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第一部 第三章 夢の灯火─レイナス団編─

殲滅の鬼 1

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「撃ち方やめぇ!! どうだっ!? 殲滅鬼を仕留……めでゅんっ!!」

 イルネルベリ兵の隊長がノヒン死亡確認のために連弩れんど隊を止める。と同時──

 横薙ぎ一閃。

 周囲の重装兵ともども飛び込んできたノヒンに両断された。

「いいねぇー! ルイスが鍛えたこの鉄甲! 最高じゃねぇか! 防いで殴って斬って! 俺向きの装備だぜっ!!」

 両断されたイルネルベリ兵隊長の前に、鉄板のごときツヴァイヘンダーを構えたノヒンが堂々と立っていた。恐ろしいことにノヒンは、あの連弩の嵐を鉄甲のみで防ぎきったのだ。

「しかもいい敵意じゃねぇかっ! 信じらんねぇぐれぇ力が漲ってきやがるっ!!」

 体にギチギチと力が漲る。ノヒンは敵意を向けられれば向けられる程に身体能力が上がっていく。他の魔女や魔人とは一線を画したノヒンだけの特性。

 これだけの数の兵に囲まれたノヒンは、殲滅鬼としての本領を発揮していた。

「くそっ! 隊長がやら……れびゅんっ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁっ! ば、化けも……のぐぉっ!!」
「だ、だめだ! 逃げるんじゃな……いびあっ!!」

 殲滅の乱舞──

 ノヒンは重装兵を足蹴に城壁の上へと飛び上がり、連弩隊を次々と潰して回る。殴り殺し、千切り殺し、斬り殺す。

 ここまで来るとイルネルベリ兵は恐慌状態に陥り、隊としてまともに機能していない。殲滅鬼の噂は聞いていたが、まさかこれほど凄まじいとは誰も思ってはいなかった。

「なんだぁっ!? イルネルベリってぇのはこんなもんなのかぁっ!? 逃げてんじゃぁねぇぞこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 全員ぶっ殺すっ! うちのお姫さん傷付けやがったんだっ! 生きて帰れると思うんじゃねぇぞっ!! っくぞおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 凄まじい咆哮と共にノヒンが城壁から飛び降り、群れるイルネルベリ兵に向けてツヴァイヘンダーによる横薙ぎの一閃。と同時にくるりと回って背後への横薙ぎ。城壁上から撃ち込まれる矢を鉄甲で叩き落とし──

 地面を力強く蹴りつけて飛ぶように前身。向かい来る重装兵を縦に両断し、そのまま踏み込んで横薙ぎの一閃。更に踏み込んで切り返しでの横薙ぎの一閃。

 フルアーマーの重装兵が千切れ飛び、まるでガラクタのおもちゃのように感じられる。

「ちっ、全然歯ごたえがねぇじゃねぇかっ!! なんだぁっ!? てめぇらお遊びで戦争やってやがんのかぁっ!? ……っつぅっ!!」

 竜巻のような剣戟を放つノヒンの脇腹に、一本の矢が突き刺さる。

「……なんでぇ、少しは骨のあるやつがいるじゃねぇか」

 ノヒンの視線の先──城壁の見張塔の上に一人の弓兵が立っていた。手には魔獣の角を組み合わせたような、特殊な形状の弓を持っている。ノヒンの視線につられ、処刑場のイルネルベリ兵も見張塔の上を見る。

「あれは……最近入隊したロプト! なぜあんなところに? それにあの弓はなんだ……? 酷く禍々しい。おいっ! ロプト!! 貴様そんなところで何をしている! まさか恐れをなして隠れていたの……かぶんっ!!」

 叫んだイルネルベリ兵に向けて、ロプトと呼ばれた弓兵が矢を放つ。放たれた矢は恐ろしい速度でイルネルベリ兵の頭蓋を貫通。

「……ここ数年、ナクモの動きが激しいと思い戦場を転々としてみたが……あれはヴァンの流れを汲む者か? ふむ……面白そうだ」

 ズガンッ! と轟音を響かせ、ロプトがノヒンの目の前に降り立つ。目の前に立ったロプトは──

 黒い短髪に華奢な体と薄い革鎧レザーアーマー。正直その辺の少年兵のようにあどけない姿をしているのだが……

 ノヒンを見つめる漆黒の瞳の奥に、毒々しい赤い淀みを帯びていた。

「お前か? この矢ぁ撃ったのは?」
「そうだ。どうやら楽しい戦いが出来そうだったのでな」
「本当におめぇが? 全然そうは見えねぇんだが……」

 どう見ても練兵などされていない華奢な少年兵。だが信じられない威力の矢を放ったことは確か。

「……この姿か? これは懐かしき我が同胞はらから神也カミヤの姿を借りている。姿を変えねば必要のない戦闘が増えるのでな。私は強い相手とだけ戦いたいのだ」
「姿? おめぇは何を……」

 目の前でメキメキと音を立て、ロプトの姿が変わっていく。背はノヒンよりも高く、ノヒン以上に筋骨隆々。顔は失われし東方の国の伝承で描かかれる鬼のようであり、魔の者であろうことは間違いない。

「おめぇ……その姿……」
「久しぶりのこの姿! 存分に楽しませて貰うぞ! ヴァンの流れを汲む者よっ!!」
「ヴァン? なんでぇそりゃ……っづうっ!!」

 ゴギンッ!! という鈍い音と共に勢いよくノヒンが吹き飛ばされ、処刑場の壁へと叩きつけられた。

「ぐぅ……なんつぅパワーだ……」

 見ればロプトの手には弓ではなく、巨大なハンマーが握られていた。首からは黄金に輝く首飾り。その姿を見たイルネルベリ兵がざわざわと騒いでいる。

「あ、あれは神器ミョルニル粉砕するものグルヴェイグ黄金の力じゃないか!?」
「う、嘘だろ!? あれは神話の中の話だ! 実在するわけが……」
「……ってことはロプトってあの『終える者ロキ』か!? 何百、何千年と戦場に現れては殺戮を楽しんだと言われる……」
「そ、そんなわ……げぶぅっ!!」

 ロプトが手に持ったハンマーを投げ、イルネルベリ兵が弾け飛ぶ。鎚はそのままロプトの手へと戻った。

「ほ、ほら! やっぱりミョルニルじゃないか! あれは必ず使用者の元へ戻るって話……しいぎゃっ!!」

 ロプトの鎚により、次々とイルネルベリ兵が弾け飛んでいく。

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