1 / 4
1話 堕ちる時は
しおりを挟む
「おい! 離しやがれこのクソガキッ!」
「だぁーれが離すかよ。だったら、金出せよ金。ちょっと肉が食いたくて仕方ないからさぁ」
首を掴まれて持ち上げられる男は、何を言われようと金を出そうとしない。
当然、持ち上げられているのは俺ではなく、通りすがりの冒険者だが。
それにしても、仲間の死体がゴロゴロと転がってるのによぉ、よく心が折れないもんだな。
俺だったら、とっくの前にポッキリ折れちゃってるかも。
……仲間なんていないけどな。
あーあ、悲しいぜ。
「なぁ、早く出せよ。出したら死ななくて済むんだぜ?」
「どうせ出した後に殺すんだろうがっ! 俺の仲間を殺したようになぁっ!」
「あっそ。じゃあ、逝ってら」
仕方がない。
金を出せば命が助かったのに。
馬鹿なやつ。
俺はそんなことを思いながら、男の腹に掌を当てる。
直後、水を大量に入れた袋のように一瞬で膨らみ、細い路地に血を撒き散らせながら、跡形も無く消えていった。
残念なことに服は破れてしまったが、腰につけていた小さな袋は破けずに済んでいた。
そうそう。
俺はこれが欲しかったんだよなぁ!
興奮する気持ちを抑えて、袋の口の部分をゆっくり開ける。
おおっ!
スッゲェ!
10万ヴォルも入ってんじゃねぇか!
こんだけあれば、たっけぇ肉三枚はいけるぞ!
いやぁ、いい奴見つけれて良かったぜ。
……なーんてな。
「じゃあな、お前から貰った金は大事に使うからな」
もう姿がどこにもない男に、俺はしっかりとお礼の言葉を送った。
俺は昔からこんなことをしてた訳じゃない。
真っ当なパーティーに属して、依頼をこなし報酬を貰う。
ただそれを繰り返す生活だった。
別に俺はその生活が嫌いだったわけじゃねぇよ?
才能があったのか、俺は剣術が得意で『最強剣士』なんて言われたこともあった。
どうせお世辞とかだったんだろうけどな。
当然、聖剣使いとかは不満そうだった。
お世辞くらい受け流せよな。
まあ、でもなんというか、そのおかげでA級の依頼を達成することが出来て、その分報酬も入ってくる。
そうなれば自然と美味い飯も食えたし、綺麗な家にも住めた。
あんまりデケェ声で言うと妬まれるから言えないが、結構いい暮らしはしてたはずだ。
あの日までは。
確かあの日は雨が降っていた。
依頼を達成するのに時間が掛かって、空の暗くなっていたはずだ。
悪天候や時間が重なり、街にはほとんど人が歩いていなかった。
その代わりに、多くの家の電気が付いていた。
あの時は細かいところまでは覚えてないけど、帰ったら何をするか考えていたっけな。
パーティーに属していた俺だが、正直言ってメンバーと仲良くはなかった。
きっと、人と関わるのが嫌いな俺が悪かったんだろうな。
もし仲を深めていたら、あんな事にはならなかったかもしれない。
傘を差しながら歩いていた時、すぐ近くの細い道から女の悲鳴が聞こえた。
その悲鳴が恐怖からきていることは、こんな俺にでも分かった。
助けたらいいことあるんじゃね?
俺はそんな下心を抱きながら、走って悲鳴が聞こえた場所に向かった。
「大丈夫かぁ?」
細い道に入ったせいで、傘を差したままでは走ることも出来ない。
雨に濡れるのは嫌だけど、チャンスを逃すわけにはいかねぇな。
そう考えてた俺は、閉じた傘を剣代わりにして、細い路地を進んでいった。
そして、その時がきた。
「おいおい、全然大丈夫じゃねぇじゃんかよ!」
可愛い女が、誰かに襲われているのを助ける。
そんな想像をしていた俺にとって、血を流して倒れている状況なんて想定外でしかなかった。
どうすればいい。
取り敢えず血を止めるか。
てか、まず生きてんのか?
俺は傘を置いた後、右手を伸ばして女の首に軽く指先を当てた。
「……まじかよ」
指先からは、感じることの出来るはずの温もりが全く感じられなかった。
それに加えて、脈も動いていない。
「死んでんのか……」
誰か呼ぶしかないな。
そう考えた時だった。
「おい……! やっぱり誰か倒れてるぞっ!」
「血も流れてる!」
ちょうど良かった!
