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その他の話
バババババ
しおりを挟むここは元々ゲームの世界。だから現実世界のイベントや行事なんかが反映されることもあるし、現実世界の趣味趣向が取り入れられたりもする。
今日も今日とて、初級治癒術師お人好しマークを演じ続けている私で俺のマラカイト・凛莉はわざとぺたぺたと足音を立てて町を歩き回る。ほら、ゲームで街の中をむやみやたらと歩き回るNPCいるだろう?あれの役なんだ。だからといって動きが固定されている訳でもなく、自由に動けるし、気になったら家に帰って街歩きをやめることも出来る。結構自由度があるんだけれどね。
ぺたぺたと歩き回って、今日は服飾が多く売られているエリアの方へ足を延ばしてみた。本当に、本当にたまたまだったんだけれどね。
「でね。えーと結構前にさ。イベントで配られたの覚えてないです? うさぎ耳のヘアバンド」
「あー……なんか流行っているとかって冒険者の皆さんが一様につけてましたっけ」
「うんうん、それでね~こっちにはいないかもしんないんだけど、お酒とか出すちょっとエッチなお店にね……こういうこういうかっこしたウサギのお姉ちゃんがいるんだ」
「ひゃあっ……えっちぃ!」
「でしょーっでもさちょーかわいいんだよ」
「わかるかも……」
広場に冒険者二人と……あれはサファイア君だ。女性の冒険者とサファイア君がしゃがみこんで何かお話している。気にせず通り過ぎれば良かったのに、つい寄って行ったのが間違いだった。
覗き込むと三人は地面に棒で絵を描いている。人の全身図だ。
「何をなさっているんですか?」
「うわっ……あーマークさん!」
驚いて顔を上げたサファイア君。珍しいな、彼が私の気配を読まずに素でびっくりするなんて。よっぽど描いていたものに気を取られていたんだろう。
「あー治癒術師のマークちゃんだ~今日もほわほわだねえ」
「マークちゃんこんにちわ~今日も可愛いねぇ」
「はい、こんにちは」
冒険者は中の人の年齢はわからないけれど、大抵20歳前後の見た目で作ってくる人が多い。そんな妙齢の女性達にちゃん付けで呼ばれるのは些か不本意だけど、マークはそんなことで怒ったりはしない。にこにこして、名前を憶えて貰っていた事の方が嬉しいよって顔をしているのだ。
「皆さんで何をしていらっしゃるんですか?」
「マークちゃん、バニーガールって知ってる~?」
「知りませんけれど、ウサギの女の子なんですか?」
何話してんだ、こいつら。思いっきりわかるけれど何にも知らない振りをする。てか、サファイア君に何吹き込んでるのかな……!?
「んーっ基本女の子なんだけど、男の子もアリだよ、あり!」
やめろ、変なこと言うな。
「マークちゃん似合いそうじゃない? あーでもマークちゃん背が高いから~うさ耳付けたら2メートル超えちゃうかもっ」
「うさみみ? 2メートル??」
知らない振りを貫くしかない。
「確か、イベントで作ったうさ耳が余ってたはず……あった。マークちゃんにあげるねー!」
「えっ」
あっという間に頭の上から白いうさぎの耳がポンと生えてしまった……やめてくれ、成人男子にうさ耳を生やすな、といいたいがマークなのでえへへと笑うしかない……クソっキャラ付け失敗じゃねえかこれ!
愛想笑いを浮かべているうちに冒険者の女性二人組は手を振って消えて行った。
「……お似合いッス」
「そんな訳ないでしょう? 締めてあげようか?」
「ひゃいっ!」
サファイア君はそのままそそくさと逃げて行ったから、その時は見逃してあげたけれど、あの場で締めておけばよかったと、次の極会議の時にげんなりした。
「おい」
「絶対、絶対っ! ぜーーーったいっ! 凛莉師匠はうさみみは白じゃなくて黒じゃないと駄目だって思ってたんですっ!!やっぱりね、絶対そうだと思っていました、お似合いですっ素敵ですッヒューヒュー! あだだだだだ!」
サファイア君の頭を左手で締め上げる。渡されて思わず着ちゃったけど、馬鹿でかいバニーガールが目の前の鏡に映っていた……。ふわっふわのうさぎの耳はあの時冒険者が渡してきたものより立派で更に大きかったし、なにこの物凄くかかとが高くて滅茶苦茶とんがってるヒールは。俺でも気を付けて歩かないとかくんってなりそうなほどバランスが悪い。このでかいうさぎの耳と凄いピンヒールのせいで、三メートルはあろうかという巨大な化け物が立っていたんだよ。きもっ、こわっ!
