月と影は西風に踊る~佐々源之助退魔録
辻尾藩には、暗い噂がある。
もともとが、初代藩主である武田家中の武将鎌掛三秀が、いちはやく主君を裏切り、松平元康に走ったのが、その祖だったという。
時期は、長篠の合戦の直後。確かに、多くの有力な武将を失ったものの、まだ滅亡の兆しは見えない。どころか、当主松平元康にしてみれば、凄まじいまでの甲斐の国からの圧力が、一段落し、ほっと一息がつけたという感触しかない。
鎌掛三秀が、つてをたぐって、松平元康に、面会を求めてきたのはそんな折である。
後に徳川家康となるこの人物は、裏切り者を好まなかった。
それでもことが己に利があるとするならば、苦渋を飲み込むのが、この男である。
なので、密かに、会った。
場所は、地元の名刹宝徳寺とも言われている。
繰り返す。
元康はそのような人物は好まなかったのだ。
会見は、武田家からの離反を申し出る三秀に対し、松平側がいろいろと理由をつけては、それを思うとどまらせるという、わけのわからない押し問答がしばらくの間、続いた。
業を煮やしたか、鎌掛三秀は、こう言ったのだ。
お命を縮めたいお方はおられまするか?
松平元康は 渋い顔をした。三成の話は 戦場働きのことを言っているのではない。
戦場以外で 人の命を殺める。そのような特殊な技術を 代々伝えてきた一族 なのだと。その噂はかねがね伝わっていた。
「例えば、誰じゃ?」
「恐れ多くも、織田信長公。」
傲然と答えて、三秀は、からからと笑った。
その笑いは凶にして狂。
だが、直後になにも感じさせないふよふよとした柔和な表情に戻った。
結果として、元康は御側衆の1人として、三秀を召抱えた。
のちの織田信長の非業の死、本能寺の変において、また、大阪城の陥落と豊臣家の滅亡において、鎌掛三成とその家臣たちがどのような働きをしたのかは、伝わっておらぬ。
だが、のちに、鎌掛家は、駿河の国にて、一万二千石を拝領した。
これを城の置かれた地名をとって辻尾藩と称した。
時は流れ、太平の世。
まだ夜も開ける道中を、国境に向かって急ぐ若き侍の姿があった。
もともとが、初代藩主である武田家中の武将鎌掛三秀が、いちはやく主君を裏切り、松平元康に走ったのが、その祖だったという。
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鎌掛三秀が、つてをたぐって、松平元康に、面会を求めてきたのはそんな折である。
後に徳川家康となるこの人物は、裏切り者を好まなかった。
それでもことが己に利があるとするならば、苦渋を飲み込むのが、この男である。
なので、密かに、会った。
場所は、地元の名刹宝徳寺とも言われている。
繰り返す。
元康はそのような人物は好まなかったのだ。
会見は、武田家からの離反を申し出る三秀に対し、松平側がいろいろと理由をつけては、それを思うとどまらせるという、わけのわからない押し問答がしばらくの間、続いた。
業を煮やしたか、鎌掛三秀は、こう言ったのだ。
お命を縮めたいお方はおられまするか?
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戦場以外で 人の命を殺める。そのような特殊な技術を 代々伝えてきた一族 なのだと。その噂はかねがね伝わっていた。
「例えば、誰じゃ?」
「恐れ多くも、織田信長公。」
傲然と答えて、三秀は、からからと笑った。
その笑いは凶にして狂。
だが、直後になにも感じさせないふよふよとした柔和な表情に戻った。
結果として、元康は御側衆の1人として、三秀を召抱えた。
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