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第9章 フォレスト国
第147話 あの頃のように
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「何を馬鹿なことを言っている!?それではお前が王になる意味や目的がないだろ!」
「血迷ったのか!」
「いいえ。私は初めから王になる気などなかった。ただそれだけなのです。私の望みはただ1つ。この国で暮らす人々が毎日幸せに生きていくことができるようになることです。それが叶うのであれば、私に地位や名誉など必要ではありません」
「ならば、一体誰が王を…………」
「それならば先程も申し上げた通りでございます」
「っ!?ま、まさか…………」
「俺達で……………」
「はい」
「……………笑えない冗談だ。未だかつて2人の王での統治など聞いたこともない」
「………………」
「フォレスト王は3人の中から後継者を選ぶと仰っただけでその際に人数の指定はありませんでした。なので理論上は可能なはずです」
「とんだ屁理屈だな」
「良い落とし所と仰って頂きたいです」
「ふざけるな!俺がこんな奴と一緒に国家を運営していくだと!?冗談じゃない!」
「それはこちらの台詞だ。そもそもお互いの目指すものが違うんだ。上手くいくはずがない」
「そんなことはありません。本来のお兄様方であれば、志は1つなはずです」
「一体、何を根拠に」
「思い出して下さい。まだ幼かった頃の私達を…………日が暮れるまで楽しく笑い合っていたあの頃のことを」
――――――――――――――――――――
それは僕が第三王子として迎い入れられてから、まだそれほど経っていない頃。新しい生活に戸惑いを隠せず、周りとも上手く馴染めない日々が続いていた。毎日行われる礼儀や作法に関する教育また王族として最低限、身に付けておかなければならない知識の学習……………そういったものに少し嫌気が差していた僕は城の敷地内にある噴水の近くに腰掛け、何もせずただぼーっとすることがいつしか日課になっていた。そんなある日のこと。いつものように日課を行っていると声をかけてくる者達がいた。
「お、リースじゃん。そんなところで何してんの?」
「あれ?最近あまり見かけないと思ってたら、こんなところにいたのか」
それはディースお兄様とエースお兄様だった。
「…………何もしてない」
ただぶっきらぼうにそう言うしかなかった。当時、僕は城の誰にも悩みを打ち明けることができなかったからだ。みんな日々忙しそうにしていたし、自分1人のことで迷惑をかけたくなかったからだ。特にお父様には絶対に現状を知られないよう気を付けて行動していた。だから、当然お兄様達にも詳しくは話そうとしなかった。なのに……………
「どうしたんだ?何か悩みでもあるのか?」
「何か困ったことがあれば話してみろよ」
まるで僕の心の中を見透かしたかのようにお兄様達は気遣って言葉を投げ掛けてくれた。それも僕を急かすことなく優しく何度も…………正直、心の中では"放っておいてくれ"と思っていた。しかし、お兄様達の真剣で労るような温かい顔を見ている内に気が付けば、僕は悩みを打ち明けていた。誰にも打ち明けたことがなかったのに。歳が近かったからなのか、兄だったからなのか。理由は定かじゃない。でも、この人達には聞いて欲しいと思ったんだ。そこから僕の環境が変わるのは早かった。話を聞いたお兄様達がお父様にかけ合い、僕の希望に沿ったペースでの教育へとなったのだ。結局、お父様に知られてしまったけど、そもそもお兄様達に打ち明けていなければ、そのような変化はなかった。それがキッカケとなり、何かあれば周りの人達にすぐ相談することができるようになったのだ。そして、お兄様達と楽しく過ごす日々が始まったのもその頃からだった。
――――――――――――――――――――
「……………随分と懐かしい記憶だ」
「そんなこともあったな…………」
「思い出して頂けましたか?」
「ああ。何故、今の今まで忘れていたのかと思うほどにはっきりとな…………」
「そうだな」
「あの時は確か城中を探索することに飽きて、どこかで休もうとしていたんだよな」