これですぐにこの人を運ぶことが出来る。
「じゃあ今からこの人を——」
「お前動くなよっ!」
「おい! 誰か衛兵を呼んできてくれっ! ここに殺人者がいるぞっ!」
「は!? 俺はちげぇよ! だって、俺が来た時にはもう倒れてたんだって!」
「嘘をつくなよ! あ、こっちだこっち! ここに居る!」
なんだよそれ……。
俺は……俺はちげぇって……。
その後、俺の抵抗は虚しく複数の衛兵に拘束され、しばらく取り調べを受けた。
しかし、それだけでは終わらず、調査を続けると言われ、牢獄に二週間ぶち込まれた。
結局、証拠不十分ということで解放されたものの、俺が殺人をしたという話は、街中に広まってしまっていた。
勿論、「犯罪者を置いてはおけない」と言われて、パーティーも追放。
冒険者ギルドからも警告を受け、無期限で報酬の七割を削減ということになった。
俺がどれだけ説明しようと、誰も信じちゃくれない。
人が堕ちるには、こんなにも簡単だったらしい。
「だぁーれが離すかよ。だったら、金出せよ金。ちょっと肉が食いたくて仕方ないからさぁ」
首を掴まれて持ち上げられる男は、何を言われようと金を出そうとしない。
当然、持ち上げられているのは俺ではなく、通りすがりの冒険者だが。
それにしても、仲間の死体がゴロゴロと転がってるのによぉ、よく心が折れないもんだな。
俺だったら、とっくの前にポッキリ折れちゃってるかも。
……仲間なんていないけどな。
あーあ、悲しいぜ。
「なぁ、早く出せよ。出したら死ななくて済むんだぜ?」
「どうせ出した後に殺すんだろうがっ! 俺の仲間を殺したようになぁっ!」
「あっそ。じゃあ、逝ってら」
仕方がない。
金を出せば命が助かったのに。
馬鹿なやつ。
俺はそんなことを思いながら、男の腹に掌を当てる。
直後、水を大量に入れた袋のように一瞬で膨らみ、細い路地に血を撒き散らせながら、跡形も無く消えていった。
残念なことに服は破れてしまったが、腰につけていた小さな袋は破けずに済んでいた。
そうそう。
俺はこれが欲しかったんだよなぁ!
興奮する気持ちを抑えて、袋の口の部分をゆっくり開ける。
おおっ!
スッゲェ!
10万ヴォルも入ってんじゃねぇか!
こんだけあれば、たっけぇ肉三枚はいけるぞ!
いやぁ、いい奴見つけれて良かったぜ。
……なーんてな。
「じゃあな、お前から貰った金は大事に使うからな」
もう姿がどこにもない男に、俺はしっかりとお礼の言葉を送った。
俺は昔からこんなことをしてた訳じゃない。
真っ当なパーティーに属して、依頼をこなし報酬を貰う。
ただそれを繰り返す生活だった。
別に俺はその生活が嫌いだったわけじゃねぇよ?
才能があったのか、俺は剣術が得意で『最強剣士』なんて言われたこともあった。
どうせお世辞とかだったんだろうけどな。
当然、聖剣使いとかは不満そうだった。
お世辞くらい受け流せよな。
まあ、でもなんというか、そのおかげでA級の依頼を達成することが出来て、その分報酬も入ってくる。
そうなれば自然と美味い飯も食えたし、綺麗な家にも住めた。
あんまりデケェ声で言うと妬まれるから言えないが、結構いい暮らしはしてたはずだ。
あの日までは。
確かあの日は雨が降っていた。
依頼を達成するのに時間が掛かって、空の暗くなっていたはずだ。
悪天候や時間が重なり、街にはほとんど人が歩いていなかった。
その代わりに、多くの家の電気が付いていた。
あの時は細かいところまでは覚えてないけど、帰ったら何をするか考えていたっけな。
パーティーに属していた俺だが、正直言ってメンバーと仲良くはなかった。
きっと、人と関わるのが嫌いな俺が悪かったんだろうな。
もし仲を深めていたら、あんな事にはならなかったかもしれない。
傘を差しながら歩いていた時、すぐ近くの細い道から女の悲鳴が聞こえた。
その悲鳴が恐怖からきていることは、こんな俺にでも分かった。
助けたらいいことあるんじゃね?
俺はそんな下心を抱きながら、走って悲鳴が聞こえた場所に向かった。
「大丈夫かぁ?」
細い道に入ったせいで、傘を差したままでは走ることも出来ない。
雨に濡れるのは嫌だけど、チャンスを逃すわけにはいかねぇな。
そう考えてた俺は、閉じた傘を剣代わりにして、細い路地を進んでいった。
そして、その時がきた。
「おいおい、全然大丈夫じゃねぇじゃんかよ!」
可愛い女が、誰かに襲われているのを助ける。
そんな想像をしていた俺にとって、血を流して倒れている状況なんて想定外でしかなかった。
どうすればいい。
取り敢えず血を止めるか。
てか、まず生きてんのか?
俺は傘を置いた後、右手を伸ばして女の首に軽く指先を当てた。
「……まじかよ」
指先からは、感じることの出来るはずの温もりが全く感じられなかった。
それに加えて、脈も動いていない。
「死んでんのか……」
誰か呼ぶしかないな。
そう考えた時だった。
「おい……! やっぱり誰か倒れてるぞっ!」
「血も流れてる!」
ちょうど良かった!
これですぐにこの人を運ぶことが出来る。
「じゃあ今からこの人を——」
「お前動くなよっ!」
「おい! 誰か衛兵を呼んできてくれっ! ここに殺人者がいるぞっ!」
「は!? 俺はちげぇよ! だって、俺が来た時にはもう倒れてたんだって!」
「嘘をつくなよ! あ、こっちだこっち! ここに居る!」
なんだよそれ……。
俺は……俺はちげぇって……。
その後、俺の抵抗は虚しく複数の衛兵に拘束され、しばらく取り調べを受けた。
しかし、それだけでは終わらず、調査を続けると言われ、牢獄に二週間ぶち込まれた。
結局、証拠不十分ということで解放されたものの、俺が殺人をしたという話は、街中に広まってしまっていた。
勿論、「犯罪者を置いてはおけない」と言われて、パーティーも追放。
冒険者ギルドからも警告を受け、無期限で報酬の七割を削減ということになった。
俺がどれだけ説明しようと、誰も信じちゃくれない。
人が堕ちるには、こんなにも簡単だったらしい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる