【完結】ホテルグルメはまかないさんから

櫛田こころ

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第二部拾参 怜の場合⑦

第3話 新しい呼び名

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 小森こもり家のグループメッセージで伝わったからか、真尋まひろれいのお見舞いに来てくれたようだ。

 メアリーと少し被ったが、アイスでも果物メインのシャーベットを持ってきてくれた。


「ね、ね? ヒロは怜ちゃんが裕司君を呼ぶ時、どんなのがいいと思う??」


 怜が真尋の分の紅茶を入れた後に、メアリーが質問を投げていた。


「あらん? とうとう変える気になったの?」

「う、うん。……物とは違う、クリスマスプレゼント?」

「「へ~~??」」


 そう。少しは考えていたのだ。

 形に残る以外の何かとして、彼には何をあげたらいいのか。それなら、普段の呼び方だろう。結婚はまだでも、ほとんど将来の嫁と周囲に認知されているのだから……いつまでも名字でいるのは良くない。


「ど、どうかなあ?」

「うんうん」

「怜ちゃんらしいじゃなぁい? 素敵よん」

「そうと決まれば、候補とかある??」

「え、えーっと」


 呼び捨て。

 くんづけ。

 今までのような、関西弁ぽい呼び名。

 すべて下の名前でだが……メアリーらに告げると、メアリーの方が『これは?』とスマホに書き出したメモに指を向けた。


「ゆーくん」

「ゆ、ゆゆゆ」

「どもっているわよ、怜ちゃん?」

「よ、呼べるかなあ?」

「怜ちゃんが呼ぶって決めたじゃなあい?」

「う、うん」


『ゆーくん』と呼べるかどうか。

 ふたりが帰ってからも、ゆっくりして軽く寝た後も何度も何度も……繰り返し練習はしてみたが。

 途中で、『こもやん』と今まで通りに呼んでしまう時もあった。愛着があったが、卒業しなければいけないこの名前とも……そろそろ終わりにしなくてはいけない。

 裕司は付き合う前も後も、打ち解けてから名前呼びだったから……怜の方が少し不自然だったのだ。


「…………ゆー、くん」


 新しい呼び名。

 少し、胸がくすぐったいがあったかくも感じてしまう。

 喜んでくれるだろうか。まずは驚くだろうか。

 どちらにしても、裕司が気に入ってくれればいい。

 もう一度、練習で口にしてみようとした時。


「……怜やん??」


 いつの間にか、裕司が帰宅していた時間になっていたのだった。


「こ、ここここ、こもやん!?」


 反射で、今まで通りに呼んでしまうのは仕方がないと思いたい。

 振り返ると、裕司は何故かとびっきりな笑顔でいた。


「そっちじゃない」

「ふぇ!?」

「さっきの」


 どこからかはわからないが、練習していた方を聞かれたのは間違いなかった。


「……言うの?」

「うん、今」

「…………噛む、よ?」

「それでも」


 ほら、と両手を広げてハグの構えになったので……怜は抱きついてから、ゆっくりと呼んであげたのだった。
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