時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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ユーリス 第一王子派会議にでる

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「ユーリス・シグリス・ダイクレール第5番隊隊長。入室を許す」

昨夜、魔獣討伐を終えて言われたとおりに殿下に会いに王城に向かった。現在執務室の奥にある小部屋では、騎士団総長のクラウス兄さん、宰相のリュースイ・ダン・ボロヌイエールと、王太子付き補佐官のルーク・ジャン・ドレーラルが、一同に介して私の到着を待っていたようだ。

一礼をして部屋の中に入り用意された席に着くと、アルフリード王子がすぐに口を開いた。

「今夜のことはここにいる全員に話した。サクラの存在を知っているのはここにいる者たちだけだ。その上でこれからの対処を話し合いたい」

殿下は、その腕輪と同じ模様のあるものに心当たりがあるらしい。陛下が身に着けているネックレスとエルドレッド王子が持っている指輪がそれだった。
王家に伝わる三種の宝飾品が、聖女の能力を唯一拒絶するものなのだ。

「私は明日、朝一番に父上に会いに行く。サクラの能力について何か聞きだせると思う。それから彼女に連絡を取って、時を止めてもらうつもりだ。その間にエルドレッドの部屋で指輪を探す。どのくらいかかるか見当もつかないが、時間は十分にあるからな。ユーリスには時間を止めている間、彼女の警護にあたって欲しい」

「はい。丁重にお受けいたします」

宰相が口を開く。

「今回のイワノフの奇跡は、聖女の力だとの噂がもうすでにあちこちでたっております。大魔獣2体から町を救ったのは聖女様だと・・・。サクラ様が時間を止める能力をお持ちだということとは、ユイカ様ではなくサクラ様こそが聖女様だという認識でよろしいのでしょうか?つまりユイカ様には、何の能力もないと・・・」

その点はここに同席している全ての者が疑問に思っていることだった。
大神官から召喚された聖女だ認められたユイカは、その能力をもっていないというのだろうか?王子の説明では、召喚の儀のときに2人の聖女が召喚されたという。そのうちの一人のサクラが持っている能力を、ユイカが持っていないとは断言できない。

「ユイカも時を止められるかもしれないということか?その可能性はゼロだと思う。あの女が能力に気がついていれば、この世界はもう破滅していないとおかしい。そうだったろうリュースイ」

宰相は以前の会談を思い出して、神妙な面持ちで頷く。
その隣でルーク補佐官が含み笑いをしながら答える。

「そうですね。普通はあれほどの能力があるならば、殆ど全ての望みを叶えられるでしょう。あの聖女と呼ばれている少女がそれを望まないはずが無い」

ユイカの神殿での聖女らしからぬ振舞いは、その態度に不満を持った神官から外部に漏れ出していた。
享楽的な気質を持つ彼女が時を止める能力を持っていたとしたら、王位を狙って王の寝首はかいたりしないにせよ、おそらく宝石や金銀財宝を手に入れようと思うにに違いない。そのような事件が起こっていないということは、彼女はその能力を持ち得ないと結論付けられる。すなわちユイカは聖女ではないということだ。

「では今夜、夜会に出席していたセシリアという少女が、聖女様だということでいいのですか?ユーリス隊長。ダンスもマナーも完璧なとても美しい令嬢でしたが」

クラウスがユーリスのほうを見て尋ねる。
宰相とルーク補佐官が、驚きの目でユーリスを見る。

サクラがドルミグ副隊長の惨事に関わっていたうちの一人のクラマと、同一人物だとは報告されていた。それがセイレアスから逃げるための男装ということも、ユーリスがその少年を、まるで弟のように溺愛していたのも聞いていたが、一緒にパートナーとして夜会に出席するほどの仲だとは、思ってもみなかったからだ。

サクラが聖女だとすれば、アルフリード王子との婚姻が当然のことだとの認識がこの場の誰にもあった。しかし現在平民の身分のサクラがユーリスのパートナーとして、公式の場に姿を現したのだ。
しかも最近のアルフリードの態度で、時々図書館で会っていたクラマ・・・もといサクラに並々ならない感情を抱いていることは、この場に出席している皆が口には出さないが知っている。
いったいサクラとユーリスはどこまでの関係なのだろう?もう契りをむすんでしまったのだろうか?

