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32 その不幸は誰かの悪意のせい

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「ねえ、フレデリック。君は自分がどうしてこんなに不幸か考えた事があるだろう?」

「……さあ……」

 不幸。そうか私は不幸なのか。セシリーが口を開けろ、食えというから口を開けて、中に突っ込まれる何か……多分果物だろう、何かを咀嚼し嚥下する。味は分からないが、じゃりじゃりとして気持ち悪い。口いっぱいに砂をほおばるとこんな感じがするだろう。吐き出してしまいたいけれど、そんなことをすると女官が叱られるからしない方が良い。

「せっかく幸せに結婚して暮らしていたのに、突然奥さんと子供を奪われ、自分は正気を失うし。兄夫婦も事故だし、回復してみれば望んでもいないのに男達に襲われ……挙句の果てには捕まって籠の中の鳥のように不自由だ。更に最悪な事に娼婦のように扱われ、昼も夜も啼かされる。相当不幸じゃないかい?」

「……そう、なんだ」

 不幸か、言われてみたらそうかもしれない。目が覚めて甥たちの為に頑張ろうと思ったのに、このざまだし。そうか不幸だったんだなあ。

「フレデリック、その不幸がだったら、お前はどうする?」

「え?」

 セシリーの言っていることが良く分からない。私の不幸が誰かのせい……だと?

「お前の最愛の妻と子供の命を奪ったのも、お前が長年正気を失っていたのも。兄夫婦が事故で亡くなってしまったのも。お前に関わる男達がおかしくなって行くのも、誰かのせいなら。お前、どうする?」

「そんな……馬鹿な、こと……が」

 見たくないと思い、あまり正面からセシリーの顔を見た事がなかったが、向き合ってみると真剣そのものの表情だった。

「どうする?どうしたい?」

 勿論、答えは決まっている。

「許せない」

 私からアージェと子供を奪っただけでは飽き足らず全てを奪いつくそうとする誰かがいるならば、絶対に許せない。殺しても飽き足らない。

「では始めよう。罪は罪へ、呪いは本人へ。結界を張れ!それから解呪だ」

「心得ましてございます」

 何人もの魔導士達が現れ、魔法を使い始めた。何が起こるのか見当も付かず、いつものベッドの上に座り込んでいるだけだったが、隣にいるセシリーが体を引き寄せる。

「おかしいと思ってはいたが、私にまでちょっかいをかけてきたから全貌が見えた。恐ろしきは女の情念だが、これは常軌を逸している」

「結界が完成します!」

「やれ」

 何か、まるで太いゴムが限界まで引き伸ばされ力に耐えきれず切れた、そんなバチン!と大きな音が頭の中に響き渡る。

「うわっ!なんだっ!」

「結界で呪いの供給源を切ったんだ。さあ、絡みついた怨念を祓うぞ」

 何が起こっているか分からず、ただされるがままになっていた。


 
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