氷の令嬢は花を愛でる

華奈PON

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雨上がって、地固まる

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学園武闘祭は盛況の中で終わりを告げた
ブランドン伯爵令嬢アガサはフランシア
に観衆の目の前で謝罪を行いフランシアは
それを受け入れて、二人は和解したのだ。
関係を勘違いをしていたヴァレッタも
私とフランシアに謝罪をしてきたが
フランシアは微笑み返してそれも許した
彼女は心の奥底でアガサとヴァレッタの
関係を少しだけ羨ましく思っていた様だ
そして、武闘祭の終わり頃に
メルリナは私にフランシアとアガサの事を
こっそりとわかりやすく話してくれた

メルリナの話によると
学園の入学と同時にフランシアは
アガサといつの間にか疎遠になっていて
フランシアに似て本質的には
気の弱いアガサ自身は入学後、
学園の他の学生貴族から
陰湿な嫌がらせを受けていた様だ
アガサへの嫌がらせは
友人であるヴァレッタや
学園教師の見えない所で
執拗に行われていた様だ、そしてそれが
精神的に正常な判断のつかなくなった
アガサがフランシアに対するあの様な
暴挙を行ったと言う結果に繋がる事になる。
弱い者がより弱い者を攻撃する
話を開けば弱者社会のよくある構図になる
フランシアはそれら全てを理解した上で
アガサを心の奥底から許し再び友情を
彼女の方から紡ぐ事を望んだのだ。
フランシアがアガサを理解していなければ
また別の…悲惨な結果になっていただろう
と…そうならなかったのが幸いだと私は思う。
そして、今日、フランシアはメルリナの約束通り、アガサ、ヴァレッタと仲良く
談笑しながら穏やかなお茶会を行なっている
この光景が見れて私は幸せな気分になった
何時迄も、この光景が続く事を私は祈る。

その後、アガサに嫌がらせをしていた
貴族達と多少のトラブルはあったものの

「私はもう、アナタ達に負けません!!」

といった様に、誰の手も借りる事なく
アガサ自身が彼等を退けた、彼女は
凛とし、毅然とした態度を取れる
一人前の令嬢へと成長をしていた。
それもそうだろう、あの土壇場で
フランシアに生命を差し出せるぐらい
度胸のある、元々は肝の据わった令嬢
なのだろうと今のアガサを見てそう思う。
そして、フランシアとアガサの関係も
今では完全に修復されたようだ。
またアガサの友人である
ヴァレッタもフランシアの友人として
そしてメルリナを含む四人で共に
日頃、お茶の席を囲んで談笑したり
一緒に勉強に励んだりするのが日課になり
毎日、行動をする事が多くなっていった。
私はフランシアが、以前よりも
よく笑う様になった気がして
心の底からとても嬉しく思う。

「ノエルー!」

学園からの帰りである。
遠くの方から私の名を呼ぶ
フランシアの声が聞こえた
今日はアガサと二人だけの様だ。

「フランシア様、今日はアガサ様と二人きりなのですね。」

「ええ、メルリナとヴァレッタは後から来ます。」

私がアガサに視線を向けると、彼女は俯いて
少し怯えている様な、そんな暗い表情だ。

「…アガサ様…何処か、お身体の具合が
悪そうですが…」

するとアガサは慌てて顔を上げた。

「いえ、そうでは無いのです。
少しだけ、ほんの少しだけ緊張してしまって…」

「ノエル…家に着いたら…お姉様を呼んできて…。」

フランシアも何処か緊張している様だった。

「え?はい、わかりました」

私は何だろうと不思議に思いながら
フリージアの屋敷へと二人を連れて
帰路についた。
フリージアの屋敷に着くと
ヌールが私達を出迎えてくれた。

「おかえりなさいませフランシア様。
おや、アガサ様もいらっしゃいませ。」

「あ、はい…お邪魔します…」

久々にフリージアの屋敷に来た所為か
アガサは緊張してカチコチに固まって
何処か言動がぎこちない様な感じだ。
ヌールは深々と頭を下げると
玄関の扉を開いた。

「執事長…レティシア様はいらっしゃいますか?」

「直ぐそこにいらっしゃいますよ。」

扉を開けた入り口の先でレティシアが
私達を出迎えてくれた。
不機嫌では無いのだろうが
いつもの様に無表情である。

「フランシア、ノエル、おかえりなさい…
あら…?…珍しいわね…」

レティシアの表情が、私には少し
驚いているように思えた。
それだけアガサが珍客なのだろうか?

「お姉様、少しお時間よろしいでしょうか?」

「そんなに改まって…一体何かしら?」

フランシアの声色も緊張で強張っている
恐らくはレティシアも勘付いたであろうか
フランシアの表情もアガサの表情も
何処となくぎこちないのだ。

「あ…あの、あのっ…!」

「…アガサ、落ち着いて…私が付いてるから。」

「は…はい。」

フランシアはアガサの背中を優しく
支える様に手を置き彼女を深呼吸させた。
すると、アガサは人がまるで変わった様に
凛然とした視線でレティシアを見つめた

「私はフリージア家の方々に多大な
ご迷惑をおかけ致しました!
その度は大変申し訳ございませんでした!
私が行った狼藉に対する、如何なる処分を
も謹んで受ける所存です。」

アガサはレティシアに深々と頭を下げた
余りにも謝罪の勢いが強く、私は驚いていた。

「…なるほど、アガサ、貴女の言い分はわかりました。」

レティシアは淡々とそう述べると
フランシアの方へと視線を向けた。

「フランシア、実害を受けたのは
貴女とノエルです。貴女達はアガサを
どうしたいと考えていますか?」

フランシアは私の方を見た。
私はただ黙って頷く、それは
「全ての判断をフランシアに一任する」
との意味を込めて頷いたのだ。

「…アガサは私のかけがえのない友人です
ですので、お姉様、アガサには寛大な処置を…出来れば何も無い方が良いのですが。」

「…フランシア…」

顔を上げたアガサは謝罪した頃から
既に涙目である。

「ノエルもそれで良いのかしら?」

私に問いかけるレティシアの視線は
何処か穏やかなものであった。

「この件に関して私の考えは全て
フランシア様に一任しております。
ですのでフランシア様が望まれる事を
私も心の底から望みます。」

私がそう言い終えると、レティシアが
確かに微笑んだ様に思えた。

「アガサ、聞いた通りです。フリージア家として貴女を処罰する事は致しません。」

レティシアの視線がフランシアの方へと向かう

「フランシア、友人は大切にするのですよ?」

「…はい!お姉様!!」

「…ヌール、そろそろメルリナとヴァレッタも来る頃だと思います。お茶の準備をなさい。」

近くでやり取りを聞いていたヌールは
指示を了解した様に軽く頭を下げる。

「かしこまりました、レティシア様」

「あ、私も手伝いますね!」

重い気分が晴れた様な気がした私も
ヌールの準備を手伝う事にした。
遅れてやってきたメルリナとヴァレッタを
フランシアとアガサは笑顔で迎え入れ
レティシアを含めた五人でテーブルを囲み
会話に華を咲かせながらお茶を楽しむ光景が
私にはとても輝いて見えていたのだった。
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