



 長期間にもなったし、昼間に仕事、夜にはライラの事を面倒みていたオスクが疲れ果てないか心配だったけれど、

『俺のこんな疲れなんて、ライラの今に比べたらなんという事もないです。昼間にはこうしてエミリアさんが来てくれているし、こんなことでへこたれていたら、ライラと産まれて来る子を守れる立派な男になれませんから』

 少し、頬がこけているのに、明るくそういうオスクがそういうと、途端に泣き始めるライラ。ひょっとしたら、私では寄り添いきれる部分がない所も全て、まるっとライラを包み込んでくれるのはオスクだけなのかもしれない。

 少しだけ、ほんの少しだけオスクにヤキモチを焼いてしまうけれど、この人に任せていたらライラは幸せ間違いなしだ。


『ライラ、いい人を捕まえたわねぇ』
『おねえちゃんったら!』
『エミリアさん、違います。俺がライラを捕まえたんです』
『ふふふ、ご馳走様』

 そんな風に徐々に明るい兆しが見え始めた頃には、ライノと私の関係も、少しずつ近づいて来ていたのである。


※※※※


「エミリア、ライラのためにいつもありがとう」
「ふふふ、だって大好きな妹だもの。妹を支えるのはお姉ちゃんだから当たり前なんだから」
「うん……。当たり前だよな。でも、ライラのために仕事を辞めて、こうして安心できるまで側にいてくれて、本当に助かった。侯爵家に引きとる事も考えたんだけど、ライラにとって必要なのは侍女や世話人じゃないから……。エミリアだったから、ライラが元気になれたんだと思う」
「そう言ってくれるだけで、なんか報われた気がするわ」


 夏になると、気温は20度を超える。北の果てとはいえ、沢山の花が顔を出し、様々な生命が力強く芽吹く。8月には一番長い夏の日があって、ライラとオスクはその日に結婚したという。

 ちょうど、今日がその日だ。

 町中が浮かれていて、この長い夏の恵みを祝うお祭り騒ぎになっている。あちこちの教会でたくさんのカップルが結婚式をあげていて、ライノと二人で街を歩いていると、花嫁衣裳を身に纏った綺麗な女性が、彼女を愛しそうに見つめる新郎に手を引かれて教会の階段を降りていた。

「綺麗ね~」
「だな。幸せそうだ」

 道行く、彼らに縁もゆかりもない人たちもまた笑顔で二人に祝福の拍手を贈る。幸せが連鎖して、心が弾み笑顔が増えて行く。

 夜になってもまだまだ太陽が出ている。

「エミリア……」
「なーにー?」

 少しずつ子供たちや夫婦が消えて、周囲には恋人や酔った大人たちが増えだし、祭りの様相が変わった頃、ライノが真剣な表情で呼び止めた。

 店じまいを始める雑貨屋の売り物を興味深げに眺めていたエミリアは、ライノに呼ばれて彼のその姿を見てピタっと先ほどまでの高揚した気分が止まる。

「ちょっと、来てくれないか」
「う、うん」

 今日は、この地方では式を挙げる人もいれば、告白する絶好の日として心待ちにしている男女が多い。ライノの、緊張した面持ちと、手を取られて優しく引っ張られるその指先には、いつもよりも力がこもっていた。

 少し前をゆっくり歩くライノの高い位置にあるくすんだ金の髪が太陽の日を受けて、一歩歩くごとに煌めいている。10歳のころにはほぼ同じだった体型も、男の人らしく大きくなった。筋肉質ではないけれど、すらりとした魅力的な広い背中をじっと見つめて、言葉もないまま人通りのない、少し丘を登った位置にたどり着く。

 丘からは、街が一望でき、広い道路や広間では、夜のために品出しを変えたり忙しなく動く商人たちや、距離の近くなった男女の寄り添って歩く姿があちこちに見受けられた。

「エミリア・ワアク・ホリーク嬢」

 今日のライノは、私とのデートのために少しおしゃれをしていた。彼によく似合う、高級な生地に洗練されたその服は、貴族かお金持ちの平民といった感じで、さらりとした髪をセットしていた。

 そっと正面に立たれて、私の本名を呼ばれる。侯爵としての勉強中であり、礼節もどんどん板についてきたのか、貴族然としたかっこいい姿に、少し見とれてしまう。

 魔力で保管していただろう、小さな箱を差し出された。片膝をついて、私を見上げながら彼はこう言った。

「Mennään naimisiin」

 私は、微動だにせず、瞬きすら忘れて視線を下げて彼を見つめていた。真剣な、でも、私をどれほど愛しているのかを全く隠していない潤んだ瞳に、赤らんだ目元がライノの素敵さと色気を際立たせる。

「Rakastan sinua. 愛しています。どうか、私と結婚してください」

 飾りけもなにもない、その言葉は、まっすぐに私の胸を貫いたのだった。

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