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6 圧が強い

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 ファール伯爵はちょっと困った様な顔をしてから、観念して息を吐き私の方をチラリと見る。まだ距離の置き方が十分でなかったのですぐ目が合ってしまった。む?失敗したか?!ファール伯爵のちっちゃい目がなんだか「ごめんね!」と言っているように見えるけれどなんだろうか??

「この度は災難でしたなフレデリック・ジェス殿」

「え?あ、はい?」

 いつの間にかすぐ横にカルセニア伯爵が居て、背中に手を添えられていた。これ以上下がれないぞ。

「お初にお目にかかるかな?私はロバート・カルセニア。以後お見知りおきを」

「え、あ……ありがとうございます」

 カルセニア伯爵は私の名前を知っているようだった。はて、兄と交流があったんだろうか?それにしても……この方も私より背が高い。濃い茶色の髪にヘーゼルの瞳をした、中々の美丈夫だ。腕にも体にもしっかり筋肉がついているから武闘派なんだろうな。それ故に何と言うか圧がある……そして距離が近い!
 背中に回された手がなんとなく下へ下がってゆくのはなんでだ……。私はこのカルセニア伯爵とそれほど親しい間柄ではない、さっきも言ったが初対面なのに、なんでこう、背中をまさぐられるようなことをされなければならないんだ。
 すっと距離を置こうとしたら、今度は肩を掴まれた……なんでだ!

「仲良くしましょう、フレデリック殿!」

「え?あ、はい……」

「ま、まあまあロバード殿、我が家の大切な叔父上殿ですから……」

「分かっておりますよ!はっはっは!ささ、ワインでもいかがか?」

 通りかかった給仕から酒の入ったグラスを素早く受け取り、一つ押し付けるように手渡してくる。要らない、とは言えない所だ。何せ相手は伯爵、子爵の私は大人しく従うのが通り。

「あ、ありがとう……ございます、カルセニア伯爵……」

「ロバートで!ロバートと呼んでください、フレデリック殿」

「あ、はい……ロバート、殿……」

 こう言う輩は苦手だが、これも子爵家の為だ。何とか頑張ろう……。愛想笑いも上手にこなせるようにならなければな。

「いやあそれにしても、まさかなんとも色っぽくなりましたねえ……?たまりませんなぁ」

「はあ……」

 誰か意中のご婦人でもいるのだろうか?このロバート・カルセニア伯爵はどうもそう言った浮名を流すのがお好きな方のようだ。私とは正反対だな…‥と、思いつつも中々手を放してくれないぞ。いつの間にか腰に手を回して私は連れ回されている??いやいや、そういう事はご婦人として欲しい。私だって貧弱な見てくれだが、これでも当主代理なんだ、ジェス子爵家を盛り立てて行かねばならないのだから。

「あ、あの……」

「ああ、酒がないじゃないか!君、新しいのを!それから紹介したい人がいるんだ、来てくれ」

 グラスが新しいものと取り替えられ、減っていなければ飲め飲めと言われ……数人の伯爵に紹介されるが、どうも居心地が悪い。

「この方がジェスの……」

「ほう、噂通りの……」

「ロバート殿は手が早い」

 なんとも微妙な雰囲気だ。この場から立ち去りたいがロバート殿の圧は強くて困ったものだ、どうしたらいいだろう……。



 
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