氷の令嬢は花を愛でる

華奈PON

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フランシアのお見合い2

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お見合いは一週間後、ルーベンスの
屋敷で行われる事になった
レティシアは帰りの馬車で
口を一切開かなかった
ロロスに対してのフランシアの
無愛想な態度が何か不味かったのだろうか?
その場でロロスを一緒に見たヌールは
どうだったか分からないが
少なくとも私はロロスに対して
警戒心が強くなっていたのを感じた
フランシアはあの手の男に
慣れていないのか完全に拒絶すると
共に表情は酷く青ざめている様だった
生理的嫌悪というものだろうか?

「…あの、お姉様…」
「何かしらフランシア」

フランシアは青ざめた表情で
恐る恐るレティシアに口を開く
少しバツの悪そうな表情で切り出す

「…お見合い…キャンセル出来ませんか?」
「…ダメよそれはフリージア家の沽券に
関わるわ、ロロス男爵令息が苦手だという
気持ちはわかるけど、観念なさい」
「…そうですか…」
「フランシア、言った通り男爵令息を
伴侶として定める必要はありません
今後の勉強だと思って望みなさい」
「わかりました…お姉様」

フリージア家の屋敷に戻って
私はレティシアとフランシアに
紅茶を淹れた。フランシアの
気持ちが少しでも落ち着く様に
リラックス効果のあるハーブを
ほんのりと加えた澄んだ香りのする
爽やかなハーブティーだ

「…とっても落ち着く味ね…美味しいわ」
「ノエルの紅茶…私、大好き…」

二人から褒められると
悪い気がしない、少し笑みをこぼして
私は「ありがとうございます」と
笑顔で二人に頭を下げた

「ノエル、後でわたくしの部屋に
来てください、ヌールと見合いの時の
打ち合わせを行いますから」
「わかりました」
「フランシアはその間にしっかりと
覚悟を決めなさい…わかりましたね?」
「はい、お姉様…」

やはりと言うよりも、相変わらず
フランシアの表情は暗かった
それ程までにロロスと会うのが
苦痛で嫌なのだろう
私はフランシアの事が
心配でたまらないが
一体どの様に声を掛ければ良いのか
言葉が思いつかなかったのだ



私はレティシアに呼ばれた通りに
部屋へ訪れた、レティシアが座る椅子の
目の前にあるテーブルには
二つの同じ様な形をした
飾り気のない質素ではあるが
綺麗な輝きを放つ、プラティム製の
ペアリングが置かれていた

「…ノエル一つお願いがあるの
この指輪の一つを貴女からフランシアに
渡してくれないかしら?」
「レティシア様からお渡しに
ならないのですか?喜びますよ?」
「あの子、私のプレゼント全て厳重に
保管してしまうのよ?信じられる?」

私は少し笑みをこぼしてしまった
それ程までにレティシアから
プレゼントを貰った事が
フランシアはとても嬉しかったのだろう
レティシアは笑みを溢す私に
特に何を言う事も無く話を続ける

「…実用性のある物を保管してしまっては
いざと言う時、役に立たないでしょう?
ノエルから受け取ればフランシアも
喜んでその指に付けるでしょうから」
「それでは早速渡してきます」
「ええ、お願いねノエル」

私はレティシアの部屋を後にし
フランシアの部屋の前へとやってきた
部屋の扉をノックすると
少しは落ち着いたのか
ある程度穏やかな表情に持ち直した
フランシアが部屋から顔を覗かせる
私は部屋に招き入れられ
レティシアから渡された
先程のプラティム製の指輪を取り出す

「…フランシア様」
「どうしたの?ノエル」

レティシアの言い付けとは言え
フランシアにプレゼントを渡す事を
私は少し心がくすぐったくなる様な
そんな思いを感じていた
手の平を開き、プラティム製の指輪を
フランシアに差し出す

「…これを」
「まあ…綺麗な指輪…これを私に?」
「…御守りの様な物です
是非、身に付けていて下さい」
「わかったわ、ありがとうノエル」

フランシアは喜んで左手の薬指に
プラティム製指輪をはめた…え…?
…薬指にはめたの?と私は頬を
真っ赤に染めて驚愕する
そんな表情の私を気にせずに
指輪を眺めながら喜ぶフランシアに
私は何も言う事が出来なかったが
喜んでいるフランシアを見ると
何か、もっとこう、私自身で
心を込めたプレゼントを渡したいと
胸の奥底からそう思っていた

「…今度は、ちゃんとした物を
フランシア様にプレゼントしますから…」

私は心の声を口から漏らした
蕩けた目で指輪を見つめていた
フランシアの耳には言葉が
届いていなかった様で
彼女は首を傾げてこちらを見る

「…え?ノエル、何か言ったかしら?」
「なんでもありません」

私は微笑んではぐらかした
顔を少し熱くさせながら
レティシアから受け取った
もう一つの指輪を
自分の左手の薬指に
静かにはめて見つめる
飾り気のない質素な指輪が
確かな輝きを放っていた



