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「それは……。暴行されていますね、その子」
「――は?」


 翌日の夕方、セリュシスは魔物退治から帰って来たアストールに、彼女の身体に痣があったことを伝えると、そんな信じられない言葉が返ってきた。

「な……んで……」
「怪我人は主に、城を守る騎士達や、魔物退治をする兵士達や雇われた冒険者達です。私の騎士団に所属する騎士達は、そんな下劣極まりないことは絶対にしないので、兵士達や冒険者達が、怪我を治して貰いに牢獄に行き、ついでに憂さ晴らしの為に行っているのでしょう。『『ニセモノ聖女』だからこれくらい許されるだろう』と思っていそうですね。性的暴行は絶対にしてはいけないことは分かっているでしょうから、それだけが救いですか……」

 “性的暴行”と聞いて、セリュシスの心臓が大きく跳ね上がり、背筋に寒気が走る。

「そんなの……何で、しちゃいけないって分かるんだ……?」
「……あぁ! 君にはまだ話していませんでしたか。うっかりしてました、すみません。重要なことなので覚えておいて下さいね。“聖女の力”は、清らかな心と身体が必要なんです。清らかな身体――“処女”を失うと、“聖女の力”も喪失します。王族も、そこは口酸っぱく兵士や冒険者に伝えているでしょう。逆に、暴力については黙認しているのでしょうね。一度滅んだ方がいいですね、この国の腐った王族は」

 アストールは、自分が仕えている王族に対しとんでもないことを口にしたが、セリュシスも否定しなかった。

「……絶対に許せねぇ。止めねぇと……」
「王族に告発するのですか? 無駄ですよ、黙認しているのですから。兵士や冒険者を片っ端からやっつけても駄目です。『お前チクっただろ』と、逆に彼女に対して暴行が激しくなりますよ。今は痣だけで済んでいるから良い方です」
「……じゃあどうしろってんだ!? 王族のヤツらのように黙認して見てろって言うのか!?」

 執務机をドンと力強く拳で叩き、セリュシスは吐き捨てるように言葉をぶつける。
 アストールは、そんな彼に自身の黒色の瞳を向け、ジッと見つめた。

「……君はどうしたいのですか? その子を助けたいのですか? 君がただ義務でお世話をしているだけの、『ニセモノ聖女』のことを?」
「アイツをそんな風に呼ぶなっ!!」

 セリュシスはアストールの胸倉をグイッと掴み叫ぶ。そんな彼に、アストールはフッと笑みを浮かべて言った。


「……君の、その子に対する様々な想いを思い返してみて下さい。他の女性には感じなかった気持ちが沢山あるでしょう? それが“好き”という感情ですよ」
「…………っ!!」


 セリュシスはハッとして、アストールの胸倉を離す。


「俺が……アイツを……? ……あぁ――」


 ストン、と何かが胸に落ちた気がした。


 アイツと一緒にいると楽しい。
 アイツともっと話していたい。
 アイツにもっと俺の名を呼んで欲しい。
 アイツの瞳をもっと見つめていたい。
 アイツともっと一緒にいたい。
 アイツの唇にキスをしたい。

 アイツを――


(――そうか。これが……)


「しかし、このまま放っておくのはその子の命の危険性にも関わりますし、何とかしないとですね……」
「……世話行ってくる」
「あぁ、もうそんな時間ですか。――セリュシス、くれぐれも早まったマネはしちゃいけませんよ?」
「……何だよそれ。わけ分かんねぇ」

 セリュシスはそう低く呟くと、騎士団長室から出て行った。


「――やれやれ。我が息子の初恋を応援したいところですがねぇ……」


 アストールは頭を掻くと、小さく息をついた。



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