浅い法華経 改

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浅い法華経18(法華経第三章譬喩品)

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第一章を絵で読んで、第二章を音で読んだ蓮は、さて第三章は何で読むべきかなと思ってこの章に関する文献を見てみた。そして
「これは普通に読んだらいいわ。例え話だから」
と、文字通り文字で読むことにした。
その例え話は、火事になった自宅から3人の子供を助け出す長者の話で、長者はまず、燃える自宅に向かって大声で「ここに3種類の車があるから好きなのに乗りな!乗ったらもっといい車をやるぞ!」と叫ぶ。すると中から3人の子供がその言葉につられて出て来たので、子供たちは助かったというなんてことない話なのだが、この話、まず長者が釈迦の例えで、3人の子供たちは「声聞」「縁覚」「菩薩」の例え、そしてもっといい車というのが法華経の例えだということだ。
これはつまり、法華経の宣伝文句だ。

と、ここで蓮は思考を変える。
これは二重構造の例え話じゃないだろうか?
先の章で、法華経とは「法華経と言われているもの」と考えた蓮の頭には、この例えの章は「どんな者も救う例え話で語られる法華経という例え話で語られる何か」に見えて来るのだ。それは釈迦に法華経を語らせ、それをいくつかの民族を介して日本という国に伝えさせ、日本人である日蓮に精製させた者が描いた大きな話の姿だ。
蓮は教授に、例の半日連のメモは大物が書かせたと言ったが、その大物は法華経という、大陸を股にかけた壮大な例え話を以て、人間の真実を今も伝えているのではないだろうか。
蓮の目はすっかり宙を見ていた。
「法華経と言われているものは、中身じゃなくて経過、文字じゃなくて轍を読むのよ」
蓮はその轍を付ける車輪が、今も回っている気がした。
息を抜こうと自販機コーナーへ行くと、備え付けのテレビが戦争のニュースを流している。蓮はそこに映る戦車の轍が、決して偶然に目に入ったとは思えなかった。
コーヒーを買い研究室に戻り、一息つく代わりに
「法華経は読み方よ。中身じゃなくて表面を読むのよ」
と呟いた。
ふと、開いていた参考文献のページのひとつに、日蓮の描いた「髭曼荼羅」の写真があった。
髭曼荼羅はすべてが文字で書かれた曼荼羅だ。その跳ねたような字体が、伸びた髭のように見えるからそう呼ばれるらしいが、文字の曼荼羅だから神仏の肖像はそこにない。みんな名前だけだ。
そして奇妙なのは、その中心には釈迦の名前ではなく「妙法蓮華経」と法華経の正式名が書かれ、その上に帰依します、つまり身を捧げますの意味の「南無」が乗った
「南無妙法蓮華経」
の7文字が書かれていることだ。
だからこれは特定の神仏ではなく、法華経を信じる不特定の者だということになる。
これを蓮はさっきの言葉に置き換えてみた。

「私は様々な例え話で構成された法華経と言われる何かの例えを信じます」

これが中心にあるということはこれが本尊なのだ。
つまり本尊は不特定の者、言い換えれば「法華経と言われるもの」を信じる誰もがなれるものなのだ。

「仮定が少し進んだかな?」
蓮はやっとコーヒーを口にした。
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