「ああ。そんな時に偶然、あの場所へと通り掛かったんだ」
「私達はあの頃、毎日幸せに笑い合いながら過ごしていました」
「ああ。未来への不安も周りとのいざこざもなかった。ただただ純粋に毎日を楽しく送っていた」
「…………もしかして、お前の真意は」
「はい。その時の想いが発端となり、人々にも同じように過ごして欲しいと……………お兄様方も本来はその想いのはずです」
「ああ。そうだった。そのはずだった。しかし、人は変わる。歳を重ねるにつれて理想など唱えていられなくなるんだ。俺もエースも心のどこかでは同じ想いを抱きながらも叶うはずがないと蓋をし、それぞれ代わりとなるものを探した」
「そうだ。常に自分自身に言い訳をしながら。理想など語っていられないほどのものを求めていた……………もしかしたら、俺達がいがみあっていたのもそこで生じた悔しさや憤りを憂さ晴らしとして、ただただぶつけ合っていただけなのかもしれない」
「…………本当に今のお兄様方は素直ではないですね」
「あ、当たり前だろ!あの頃と一緒にするな!」
「今は大きくなって、考えなければならないことが増えたんだ!そんな好き勝手には生きられん!」
「ではもし、私の目指す国家が実現可能であるとするのなら、お兄様方はいかが致しますか?」
「「な、何!?そ、そんなことが」」
「お答え下さい。本心で」
「「……………」」
そこから数分経った後、彼らはこう答えた。
「もし、そんなことが可能であるのなら、俺は…………私はエースと共にこの国を導いていきたい」
「同感だ」
「はい、言いましたね?言質は取りましたよ?後でやっぱりやめたとかはナシですよ?」
「あ、ああ」
「二言はない」
「了解致しました!では…………フォレスト王!」
「うむ」
「これで交渉成立ですね!」
「そうだな。全く、お前もよくやるな」
「えへへ」
「お、おい。一体、何のことだ?」
「交渉とは…………」
「よし、これで僕の仕事は終わったな…………じゃあ、ここからは頼むよ?」
その時、王の間全体を一際強く照らす光が満ちた。誰もが眩しさで身を背けること数秒。光が収まった後、彼らの目に飛び込んできたのは……………
「任せろ」
黒衣を靡かせ、悠然と立つシンヤ御一行だった。
「血迷ったのか!」
「いいえ。私は初めから王になる気などなかった。ただそれだけなのです。私の望みはただ1つ。この国で暮らす人々が毎日幸せに生きていくことができるようになることです。それが叶うのであれば、私に地位や名誉など必要ではありません」
「ならば、一体誰が王を…………」
「それならば先程も申し上げた通りでございます」
「っ!?ま、まさか…………」
「俺達で……………」
「はい」
「……………笑えない冗談だ。未だかつて2人の王での統治など聞いたこともない」
「………………」
「フォレスト王は3人の中から後継者を選ぶと仰っただけでその際に人数の指定はありませんでした。なので理論上は可能なはずです」
「とんだ屁理屈だな」
「良い落とし所と仰って頂きたいです」
「ふざけるな!俺がこんな奴と一緒に国家を運営していくだと!?冗談じゃない!」
「それはこちらの台詞だ。そもそもお互いの目指すものが違うんだ。上手くいくはずがない」
「そんなことはありません。本来のお兄様方であれば、志は1つなはずです」
「一体、何を根拠に」
「思い出して下さい。まだ幼かった頃の私達を…………日が暮れるまで楽しく笑い合っていたあの頃のことを」
――――――――――――――――――――
それは僕が第三王子として迎い入れられてから、まだそれほど経っていない頃。新しい生活に戸惑いを隠せず、周りとも上手く馴染めない日々が続いていた。毎日行われる礼儀や作法に関する教育また王族として最低限、身に付けておかなければならない知識の学習……………そういったものに少し嫌気が差していた僕は城の敷地内にある噴水の近くに腰掛け、何もせずただぼーっとすることがいつしか日課になっていた。そんなある日のこと。いつものように日課を行っていると声をかけてくる者達がいた。
「お、リースじゃん。そんなところで何してんの?」
「あれ?最近あまり見かけないと思ってたら、こんなところにいたのか」
