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にじくす まさしよ

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二次選考は、圧迫ではなくてハニトラ面接で~無駄になったご健闘のお祈りする多数の手紙

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 おにいさまと一緒にいる毎日。お茶会やパーティも、もちろんおにいさまがエスコート役だから、周囲にはわたくしがハーティおにいさまに乗り換えたと思われている。
 だからか、だいぶ数は少なったけれども相変わらず届く釣書には、ハーティおにいさまと結婚したあとに恋人にしてくれっていう内容に変化した。


 一応、二次試験は用意していた。圧迫面接じゃなくて、ハニトラ風面接の予定で、個室でムラムラさせて、そこに居合わせた志願者の女性と仲良くするかどうかを、フィーノの提案で試そうとしてみたものの、そもそも、一次試験を合格する男の人なんて、誰一人していなかったのである。予め準備していた不合格通知の手紙が全て無駄になった。


「……困ったわ。もう夫候補に足る人物すらいないなんて」

「伯爵夫人も、もうディリィに釣り合う男は誰もいないと言い切っていたな。これ以上となると、名ばかりの男爵や平民になるから、許可が下りないだろう」


 このまま、フィーノの思惑通りに彼と結婚する事になるのだろうか。それ見た事かとドヤってくるフィーノの顔を想像してしまった。


「わかってる……でも、フィーノとは嫌。それくらいなら、ずっと独身で過ごして、後継者を分家から育てたい」

「フィーノには公爵令嬢がほぼ婚約者として確定しているようなものだ。いくらアイツが望もうとも、対外的にもディリィとはもう無理だろう」

「うん、そうだね。あのね、彼女は本当にフィーノを愛しているし、彼と価値観も合う。わたくし、彼女のような気持ちなんて、フィーノに抱いた事なんてない……。好きだって思っていたのも、本当に恋愛感情だったのかどうかもわかんないの……あのね、負け惜しみとかそういうのじゃなくて、本当に、お似合いだと思うし、心からふたりを祝福できるわ」

「そうか」

「うん」

 それに、期限の期日まで残り1か月を切った今のわたくしの心には、青みがかった黒髪に、漆黒の瞳の優しい人が住み着いてしまった。

 ちらっと彼を見上げると、とんでもなく温かい瞳でわたくしを見つめてくれる。ひょっとして、彼もわたくしと同じように好きになってくれているのかもしれないなんて、大胆不敵というか思いあがった期待と不安の気持ちが毎日、毎時間、毎分。それこそいつだって、わたくしに彼に愛の告白をしてしまえと背中を押す声が聞こえて来るかのようだ。
 彼には思う女性がいるのだからうぬぼれるなと、その度に弱弱しく、でも言い聞かせるようにその声に反論する言葉も生まれる。

 本当は、彼に好きだとこの気持ちを伝えたい。貴方が好きだと、心の中では叫ぶほど彼を望んでいるというのに、やっぱり勇気がでない。万が一違ったら、もうこんな風に一緒にいて優しく接してくれなくなるかもしれないから。そう思ったら、しゅるしゅると、折角背中を押してくれているその声が遠のき、半歩すら踏み出せないでいる。

 自分でも呆れるほど、もどかしくてイライラする。女は度胸だ、当たって砕けろなんて、勝算がある人しかしないだろう。そんな自信なんてない。

「もう男を探さなくてもいいんじゃないか? そもそも、ディリィがその男を愛するようになるなんてわからないし、魔法契約で縛られるのも本意ではない人物と一緒に人生を共にするなんて無理だろう。体は確かに、魔法で縛られるが、心だけは別だ。今までだって、本気でディリィだけを望む男なんていなかっただろ? そんな男でいいのか?」

「……よくない……わかってるよ」

「ディリィが、結婚したいと思うような気持ちを抱いている男はいないのか?」

 暫くふたりの間に少し居心地の悪い沈黙が落ちた。固く結んでしまったふたつの唇。そのひとつが、乾いてへばりついた上下の唇をパリっとはがしつつ開く。

「………………いる」

 今までは、こういう話題になるたびに話しの流れを変えて、はぐらかした。でも、なぜかこの時だけはそうはしたくないと思って、つい、口についた言葉は、彼の耳に届いたようだ。しまったと思ってももう遅かった。穴があったら入りたいし、今すぐ背を背けてこの部屋からダッシュで立ち去りたくなる。

