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(どうして? こんな時に、どうして、皆あの男と仲良く話しているの?)

 カーテは、あれほどの恐怖を抱えていた自分を置いてけぼりにして談笑を始めた彼らを、信じられない思いで見続けた。

 やはり、眼の前で繰り広げられている三人の言動を見る限り、勝手にベッドに潜り込んでいた痴漢は知り合いのようだ。しかも、単なる知り合いではなく、来月結婚する予定の婚約者らしい。

(嘘よ、私、あんな、中年太りよりもひどい、おっさんみたいなだらしない男なんて知らない)

 色んな意味で混乱と不服だらけで、非常に納得がいかない。うんうん唸っていると、父がこちらを見た。

「カティ、どうなんだ? こいつの言ってることは本当なのか?」
「どうもこうも。お父様、お母様。私、この人のこと知らないんですけど。その、彼が言ったことが本当かどうか以前の問題よ!」

 父の問いかけに、カーテは叫んだ。

「知らない?」
「知らないですって?」
「知らないなんて、そんな! 僕だよ、ターモだよぉ!」

 カーテの言葉に、三人が目がこぼれ落ちて顎が外れそうなほど驚く。二の句がつけないようで、口をパクパクしている姿が、水面でエサを欲しがる鯉のようだと思った。

「あ! もしかして、私に黙って、政略結婚の約束を? ああ、だから、今日始めて会うってわけですかね? はじめまして。ですが、いきなりレディの寝室に、あんな姿でいるのは非常識かと」

 頭も心も追いつかない。カーテは、自分で何を言っているのかわからないほど混乱したまま、優雅に挨拶をした。

「政略だと?」
「政略ですって?」
「そんな、カティちゃん。僕たちは、政略なんかじゃないよ! 幼馴染で、お互いに惹かれ合ったんだ。れっきとした恋愛だよ! 種族が違うからって難色を示されたけど、僕の両親も君の両親もふたりで説得して婚約したじゃないか!」

 続けて出たカーテの言葉に、三人は切れたスイッチがオンになったようだ。とはいえ、両親もようやく事態が深刻なことに気付いた。すぐさま医者を呼ぶよう、指示したのである。

「この人と恋愛だなんて、絶対におかしいわ。だって、私のタイプは、甘やかしてくれる、心身ともに鍛え上げられた5つくらい年上の騎士様だって、お父様もお母様もご存知でしょう? その人、どう見ても甘えん坊っぽいというか。私よりも頼りなさそうだし。しかも、体型が……その、どう見ても、騎士様じゃないですよね?」
「いやいや、彼は騎士に見えないが、一応騎士だぞ。どう見ても、中年のおっさんのようだが。……だがな、タイプと違う相手と結婚することは多々あってだな。たしかに彼は成人病まっしぐらな体型ではあるが。……カティ、本当に覚えてないのか?」
「カティの言う通り、ターモくんは、お父様に似た体型よね。運動が苦手なのに、あなたが騎士がいいって言うから、騎士団のテストを受けたのよ。剣だって、それなりに扱えるわよ。重い長剣は持つのがやっとで30秒で落としちゃうけど。ターモくんの場合、頭脳派だからって騎士団の文官として働いているわ。それも忘れたのね……。タイプはあくまでもタイプであって、あなたがどうしても結婚するならターモくんがいいってわがままを言ったのよ。結婚もあなたのほうが乗り気だったの」

 親子三人で、タッセルをまじまじと見る。失礼極まりない言葉と視線が、彼をぐっさーと突き刺した。
 因みに、自分でも言っていたが、伯爵も愛する妻の何気ない言葉という流れ弾に当たりダメージを受けている。

 タッセルは、大きいだけで力もない、あるのは贅肉だらけの体型のことは自身でも自覚はしている。だが、他人から言われるのは嫌だ。心に傷を負いながらも、必死に反論した。

「カティちゃんだけでなく、義父上も、義母上まで。ちょーっと、ひどくないですか? 僕の種族的に、冬眠に備えて脂肪を蓄える習性があるからだって知ってますよね? それに、中にはちゃんと……多少は、筋肉だってあるよ。指が入り込むぽっちゃりお腹も、ぽにぽに掴める脇腹も、僕の全身が大好きだって言ってたじゃないか! 昨日だって、僕を愛してるって胸に顔を埋めてくれたし、幸せそうに脇腹を摘んでくれてたのに。ダイエットしようとしたら、ダメだって言って、もっともっとって脂肪と糖を食べさせたのは、カティちゃんでしょ! あれは、嘘だったの?」

 ぷるぷる震えながら、目尻に涙を浮かべて反論する彼の脇腹が、ぴるぴる震えている。息を吸うと、胸元の小さなボタンが弾け飛びそうだ。

「は? 私が、この人(のお肉)を? ホントに?」
「ホントだぞ」
「ええ、ホントよ」
「ホントだよ……」
「えーと、ホントのホントに? 冗談とかじゃなくて?」

 カーテが、タッセルだけでなく両親や侍女たちをぐるりと見渡す。すると、全員一致でウンウン頷いていた。

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