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闇夜に舞う者は
一に右足
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街に駆け出し、声の主を探していた僕だったが、不意に、誰かに強く腕を引かれた。
「ウタさん!」
「っと……ふ、フローラ!? どうして、アリアさんたちは?」
「先に行ってもらいました。私だけが来たんです。……何があったんですか。そんな急に」
そうだ、ろくに事情も話さずに走ってきてしまった。……こういうところだよな、僕は。
「……実は、さっき歩きながら街の人の声を聞いていたんだけど、その中で『ダークドラゴン』って呟いてた人がいて」
「……それって、もしかして」
「ドラくんをドラゴンだって見抜けたんだとしたら、それがニエルだって可能性が結構あると思うんだ。
……で、逆にどうしてフローラは僕を追いかけてきたの?」
「一人で行かせるわけないじゃないですか。ウタさん、急に走っていっちゃうから、何かあったのかもって思って……。
あの話をしたあとで、ドラくんやスラちゃんを行かせるわけにはいきませんし、挨拶にはアリアさんがいないと話になりません。ポロンは行きたがってたけど、ちょっと様子がおかしいかったし、一応、私の方が年上なので」
「……僕一人でも大丈夫だったんだよ?」
「それはダメです」
……きっぱりと言われてしまった。フローラの銀色の瞳はまっすぐに僕をとらえ、その想いを、痛いほどに訴えかけてきた。
出会った頃は、見えてもいなかった瞳。少し見えたとしても、決して視線が重なることがなかった瞳。その瞳が今では、こうしてまっすぐ僕を見て、強い意思を伝えている。……なんだか、泣けてきそうだ。
「ウタさんは、一人にさせると絶対に無理をします。その力を信用していない訳ではないですけど……。それでも、私たちから見たら心配なんです。心配で心配で、怖いんです。ウタさんの勇気は『自己犠牲』だから。いつか」
死んでしまうんじゃないかって。
そう呟いたフローラと視線を合わせ、僕はできるだけ自然に微笑んだ。
「大丈夫、僕は死なないよ。……そう簡単にはね」
「でも」
「だって、実際に一回死んでるわけだけど、こうやってしぶとく生きてるわけだからさ。……それに」
僕は再び、声に集中する。あの声が聞こえないか、じっと耳を澄ませる。あの声がニエルの声でほぼ間違いない。……どこに行ったんだ。
「……僕は、ドラくんとスラちゃんの主人であって、Unfinishedのリーダーでもあるからね。
もうみんなを、無責任に危険なめに遭わせたり出来ないし、ドラくんやスラちゃんに危険が迫ってるなら、それから助けてあげなくちゃいけない。僕にはそういう義務があるんだって、この間ので思い知らされたからさ」
実際、そうなのだ。ブリスに裏切られたとき、テラーさんが助けてくれなければ僕らは確実に死んでいた。そして、そんな状況に持っていったのは、紛れもなく、僕の身勝手な判断なのだ。僕が、『疑う』ということから目を背け続けたから、こういうことになったのだ。
個性の塊'sには……迷惑もかけられたけど、なんだかんだで、助けてもらってばっかりだ。ふざけたようなパーティー名で、ふざけたようなメンバーで、ふざけたようなステータスで……。でも、自分達の力をきちんと分かっていて、その範囲で出来ることをやっているのだ。
ジュノンさんだって、物腰や態度はあれだけど、正直、ほぼ全て見通しているんじゃないかってくらい、的を射たことを言う。そして何より、自分の力を分かってるからこそ、無理をしない程度に、力を抜けるところはとことん抜いて、任せるところは任せて、確実に仲間を守っていく。その判断力は……正直、すごい。
「……ウタさんが言うことも、思ってることも、何となくわかります。でも、とりあえず今は、戻りませんか? まだ国王陛下に挨拶していませんし、陛下なら、ニエルについて、何かご存じかもしれません。一度行って、聞いてみるのもいいかもしれませんよ?」
……正直僕は、このまま戻る気にはなれなかった。こうしている間に、ニエルは誰かを殺すかもしれないし、ドラくんを探して、どうこうしようとか考えてるかもしれない。一歩引く、ということが不安で仕方ないのだ。
だけど、前はそれができなくて、みんなを危険なめに遇わせた。
「…………分かった。じゃあとりあえず、一回戻ろうか」
僕がそういうと、フローラはパッと顔を輝かせた。
「はいっ!」
そして僕はフローラの手を握り、お城の方へと歩き出した。そして、2、3歩歩いたときだった。
「――一に右足、二に左足」
「っ……フローラ、こっち」
「え、え?」
聞こえていなかったのか、困惑している様子のフローラの手を強く引き、僕は走り出した。出来るだけ遠くに、出来るだけ早く……!
