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企む二家
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パートルム公爵家でメイガーとの話を終え、また父にだけ顔を見せたソンドールは、学院にいるはずのリーリルハを迎えに馬を走らせていた。
(しかし兄上もあんな顔を見せるのだな。まったく貴族という奴は付け入る隙を見つけたら、速攻で手を打ってくる。油断ならん)
養父ナニエルが貴族的駆け引きを苦手としていただけで、既に自分も面倒くさそうなリュスティリアをリーリルハから引き剝がし、他国へ嫁がそうと駆け引きを始めていることには気づいていないが。
兄の話を聞くと、うまくいけば生家にも婚家にもメリットのある話であると、ソンドールもニヤリと笑った。
特に知らせることもなく馬車止めで待っていると、シューリンヒ侯爵家の馬車が滑り込んでくるのが見え、時を合わせるように婚約者も姿を現す。
「リルハ!」
「え?ソンドールさまどうなさったの?」
「迎えに来たんだ」
一緒に歩いていたミューナが視線を反らしたが、口元が楽しそうに笑っている。
「ごきげんようコイント様」
「こんにちは。サークリューム伯爵令嬢でしたね」
「はい、左様でございますわ」
「いつもリルハといてくださり、ありがとうございます」
まるで保護者のような挨拶に、リーリルハの眉がほんの少しだけ顰められたが、ミューナはそれすらも楽しそうだ。
「いえ、私など何も」
そう答える目が笑っている。
「では私はこれで。リーリルハ様、また明日ね」
ニヤつきを隠そうにも隠しきれない、好奇心に溢れた視線のミューナと別れて、ソンドールの手を取ったリーリルハは気まずそう。
「急に来て悪かったかな?」
「いえ大丈夫。何か急ぎのことがあったのでしょ?」
「そうなんだ。ほら・・・の・・」
リーリルハをシューリンヒ家の馬車に乗せながら、ソンドールの声はより小さく低くなる。
御者に自分が乗ってきた馬をひくように頼むと車内に乗り込み、扉を閉め切った。
こうなれば誰に聞かれることもないが、メイガーの忠告を胸に、警戒は忘れない。
「・・・・・で、・・・できれば・・・だと」
リーリルハはリュスティリア王女に、ムイード公爵を紹介さえすればいいと思っていたが、男たちが自分たちが手を伸ばして何とかしてしまおうと考えていることを知り、ことはそんなに簡単ではないと気づいた。
「とにかく、まずは兄上が義父上と・・・と内密に相談したいそうなんだ」
「わかったわ。では私は何も知らないし、喋らない」
「うん、それがいい」
「お父様、ちょっとよろしいでしょうか」
帰宅後、リーリルハたちはすぐにユードリンの元へ向かった。
ここでもソンドールは、メイガーに話したように都合よく端折った話をしたので、リーリルハは感心していた。
少し前まで、貴族の駆け引きがイヤラシイと面倒くさそうに言っていたのに、今やすっかりそのやり方に染まっている。
貴族として発展が絶望的なコイント子爵家では嫌厭していたことも、立場が変わったことで、むしろ積極的に関わっているように見える。
何しろこの策略に触れているソンドールが楽しそうなのだ。
(鍛えられた騎士としては勿論だけど、今のソンドール様は次期侯爵としてもとても逞しくなられたわ!)
暗躍を愉しむソンドールすら好意的に見ている自分に気づくと、リーリルハは可笑しくなった。
(ソンドール様といると、どんなことでも楽しいのだから不思議)
それが例えクィード公爵家の足を引っ張り、自分たちの一派がのし上がるための策略であっても。
こうして、パートルム、シューリンヒの二家は一蓮托生を約束して動き始めたのだった。
(しかし兄上もあんな顔を見せるのだな。まったく貴族という奴は付け入る隙を見つけたら、速攻で手を打ってくる。油断ならん)
養父ナニエルが貴族的駆け引きを苦手としていただけで、既に自分も面倒くさそうなリュスティリアをリーリルハから引き剝がし、他国へ嫁がそうと駆け引きを始めていることには気づいていないが。
兄の話を聞くと、うまくいけば生家にも婚家にもメリットのある話であると、ソンドールもニヤリと笑った。
特に知らせることもなく馬車止めで待っていると、シューリンヒ侯爵家の馬車が滑り込んでくるのが見え、時を合わせるように婚約者も姿を現す。
「リルハ!」
「え?ソンドールさまどうなさったの?」
「迎えに来たんだ」
一緒に歩いていたミューナが視線を反らしたが、口元が楽しそうに笑っている。
「ごきげんようコイント様」
「こんにちは。サークリューム伯爵令嬢でしたね」
「はい、左様でございますわ」
「いつもリルハといてくださり、ありがとうございます」
まるで保護者のような挨拶に、リーリルハの眉がほんの少しだけ顰められたが、ミューナはそれすらも楽しそうだ。
「いえ、私など何も」
そう答える目が笑っている。
「では私はこれで。リーリルハ様、また明日ね」
ニヤつきを隠そうにも隠しきれない、好奇心に溢れた視線のミューナと別れて、ソンドールの手を取ったリーリルハは気まずそう。
「急に来て悪かったかな?」
「いえ大丈夫。何か急ぎのことがあったのでしょ?」
「そうなんだ。ほら・・・の・・」
リーリルハをシューリンヒ家の馬車に乗せながら、ソンドールの声はより小さく低くなる。
御者に自分が乗ってきた馬をひくように頼むと車内に乗り込み、扉を閉め切った。
こうなれば誰に聞かれることもないが、メイガーの忠告を胸に、警戒は忘れない。
「・・・・・で、・・・できれば・・・だと」
リーリルハはリュスティリア王女に、ムイード公爵を紹介さえすればいいと思っていたが、男たちが自分たちが手を伸ばして何とかしてしまおうと考えていることを知り、ことはそんなに簡単ではないと気づいた。
「とにかく、まずは兄上が義父上と・・・と内密に相談したいそうなんだ」
「わかったわ。では私は何も知らないし、喋らない」
「うん、それがいい」
「お父様、ちょっとよろしいでしょうか」
帰宅後、リーリルハたちはすぐにユードリンの元へ向かった。
ここでもソンドールは、メイガーに話したように都合よく端折った話をしたので、リーリルハは感心していた。
少し前まで、貴族の駆け引きがイヤラシイと面倒くさそうに言っていたのに、今やすっかりそのやり方に染まっている。
貴族として発展が絶望的なコイント子爵家では嫌厭していたことも、立場が変わったことで、むしろ積極的に関わっているように見える。
何しろこの策略に触れているソンドールが楽しそうなのだ。
(鍛えられた騎士としては勿論だけど、今のソンドール様は次期侯爵としてもとても逞しくなられたわ!)
暗躍を愉しむソンドールすら好意的に見ている自分に気づくと、リーリルハは可笑しくなった。
(ソンドール様といると、どんなことでも楽しいのだから不思議)
それが例えクィード公爵家の足を引っ張り、自分たちの一派がのし上がるための策略であっても。
こうして、パートルム、シューリンヒの二家は一蓮托生を約束して動き始めたのだった。
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