俺は善人にはなれない

気衒い

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第12章 vs聖義の剣

第260話 もう1つの戦い

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「どうやら終わったようですね」

周囲1kmにまで及んだ未曾有の衝撃。

その現場を離れたところから見ながら、

ティアは呟いた。そんな彼女の足元には

白い修道服を着た無数の屍が転がってい

る。

「ただいま戻りましたわ」

そこに剣に付着した返り血を払いなが

ら、サラがゆっくりと近付いてくる。彼

女もまたティアと同じ目的で動いてお

り、それが終わり次第、合流することに

なっていたのだ。

「おいおい、アタシが一番じゃねぇのか

よ。やっぱり、2人には勝てねぇか」

さらにはカグヤまでもが二刀を担ぎなが

ら、やってきた。その表情には少しだけ

悔しさが漂っている。

「早いですね、カグヤ。他の方はま

だ?」

「ああ。でも、もうすぐだとは思うぜ」

シンヤとの戦いからハジメが逃げないよ

う周りを取り囲んでいた筈の彼女達が一

体なぜ、こんな離れた場所にいるのか。

その理由は事前にシンヤから、とあるこ

とを頼まれていたからである。あれはシ

ンヤがハジメに向けて、初撃を放った時

まで遡る。シンヤの攻撃に対してハジメ

が"未来視"を使った隙をついたティア

達は散開し、各々が別々の場所へと向か

っていたのだ。そんな彼女達の目的とは

ずばり、行軍真っ最中の"聖義の剣"の

部隊を潰すことだった。実はハジメが待

ち構えている場所へと向かっている最中

に"聖義の剣"の部隊が複数動いている

のをシンヤ達は察知しており、そこは戦

いの現場から1km以上離れている場所

だということが分かった。そこでティア

達には途中まで現場に居てもらい、シン

ヤが最初の攻撃を放ったタイミングでそ

れぞれが1km先にいる部隊の元まで向

かうことになったのである。その前にそ

もそもティア達がシンヤに付き添って現

場までわざわざ同行する必要があったの

かどうかだが、これは一応念の為であっ

た。実際に対峙する前からハジメが"転

生者"であると気付いていたシンヤは彼

の持つスキルを危惧していた。シンヤ自

身、異世界からの"転移者"であり、こ

ちらの世界へやって来た際に発現した固

有スキルはとんでもない代物だった。そ

れは彼のいた世界で言う"チート"と呼

ばれる能力と大差のないもので同じよう

に"転生者"であるハジメにもそのよう

な固有スキルがあってもおかしくはなか

った。そこでティア達にも一緒に来ても

らい、数的不利な状況や殺気から窺える

ティア達の実力の高さによって、ハジメ

の動揺を誘い、わざと最高のパフォーマ

ンスを発揮できない状態を作ったのだ。

いくらステータスに開きがあるとはい

え、戦闘では何が起こるか分からない。

常に最善と最悪、その両方を考えた上で

動く。これはシンヤが徹底して行ってい

ることだった。そして、今回はそれが功

を奏した。結果的に終始、心に余裕のな

かったハジメは敗れ、最後まで気を抜か

ず自身のペースを貫いたシンヤが勝利す

ることとなった。ちなみにハジメの"未

来視"によって避けられ、空振りに終わ

ったかに見えたシンヤの斬撃は全てその

直線上の離れた場所にいた"聖義の剣"

のメンバーに直撃していた。

「あ、れ?カグヤ達も、いる」

「あら。私達が一番じゃなかったです

ね、ノエ先輩」

カグヤが合流してから、数分後。次に姿

を現したのはノエとアスカだった。そし

て、その後は間髪入れずに次々と仲間達

が集まってきた。

「くっ、負けた!結局、序列で早さは決

まってくるということなのか」

「そう気を落とすでないぞ、ラミュラ

よ。下には下がおる」

「それは俺達のことを指しているのか、

イヴ?」

「だとしたら、どうしたというんじゃ?

探偵くずれよ」

「今すぐ表に出ろ!切り刻んでやる!」

「ここはもう表じゃよ。そんなに言うな

ら、鎌で首でも狩ってやろうかの」

「2人共、やめやがるデス。みっともな

いデス」

「そういうエルもやる気満々で大剣を振

り回してるの……………ふぁ~」

「相変わらず眠そうだね、レオナ。って

か、このメンバーで集まると誰かしらが

こうなってるよね。嘆かわしい」

「だったら、傍観者ヅラしてないでアン

タが止めなさいよ、ニーベル………………と言いたいところだけど、その必要はな

さそうね。ティアが満面の笑みで向かっ

ていったから」

ローズの言葉通り、騒ぎ立てる2人の下

へと向かうティア。その表情は彼女に関

わりの深い者ならば、すぐに分かる"危

険な笑み"をしていた。

「俺の短剣テクはあれからさらなる飛躍

を遂げた!前みたいにはいかないぜ!」

「望むところよ!妾も日々、進化してお

るぞ!腕が鳴りおるわい!」

「鳴るのは腕だけで済みませんよ?2人

共」

「「ひっ!?」」

それは心臓を鷲掴みにされる程、底冷え

した声だった。これには地獄の閻魔様や

どこかの神様であっても裸足で逃げ出し

てしまうこと必至だろう。当然、イヴ達

もその例に漏れず、大人しくするしかな

かった。

「つまらない言い合いをしていないでさ

っさと行きましょう。続きは帰ってから

でも間に合います………………あ、その時

は私も参加しましょうか?」

「「け、結構です!!」」

2人の発した大きな声は重なり、それが

山彦となって、しばらく辺りに響き渡っ

ていた。
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