「う、ウタさん……?! ちょっと……手、いたい、です……」
「ごめんフローラ、でも、少しだけ我慢して。本当にごめん」
ヘタレとはいえ、年齢差も男女での差もある。僕の足についてこれなくなったフローラが、不意によろける。僕はその体をとっさに抱き抱えてお城まで走った。
とにかく安全なところまで。とにかく、『声』が聞こえないところまで。
『いいな……そうやって逃げられるのも悪くはない。殺したときの表情が、より面白くなるからな』
「ウタさん!」
「っと……ふ、フローラ!? どうして、アリアさんたちは?」
「先に行ってもらいました。私だけが来たんです。……何があったんですか。そんな急に」
そうだ、ろくに事情も話さずに走ってきてしまった。……こういうところだよな、僕は。
「……実は、さっき歩きながら街の人の声を聞いていたんだけど、その中で『ダークドラゴン』って呟いてた人がいて」
「……それって、もしかして」
「ドラくんをドラゴンだって見抜けたんだとしたら、それがニエルだって可能性が結構あると思うんだ。
……で、逆にどうしてフローラは僕を追いかけてきたの?」
「一人で行かせるわけないじゃないですか。ウタさん、急に走っていっちゃうから、何かあったのかもって思って……。
あの話をしたあとで、ドラくんやスラちゃんを行かせるわけにはいきませんし、挨拶にはアリアさんがいないと話になりません。ポロンは行きたがってたけど、ちょっと様子がおかしいかったし、一応、私の方が年上なので」
「……僕一人でも大丈夫だったんだよ?」
「それはダメです」
……きっぱりと言われてしまった。フローラの銀色の瞳はまっすぐに僕をとらえ、その想いを、痛いほどに訴えかけてきた。
出会った頃は、見えてもいなかった瞳。少し見えたとしても、決して視線が重なることがなかった瞳。その瞳が今では、こうしてまっすぐ僕を見て、強い意思を伝えている。……なんだか、泣けてきそうだ。
「ウタさんは、一人にさせると絶対に無理をします。その力を信用していない訳ではないですけど……。それでも、私たちから見たら心配なんです。心配で心配で、怖いんです。ウタさんの勇気は『自己犠牲』だから。いつか」
死んでしまうんじゃないかって。
そう呟いたフローラと視線を合わせ、僕はできるだけ自然に微笑んだ。
「大丈夫、僕は死なないよ。……そう簡単にはね」
「でも」
「だって、実際に一回死んでるわけだけど、こうやってしぶとく生きてるわけだからさ。……それに」
僕は再び、声に集中する。あの声が聞こえないか、じっと耳を澄ませる。あの声がニエルの声でほぼ間違いない。……どこに行ったんだ。
「……僕は、ドラくんとスラちゃんの主人であって、Unfinishedのリーダーでもあるからね。
もうみんなを、無責任に危険なめに遭わせたり出来ないし、ドラくんやスラちゃんに危険が迫ってるなら、それから助けてあげなくちゃいけない。僕にはそういう義務があるんだって、この間ので思い知らされたからさ」
実際、そうなのだ。ブリスに裏切られたとき、テラーさんが助けてくれなければ僕らは確実に死んでいた。そして、そんな状況に持っていったのは、紛れもなく、僕の身勝手な判断なのだ。僕が、『疑う』ということから目を背け続けたから、こういうことになったのだ。
個性の塊'sには……迷惑もかけられたけど、なんだかんだで、助けてもらってばっかりだ。ふざけたようなパーティー名で、ふざけたようなメンバーで、ふざけたようなステータスで……。でも、自分達の力をきちんと分かっていて、その範囲で出来ることをやっているのだ。
ジュノンさんだって、物腰や態度はあれだけど、正直、ほぼ全て見通しているんじゃないかってくらい、的を射たことを言う。そして何より、自分の力を分かってるからこそ、無理をしない程度に、力を抜けるところはとことん抜いて、任せるところは任せて、確実に仲間を守っていく。その判断力は……正直、すごい。
「……ウタさんが言うことも、思ってることも、何となくわかります。でも、とりあえず今は、戻りませんか? まだ国王陛下に挨拶していませんし、陛下なら、ニエルについて、何かご存じかもしれません。一度行って、聞いてみるのもいいかもしれませんよ?」
……正直僕は、このまま戻る気にはなれなかった。こうしている間に、ニエルは誰かを殺すかもしれないし、ドラくんを探して、どうこうしようとか考えてるかもしれない。一歩引く、ということが不安で仕方ないのだ。
だけど、前はそれができなくて、みんなを危険なめに遇わせた。
「…………分かった。じゃあとりあえず、一回戻ろうか」
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「はいっ!」
そして僕はフローラの手を握り、お城の方へと歩き出した。そして、2、3歩歩いたときだった。
「――一に右足、二に左足」
「っ……フローラ、こっち」
「え、え?」
聞こえていなかったのか、困惑している様子のフローラの手を強く引き、僕は走り出した。出来るだけ遠くに、出来るだけ早く……!
「う、ウタさん……?! ちょっと……手、いたい、です……」
「ごめんフローラ、でも、少しだけ我慢して。本当にごめん」
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