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第20話 苦手が大好きへ

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「……気持ち、良いです」


 外の雲は触れることが出来なかったが、まるで雲に触れたかのような……ふわふわだけど、もこもこしているような触り心地。

 腕や脚を伸ばしても、どこもかしこも泡ばかり。

 顔にもかかるが、不思議と口に入らず苦しくなることがなかった。


【当然。私がミラのために用意したもこもこ泡風呂。ミラが苦しくないように、調整も可能】

「素晴らしいです! 風珀フウハク様!」

【えっへん。……ひと通り遊んだら、体とかを洗おう。私が教えるから自分で洗ってみようか。それなら、ミラも嫌じゃないかな?】

「……頑張ってみます」


 自分で体を洗うなど……父達と過ごしていた時に、あったかどうか。

 王城に行ってからは、あの無理矢理のような洗い方以外なかった。だから、お風呂自体を苦手としていたのだが。

 風珀様がおっしゃるには、持たされた短い布で……体を洗うことをするらしく。桶と言うもので、もこもこを入れてから……洗い場、と言う壁際に鏡があるところで実行するのだとか。

 泡は全然重くないが、多く入れ過ぎてこぼしそうだったのが結構大変だった。


【じゃ、まずはこの蛇口を使う】

「……じゃぐち?」


 金属のような出っぱりがあり、ひねるような部分があるのかはわかったが、何をするためのものかまではわからなかった。


【……これも知らない?】

「……お伝えしたように、無理矢理洗われていただけで」

【……朝とかに顔を洗うのも?】

「そうですね。一応いた侍女達にさせられていました」


 あれについても……特に会話があったわけではないので、良い思い出ではなかった。

 風珀様は少し考えられたが、『じゃぐち』の上をひねられ……少し曲がった先から、水が出てきた!?


【これは水じゃない。お湯】

「! お水ではないのですね?」

【いい熱さにしたから……触れるよ】


 さ、と手を掴まれ……当たったお湯は、あの無理矢理の時のような嫌な熱さのとは違った。ゆっくり浸かっていたいような……思い出せたのは、珀瑛ハクエイ様とこちらの世界に来た時に通った……あの不思議な道の時と同じ。

 いつまでも触っていたい……あの温もりだ。


「こちらも……気持ちが良いです」

【これを別の桶に入れて……まずは、上からゆっくり流して、髪と体を湿らせるんだ】

「あ。わかりました」


 あの無理矢理でも、勢いよくお湯をかけられたことを思い出せた。

 それを自分なりに出来るのは……なんだか、少し嬉しさもあるが新鮮だった。

 なので、風珀様のおっしゃる通りに……じゃぐちの使い方を教わり、桶にお湯をためて……自分の早さで上から流してみた。

 熱くて、痛いと思った衝撃はまったくなくて……ゆっくりと流したことで、ジャバっとした感じがとても心地良かった。


【ん。次は……持ってきた泡で、飛び込んだ時以上に体を包み込むように洗う】


 ゴシゴシではなく、あくまで優しく……と教えていただいたので。

 たっぷりの泡で、髪もだが自分で体を洗う心地良さが……この泡風呂のひと時だけで、苦手としていたお風呂が大好きになったのだった。
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