「んはぁ~美しいー! やっぱり師匠は足の筋肉のつき方も最高ッス。網タイツがこれほど似合う足はいませんって!」
「誉め言葉じゃないぞ」
「それにこの妙なツルツル素材のボディスーツ! スライムを加工して作った特殊な布で作るんですけど、なんと水をはじくんですよ!しかも着用素材なのに、蒸れるんですっうわーっマニアックすぎますねー。」
「そんなもので服を作るんじゃない」
「そして、異常なほど空いた背中なのに胸のところは隠す変な設計!これ、胸の所がパカパカして見えたり見えなかったり見えたりするそうです! 良いんですかね?」
「駄目だろ」
「そしてこのサイドは何故か編み上げになっている所!ここから蒸れを逃がすんですかねえ?でもここが空いているから中に下着をつけられないんです。想像をかきたてられます」
「たてんで宜しい」
「そしてこんなに脱いだも同然なのに、襟は残し、蝶ネクタイも必須であり、袖だけもつくんだそうですよ。訳が分からないけれどなにか情熱を感じます!」
「確かに訳はわからんな」
「そして、一番のポイントは股間! 股間なんです! 隠さなきゃいけないし、隠せないモノがあるのに、こういうきわどいラインの切れ込みの激しい衣装が良いそうなんです! もうソコにナニがあるか分かっちゃうくらいシルエットが浮かぶところが最高に魅力的なんだそうです! ポロリもあるよ! それは私も激しく同意する所ですね!」
「すんな、アホ! 流石にこんな恥ずかしい服は着ないっ」
「しくしくしくしく……」
「泣いても駄目!」
あの時地面に描いていたバニースーツがまさかここで出て来るとは予想だにしなかった……。
「そういうと思って別のタイプも用意しておきました。こっちはホットパンツを穿くんですけど、上半身は全面だけ覆うジレのようなタイプに……」
「バニーから離れなさい」
「やですううううっ! エロ可愛いかっこいい師匠のバニーボーイを見るまでこのサファイア絶対にここから離れませんっっ!!」
「埋めるよ?」
「埋めないでぇ~師匠おおおっ! 網タイツ素敵です~~」
「ヤダこの子っ!」
ついピンヒールで踏んづけてしまった。
「あっーあっーあっー!圧倒的ご褒美です、倒錯ですぅ!ボディスーツにそこはかとなくうっすら浮き出た腹筋にでっかいおっぱいが光を反射してツヤッツヤのエッロエロぉー!」
「黙れ! 変態っダイヤモンドの家に素っ裸で括り付けてくるぞ!」
「それ、いつものプレイです」
「変態だー!」
その日は極会議に遅刻してフロウライトにちょっと叱られたし、後でダイヤモンドにも窘められた。
「はぁ? せっかくサファイア君が心を込めて作ったバニーガールのボディスーツを着ない?凛莉……お前は人の心を持ってるのか? 闇暗殺者になって、そんな慈悲の心を忘れちゃったのか……?」
意味の分からない説教だったのですべて無視した。あとそんな慈悲の心なんてこの世に存在しない。
「お、俺なんて試着で全部着たんだからねっ!ポロリしたけど、毛も剃っちゃったんだからねっ俺もツルッツルよ」
仲が良くて何よりだ。
「おねいちゃん、バニーガールなの? みたいみたいみたいみたいみたいみたいみたいみたいみ」
「口を閉じて」
「むぎゅ」
シトリンの口はつまんで置いた。
「凛莉……」
「やめろ」
「その」
「着ない」
「サファイアが置いて行ったんだが」
「着ない」
「少しだけ……」
「着ないっ!」
「凛莉……」
サファイア君はフロウライトを仲間にしようとしたらしいがいくら俺でもあんな恥ずかしい服はもう二度と着ないったら着ない!叱られた大型犬みたいにしょんぼりしても駄目なものは駄目だ!
「私が遅刻したことを咎めたから怒っているのか、凛莉」
「そん訳ないだろう」
「じゃあ!」
「着ないっ」
「しかし、ダイヤモンドがこの服は股間の所が開くから着たままできるって」
「絶対に、着ない」
「しゅん」
サファイア君!?本当にマジで何作ってるのかな!? 今度会ったら両手で絞めておこう……ちょっと頭蓋骨がミシミシいってもいいよね?
「でも押せば凛莉は着てくれるってサファイアが言ってた」
「ちょっとサファイア君を絞めてくる」
「こ、このボディスーツだけでも着てくれないか? 胸がす、凄いって……」
「……」
絶対に着ない。俺に慈悲の心なんてない!
○✖️△◻︎凸凹⭐︎……
「可愛い私の黒うさぎ……昼頃に昼食を買って帰って来るから一緒に食べよう。君は無理せず寝ていて欲しい」
くそっなんだってんだ……ていうかあいつはなんで普通に起きて仕事に行けるんだ? 体力お化けか!
悪態の一つもついて枕でも投げつけてやろうかと思ったら声は掠れてでないし、腕を振り上げるのも億劫だったからやめたんだ。もう絶対泣かれたってこんな服着るもんかっ!! 馬鹿やろーっ!
バババババ(バニーじゃねーか!) 終
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