 でも、ひょっとしたら、わたくしの願う答えが聞けるかもしれない。ドキドキドキドキ、鼓動がわたくしの気持ちを攻撃してくるかのようで、このままどうにかなってしまいそうだった。


「なっ! だ、誰だそれは」

「それは……」

 決死の思いで、なんとか立っているのがやっとだ。がしっと肩を掴まれて、真正面に彼の顔が近づく。

 切羽詰まったような、怒っているような顔は珍しい。思わず言った言葉だから、無防備な心のまま、そんな彼の問いに上手く還す事が出来なかった。


「……ディリィ、目をそらすな。なあ、一体、どこのどいつなんだ? くそ、いつの間に……あれほど誰も近づけないように警戒していたのに……いつからだ? いつ、その男と知り合ったんだ? あれか、この間のパーティの時に俺から離れてご友人たちと話しをした時か? それとも、その前のお茶会で、俺が席を離した時か? どうして今まで黙ってたんだ」

「え……っと……」

 いつからもなにも、ずっとだ。ずーっと、その人の事は小さな頃から知っている。なんなら、この騒動が始まってから毎日一緒にいたし、今だって目の前にいる人だ。

「ディリィ、怒らないから言ってごらん」

 肩を掴む手が痛くて顔をしかめると、おにいさまは平静を取り戻したのか、手の力を緩めていつものように優しく問いかけてくれた。

「ずっと、側にいた人で……」

「うん」

「寄り添ってくれて……」

「うん」

「辛いときに、わたくしを癒してくれて……」

「だ、だから、それは誰だ?」

「……」

 言って、いいのかな? 

 ちょっとずつ小出しにしても、全然気づいてくれない。まさか自分がその相手だなんてこれっぽっちも思っていないのだろう。ますます脈がないと瞼が熱くなり視界が滲みだした。

「ディリィ? 泣かしたいわけじゃないんだ」

「今まで、黙ってて、ごめんなさい……でもね、言ったら、もう、幸せな時間が終わっちゃうって思ったの」

「うん?」

「その人に、告白したら、もう二度と今までのように接してくれないって思ったから。このまま、側にいたくて。だから、だから……ずっと、黙って、おにいさまを側にいさせるような事になったのは悪いと思ってて」

「ディリィ、俺の事はいいから……俺だけには教えてくれ。……すぐにディリィの視界にうつらないように排除してくるから」

「おにいさま、今なんて?」

「あ、いや……んんっ。俺に言えない相手なのか? 言ってみろ。悪いようにはしない。ほら、俺を信じて打ち明けてくれ」

「……ハーティおにいさま」

 おにいさまの最後の言葉は、キャパオーバー気味なわたくしにははっきり聞こえなかった。排除とかなんとか。優しい彼がそんな言葉を言うはずがない。あまりにも心がいっぱいになりすぎて、あらぬ幻聴まで聞こえてしまったみたい。

 でも、もうこうなったら破れかぶれで、彼の問いに答えた。

「ん? なんだ? ディリィ、どうした?」 

 やっぱりというか、なんで、ちゃんと言ったのに気づいてくれないのか。ただ単に彼を呼んだだけだと思われているのがわかり、悲しくて悔しくて憎たらしい鈍感すぎる彼の胸にそっと手を当てて、頬を擦り付けた。すると、おにいさまはそっと囲い込むように抱きしめてくれて背中を大きな手のひらで撫でてくれる。

 お願い、おにいさま。わたくしを受け入れて──

「おにいさま。大好きです……ずっと、好きでした」

 そう言い終るや否や、彼の体がびくりと硬直する。そして、ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、分厚くて熱い唇がわたくしの乾いた唇に噛みつくように触れて来たのであった。
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