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しおりを挟む「リュス。いつもありがとうございます」
セリュシスが姿を現すと、彼女は彼にニコリと笑みを見せる。
セリュシスは気付かれないように彼女の身体を食い入るように見回すと、昨夜より痣の数が増えていた。
「…………っ」
セリュシスは無意識に歯を強く噛み締め、歯の間からギリリと音を鳴らす。
彼は牢獄の鍵を開け中に入ると、お盆と着替えを地面の脇に置き、すぐに彼女の傍まで詰め寄った。
「え? リュス……?」
「逃げるぞ、ここから」
「……え?」
「このままここにいたら、アンタの身体がボロボロになっちまう。夜が更け城のヤツらが寝静まったらここから出るぞ。足の鎖は何とか剣で斬ってやっから」
そう彼女の耳元で囁く。彼女は驚いた表情をしたけれど、すぐに困ったように笑って、小さく首を横に振った。
「どうしてだよ!? アンタ、暴行を受けてんだろ!? イヤじゃねぇのかよ!!」
「それは……勿論、イヤ……ですけど……。私の中にある“聖女の力”に、『追跡魔法』が掛けられているんです。逃げてもすぐに追手が来て捕まってしまいます。そしてきっと、逃げる気持ちが起きないように、もっとヒドイことを――」
「……くそっ!! 何とかならねぇのかよ……!!」
「……ありがとうございます、リュス。私のことを心配して下さって……。私なら大丈夫です。ここに来る前も似たような状況でしたし、慣れているというか……。それに何より、毎晩こうやって、リュスと楽しくお話出来るんですから……。私は幸せ者ですよ」
セリュシスは弾かれたように顔を上げると、彼女はとても優しく笑っていた。
――諦めと、悲しみも含めた笑みで。
「…………っ!?」
薄暗くて気付かなかったが、間近で見ると、頬にも赤い痣が出来ている。最近出来た真新しい痣だ。
(……殴ったのか。コイツを……!!)
殴った当人に対し、沸々と莫大な怒りが湧いてくる。彼女の身体に痣を付けた者達に対しても。
(……あぁ、ソイツらマジでブチ殺してぇ。けど今はコイツを助けることが先だ。どうすればいい? コイツをここから出すには……。そもそもコイツは何でここに入れられたんだっけ? ――あぁ、そうだ。回復要員としてここに無理矢理連れて来られたんだ。じゃあ回復魔法が使えなくなればここから出られるんじゃないか? 回復魔法は“聖女の力”……。“聖女の力”を使えなくさせるには――)
セリュシスはここでアストールの言葉を思い出し、ゴクリと唾を呑み込んだ。
言葉を出さなくなった彼に、彼女は心配そうに声を掛ける。
「……リュス……? 本当に、私のことは気にしないで――」
「……なぁ、ここから出たいか?」
「え? あ、えっと……はい……。でもそれは……」
「アンタは回復要員の為にここに閉じ込められてるんだ。なら、その回復魔法が使えなくなればいい。“聖女の力”を失くせば、『用無し』になったアンタはここから出られるはずだ」
「えっ!?」
セリュシスの提案に、彼女はビックリして思わず声を上げてしまったようだ。
「そ、それは……その――」
「俺は“聖女の力”の失くし方を知ってる。アンタを抱き、“処女”を喪失させる。そうすれば“聖女の力”は消える。それにはアンタの〈許可〉が必要だ。俺に抱かれてもいいなら頷いてくれ」
「…………」
彼女は酷く戸惑っている。
そんなの当たり前だ。いきなり『抱かせろ』と、会って数週間しか経っていない男に言われているのだから……。
暫くして、彼女がおずおずとその小さな唇を開いた。
「あの……。リュスはそれでいいのですか? 私なんかを相手に……」
「“なんか”って言うな。――正直に言う。俺はアンタを抱きたい。アンタが好きなんだ。……いや、これは……この気持ちは、きっと……『愛してる』って言うんだろうな……。アンタが無性に欲しくて堪らない」
「…………っ」
彼女の顔が爆発しそうに一気に赤くなる。セリュシスはその可愛さに思わず笑ってしまった。
彼女は挙動不審にワタワタとしていたが、やがて動きを止め、胸に手を置き一呼吸すると、セリュシスを見つめた。
「私も……あなたが好きです。――どうか私を抱いて下さいますか?」
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