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2話 もしかして今、困ってる?

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さてさて。
 働いた後ということで、肉を食いにでも行くとするか。
 いやぁ、良いことをした後に、何かをするっていうのは良いね。

 俺は金が入った袋を空中に投げながら、人通りの少ない道を歩いていた。
 
 こうやって、何をしようか考えてる時が一番楽しいぜ。
 食ってる時も楽しいけどよ、それと一緒に金も無くなっちまうもんだから、ちょっと寂しい気持ちにもなるんだよな。
 また、手に入れればいいだけの話だけどな。

 「ん?」

 肉以外に、どう使おうか考えながら歩いていると、道の端に膝を抱えながら座っている女がいた。
 全身真っ白な服に、薄い青の長い髪を伸ばしている。
 何やら、金の髪飾りもつけていやがる。

 こんな薄汚い道に、女一人とは珍しい。
 それも、この辺りでは見かけない格好で。
 面のいい女だと、すぐに襲われちまうぞ。

 まあ、俺はそんなことどうでもいいけどな。
 金さえあれば、全てどうでもいい。

 俺は女を無視するように、袋をぐるぐると回しながら前を通り過ぎた。
 直後、俺の鼻を不思議な匂いが掠めた。

 なんだ今の匂い。
 花か?
 お菓子か?
 全然わからねぇ。
 嗅いだことのない匂いだ。
 
 絶対この女の匂いだろ。

 そう思い、俺は足を進めながら右を向いた。
 何故、右を向いたのか。
 
 理由は一つしかない。
 女の姿を確認するためだ。
 変な匂いを放つ、女のことが気になったからだ。

 「あ?」

 だが、そこに女の姿はどこにもなかった。
 慌てて後ろを振り返ってみても、あの女の姿はない。

 「どこ行きやがった!?」

 俺は慌てて立ち止まり、次は全身で後ろを振り返ってみる。
 が、それでもやっぱり、女の姿はどこにもない。

 まさか上か!?
 
 そう思い、顔を上に向けてみる。
 しかし、当然上には誰もおらず、ただ青い空が建物の隙間から見えるだけだった。

 「何だったんだ……? あの女。まさか幽霊か?」
 「幽霊じゃないよ。失礼な人だね」
 「なっ……!?」

 突然、背後から聞こえた謎の声に、俺は小さく声を上げて後ろに素早く下がる。
 
 俺はすぐに戦闘体勢に入り、すぐに攻撃できるように構えた。
 そして相手を確認して、体の底から感じたことにない謎の恐怖を覚えた。

 何故なら、今俺の目の前に立っている女は、さっきまでうずくまっていた女と全く同じ容姿をしていたからだ。

 うずくまっていたせいで見えなかった顔も、今なら嫌でもハッキリと見える。
 金色の瞳を浮かばせて、生きてんのかと疑いたくなるほどの白い肌をしている。
 やっぱ幽霊なんじゃねぇの?

 「もしかして、今困ってる?」

 困ってる?
 そうだよ。
 てめぇのせいでな!

 「誰だお前」
 「相手に名前を聞く前に、自分から名乗るのがマナーなんじゃないの?」
 「だぁれが幽霊に名前を名乗るかよ」
 「だから幽霊じゃないってば」
 
 なんなんだよ、この女は……。
 知らない奴にダラダラと絡んで、マナーだのなんだの。
 
 それに加えて、何が楽しいのか知らないが、俺の顔を見ながらずっと微笑んできやがる。
 気持ち悪い奴だ。

 「そこをどけよ。俺は今から肉を食いに行くんだ」
 「へぇ。いいね。私も一緒に行く」
 「勝手に一人で行け。もういいや。じゃあな」

 俺は一歩的に話を切り上げて、女の横を通り過ぎた。

 いつまでも、こんな頭のおかしい奴の相手をしてはおけない。
 腹が減って仕方がないんだよ。
 あぁ……肉のことを考えるだけでもよだれが——。

 「君のスキル、面白いね。《|風船男バルーンマン》》ねぇ」

 俺は反射的に振り返り、不気味な女に詰め寄った。

 「お前……なんで俺のスキルのことを——」

 俺のスキルのことなんて、誰も知るはずがない。
 理由は簡単だ。
 
 俺が誰にも言ったことがないからだ。

 相手を膨らませて爆発させるなんて言ったら、誰も俺に近寄ってこなくなってしまう。
 それなのに、こいつは。

 「相手を膨らませて爆発させる危険なスキルなのに、可愛い名前のスキルだね」
 「何者だよ……お前は」

 女は軽く微笑みながら、その場でクルッと一回転し、俺の顔に息がかかるくらいまで顔を寄せてきた。

 「私は七大天使の一人、《力天使》スカイルだよ」
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