それはディースお兄様とエースお兄様だった。
「…………何もしてない」
ただぶっきらぼうにそう言うしかなかった。当時、僕は城の誰にも悩みを打ち明けることができなかったからだ。みんな日々忙しそうにしていたし、自分1人のことで迷惑をかけたくなかったからだ。特にお父様には絶対に現状を知られないよう気を付けて行動していた。だから、当然お兄様達にも詳しくは話そうとしなかった。なのに……………
「どうしたんだ?何か悩みでもあるのか?」
「何か困ったことがあれば話してみろよ」
まるで僕の心の中を見透かしたかのようにお兄様達は気遣って言葉を投げ掛けてくれた。それも僕を急かすことなく優しく何度も…………正直、心の中では"放っておいてくれ"と思っていた。しかし、お兄様達の真剣で労るような温かい顔を見ている内に気が付けば、僕は悩みを打ち明けていた。誰にも打ち明けたことがなかったのに。歳が近かったからなのか、兄だったからなのか。理由は定かじゃない。でも、この人達には聞いて欲しいと思ったんだ。そこから僕の環境が変わるのは早かった。話を聞いたお兄様達がお父様にかけ合い、僕の希望に沿ったペースでの教育へとなったのだ。結局、お父様に知られてしまったけど、そもそもお兄様達に打ち明けていなければ、そのような変化はなかった。それがキッカケとなり、何かあれば周りの人達にすぐ相談することができるようになったのだ。そして、お兄様達と楽しく過ごす日々が始まったのもその頃からだった。
――――――――――――――――――――
「……………随分と懐かしい記憶だ」
「そんなこともあったな…………」
「思い出して頂けましたか?」
「ああ。何故、今の今まで忘れていたのかと思うほどにはっきりとな…………」
「そうだな」
「あの時は確か城中を探索することに飽きて、どこかで休もうとしていたんだよな」
「ああ。そんな時に偶然、あの場所へと通り掛かったんだ」
「私達はあの頃、毎日幸せに笑い合いながら過ごしていました」
「ああ。未来への不安も周りとのいざこざもなかった。ただただ純粋に毎日を楽しく送っていた」
「…………もしかして、お前の真意は」
「はい。その時の想いが発端となり、人々にも同じように過ごして欲しいと……………お兄様方も本来はその想いのはずです」
「ああ。そうだった。そのはずだった。しかし、人は変わる。歳を重ねるにつれて理想など唱えていられなくなるんだ。俺もエースも心のどこかでは同じ想いを抱きながらも叶うはずがないと蓋をし、それぞれ代わりとなるものを探した」
「そうだ。常に自分自身に言い訳をしながら。理想など語っていられないほどのものを求めていた……………もしかしたら、俺達がいがみあっていたのもそこで生じた悔しさや憤りを憂さ晴らしとして、ただただぶつけ合っていただけなのかもしれない」
「…………本当に今のお兄様方は素直ではないですね」
「あ、当たり前だろ!あの頃と一緒にするな!」
「今は大きくなって、考えなければならないことが増えたんだ!そんな好き勝手には生きられん!」
「ではもし、私の目指す国家が実現可能であるとするのなら、お兄様方はいかが致しますか?」
「「な、何!?そ、そんなことが」」
「お答え下さい。本心で」
「「……………」」
そこから数分経った後、彼らはこう答えた。
「もし、そんなことが可能であるのなら、俺は…………私はエースと共にこの国を導いていきたい」
「同感だ」
「はい、言いましたね?言質は取りましたよ?後でやっぱりやめたとかはナシですよ?」
「あ、ああ」
「二言はない」
「了解致しました!では…………フォレスト王!」
「うむ」
「これで交渉成立ですね!」
「そうだな。全く、お前もよくやるな」
「えへへ」
「お、おい。一体、何のことだ?」
「交渉とは…………」
「よし、これで僕の仕事は終わったな…………じゃあ、ここからは頼むよ?」
その時、王の間全体を一際強く照らす光が満ちた。誰もが眩しさで身を背けること数秒。光が収まった後、彼らの目に飛び込んできたのは……………
「任せろ」
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