ああ、兄さんはサクラに今夜会っていたな。私は夜会のときの優美で可憐なセシリアを瞼の裏に思い浮かべて、微笑する。

「はい。彼女が・・・セシリアがサクラです。このような場で発言することではないかもしれませんが、私は彼女を唯一無二の女性として愛しています」

「・・・・・・・・」

皆一様に、三者三様の思惑で沈黙する。
どれほどの時間が流れたのだろうか。
その沈黙のとばりを破ったのは、アルフリードだった。

「とにかく今夜はイワノフ町襲撃の後処理で、仕事が山積みだ。皆仕事にもどれ。私は明日、計画を実行するつもりだ。ユーリス。サクラの護衛を頼んだぞ」

その言葉でやっと我に返った彼らは、この後待っている大量の仕事に思いをはせて急に神妙な面持ちになった。有能な彼らは、すぐに気持ちを切り替える。
サクラの処遇はまた後日話し合うことにし、会談は終了した。
秘密裏に行われた会談が終了しアルフリードが退室していく様を、皆が礼をしながら見守る。



部屋を出たところの廊下の隅で、私はクラウス兄さんにつかまった。

「クラウス騎士団団長、何か御用でしょうか?」

一応、今は騎士団団長と騎士隊隊長としてこの場に立っているので、礼儀を欠かないように注意して対応する。

「いい、礼はくずしていい。今は兄と弟としての会話だ」

一体何を言うつもりだろう、サクラを諦めろというつもりなら、議論の余地すらないことを伝えてやろう。
私は身構えた。
クラウス兄さんは、そんな私にかまわず続ける。

「お前の彼女への気持ちは夜会で十分に分かっている。強情で一直線なお前のことだから、一時の気の迷いでもないだろう。だが王子の気持ちを知っていて、その上での発言なんだとすれば、お前にその覚悟はあるのか?」

覚悟?一体何の覚悟だというのだ。彼女を失うことは私にとって死に等しいことだ。私は、私の持てるもの全てを投げ打ってでも彼女を守る覚悟がある。たとえそれが自分の命だとしても、私は喜んでそれを捧げるだろう。


「クラウス兄さんならば既に分かっているのでしょう。どれだけ私が彼女を想っているのか。彼女は私の命そのものです。それは彼女が聖女だと知った時でも、少しも変わりありませんでした。兄さんがどんなに止めようとも、ダイクレール家から追放されようとも、私はこの身を彼女に捧げるつもりです」

ふっと、昔兄さんが良く私に見せていた見守るような、慈しむ様な顔をしていった。

「その顔を見たのは、お前がダイクレール家の名を隠して騎士になるといった時以来だ。あの時もお前は家族全員の反対を押し切って、平民としてダイクレール家の名を借りずに騎士隊隊長まで上りのぼり詰めた。きっと今回も、言って聞くようなお前ではないな。お前は自分の信じた通りにやるがいい。後始末は私に任せておけ」

昔見たそのままに、溢れんばかりの兄の愛情に胸が熱くなった。と同時に、これから微妙な立場になるであろう兄に対して罪悪感が沸いてくる。

「クラウス兄さん。申し訳ありません」

絞り出すように言葉を紡ぐ。
その様子を見たクラウスが、ユーリスの肩に手をかけ励ますようにたたいた。

「セシリア・・いやサクラは、すごい男二人に見込まれたものだ。これからが大変だな」


私は苦笑いになった。

サクラは私と王子、どちらを選ぶのだろう。どちらかといえば私のほうが一歩先にでていると思っているのだが、希望的観測による勘違いなのだろうか。

だがサクラがどちらを選ぼうとも、私は彼女の傍にいるだけだ。それだけは譲れない。

私は決意を胸に秘め、歩みを進めた。

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