フランシアとロロスのお見合いの日まで
日数があるので、レティシアと約束した
秘密特訓の為に私とレティシアは
グランバルト王家の別荘へと
フランシアには内緒で来ていた
王族の別荘では有るもの
建物はとても質素な作りで
庭は広く、整地されて土は硬かった
まるで、修行する為に拵えたかの様だ
私とレティシアが待つその場所に
まだあどけない雰囲気の少年がやって来た

「レティシア様、ノエルさん、こんにちわ」
「こんにちわ、リュオン王子」
「リュオン王子、ご機嫌麗しゅう
御座います何もお変わり有りませんか?」
「ええ、僕は相変わらずです
レティシア様もお元気そうで何よりです」

グランバルト王家第二王子リュオン
齢14歳ながら剣皇の称号を持つ達人で
私の剣の師匠である、そして
レティシアが唯一無二で
穏やかに柔らかく話す相手でもある
紛れもなくこの少年がレティシアの
思い人なのである…と私は思う
リュオン王子も満更では無さそうな
感じ…だと思う、多分。

「今日もよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」

リュオン王子は王族ながら腰が低い
と言うより、誰に対しても礼儀正しい
貴族や使用人に関わらず物腰は
丁寧で柔らかいそして教えるのが
物凄く上手くてわかりやすい
知識の広さと深さが歳に似合わない為
人生を二周目をしてそうな印象のある
そんな優秀な美少年である

「今回は誰かを護衛しなければ
ならない状況で瞬時に対象へと近づきたい
そんな時に役に立つ移動術を
ノエルさんに覚えて貰いますね」
「移動術…ですか?」
「ええ、攻撃、防御、全てに応用可能な
移動術です取り敢えず見ていて下さい」

リュオンはそう言って私と
一定の距離をとった彼の身体が
前のめりに傾いたかと思うと
私が気が付いた時には
笑顔で隣に立っていた

「リュオン王子…相変わらずお見事です」
「ありがとうございます、レティシア様」

何時ものレティシアとは違って
爽やかな微笑みを浮かべ
穏やかな表情でリュオンに話す

「えっ…?今のが…移動術…?」
「ええ、無音縮地と言います
音も立てず移動する為、昔は
"暗殺"等にも使われていた様ですね
僕の場合、ヌールさんに教わったのですが
コツさえ掴めば扱うのは簡単です」

リュオンの説明でふと疑問に思った事が
会話を遮って私の口から漏れてしまう

「執事長って…忍者か何かなんですか…?」
「…そこは秘密です…
…本人に直接聞いて下さいね」

リュオンは怒るわけでもなく
笑顔で返して、説明の続きを行う

「移動の距離を延ばしていく為には
毎日訓練が必要ですよ、しかし
運動神経の良いノエルさんなら
習得にそれほど時間はかからないでしょう
ですので頑張りましょうね!」
「はい!頑張ります先生!!」

レティシアに見守られながら
リュオンの指示を受け
私は無音縮地の特訓を続けた
コツは体重移動と足捌き
最初のうちは無音とは言えず
脚を蹴り上げる音が周囲に鳴り響く
何度か失敗すると、リュオンは再度
何回か手本を見せてくれた
身体の動き、脚の運び方、視線の動き
腕の振り抜き、姿勢の流れ
失敗を繰り返しては
リュオンのアドバイスを受け
遂には短い距離ではあるが
音を立てずに移動出来るようになっていた

「この短時間で基礎をマスターするなんて
やはり、ノエルさんには才能がありますね」
「リュオン王子のお陰です
何度もアドバイスを下さり
ありがとうございました」

私はリュオンに深々と頭を下げた
こんなに親身になって教えてくれた事を
私は心の底から感謝した

「リュオン王子、わたくしからも御礼を
言わせていただきます、本当に
ありがとうございました…」
「レティシア様の頼みなら当然です…が
ノエルさんに教えるのは楽しいですね
困った事があったらまたいつでも
いらして下さいね」
「忙しい中、本当にありがとうございます」

特別訓練を終えて私は息を切らせながら
リュオンに再び頭を下げた

「あの…それでですね、レティシア様…」

リュオンは少し恥ずかしそうに
レティシアに頬を染めて話しかける
私の目に映るリュオンのその姿はまるで
憧れの美人のお姉さん(レティシア)に
話しかける近所少年の姿の様であった事を
まるで王子とは思えないような
普通の恋する少年の様な甘酸っぱい姿
その光景は私の胸の心のアルバムの中に
静かにしまっておく事にした

「…レティシア様…あの…その…
久しぶりにお会い出来たので…
その…どうですか…今晩…一緒に…」
「…そう…ですわね…でしたら…」

レティシアはリュオンの耳元で
微笑みながら何かを囁くと
リュオンは頬をさらに赤く染めて
何やら喜んでいる様だった
レティシアは私を見て
微笑みながら言う

「ノエルは先に家に帰っていて頂戴
私はリュオン王子に送って貰いますから」
「かしこまりました、レティシア様…
こんな時こそ、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうノエル…フランシアの事
貴女に任せましたよ」
「お任せください!」

そう言った後、グランバルト王家の
魔導馬車に乗ってレティシアが
フリージア家に帰って来たのは
翌日の昼過ぎであった
フリージア家に帰って来た
レティシアはとても嬉しそうに
何よりその日は機嫌がとても良かった
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