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第36話 鷹の国 助けてくれたのは
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内臓が持ち上がるような浮遊感に襲われながら、マオは反転し、着地に備えた。
だが、途中で誰かに受け止められ、宙ぶらりんな状態となる。
「大丈夫か?」
鋭く冷たい声に顔を上げると、冷ややかな目がマオを見つめていた。
大きな羽を有した金髪の男性の翠色の双眸に恐怖を覚え、思わず目を逸らす。
視線を下に移したら二人のホッとしている様子が見られる。
「あの、ありがとうございます」
感謝の言葉を伝えるが、男性はニコリともしない。
「何故このような事を企てた。不法侵入に罪が重いとは知らなかったか?」
マオを抱えて降り、その後剣を突きつける。
リオンとカミュも同じく駆け付けた警備兵に囲まれている。
「お待ちください、エリック様。マオは僕の為にこのような事をしたのです、責めるならば僕を!」
リオンは一か八かでマオを助けた男性に声を掛ける。
数年前に一度会ったっきりの関係で覚え居ているかもわからない。
しかもヴォールク王家がなくなったとは知っているはずだ。
その上でエリックが話を聞いてくれるかはわからなかったが、このままではマオが不法侵入の容疑で捕らえられ殺されるだろう。
正規の手順で入らない者を許す程甘くはない、ヴォールクでマオが成功したのは情勢が不安定で運が良かったと言わざるを得なかった。
(もっと本気で止めれば良かった)
リオンは頭を下げる。
「エリック様、お願いです。マオは見逃してください、この通りです」
リオンは今は無きヴォールクの紋が入ったブローチを差し出そうとしたが、エリックがそれを隠すようにして押し返した。
「あなたが誰かはわかる。だからそれは仕舞うように。大事なものだろう、傷でもついたら大変だろう。……リー殿」
「エリック様」
何も言わずとも彼はわかってくれたようだ。
そして死んだとされるリオンの名前を、あえて仮名で呼んでくれている。
「リー殿。従者に躾はきちんとしていてくれ、危なく侵入者かと思って落とすところであった。猫族は木登りが好きと聞いていたが、まさか壁も登れるとはな。今度からは俺の許可をとってから戯れを行なって欲しいものだ。とはいえここは人目につきすぎる。城内にいい場所があるからそこへ案内しよう」
エリックが剣を収めると周囲の者も剣を収めた。
「よろしいのですか?」
「あぁ。リー殿の話も聞きたいからな。数年前に会った以来だから、互いに積もる話のある。もし都合が良ければ城で色々な話をしたいのだが」
そう言った時にマオのお腹がくぅっとなる。
「お話もいいけど食事もお願いしたいです」
ファルケの王太子に言う言葉ではない。
「なかなか度胸のある女性だな」
たまらず苦笑してしまう。
先程まで剣を突きつけられていたのに、堂々とした性格だ。
「緊急時とはいえ、触れてしまった事は失礼した。リー殿の大事な女性にわざと触れようとしたわけではないとご了承願いたい」
「いえ、助けて頂き感謝しています」
多少もやもやはしたが、仕方がない事だ。
それに彼にそんな気はないのも知っている。
「では一緒に来ていただこう。誰か。彼らに馬の手配を」
エリックはふわりと羽を広げ、先導するように飛んだ。
雄々しいその姿はとても目を惹くものであった。
「綺麗、ですね……」
初めて鳥人を見たマオはエリックの飛ぶ姿に見とれてしまっていた。
「……どうせ僕はエリック様みたいな美形ではないさ」
拗ねるように口を尖らせ、リオンは憮然とした表情で馬車に乗り込む。
ムードメーカーなリオンが不機嫌になって黙ってしまったために車内は無言となってしまった。
「リオン様はお腹すいて機嫌が悪いのですか?」
マオがひそひそとカミュに尋ねる。
「どう考えても違うだろ」
カミュは気づいているがマオは自分の言葉が原因とは気づいていない。
聡すぎて拗らせるリオンと、恋愛ごとに鈍いマオに挟まれ、カミュが無の表情になる。
(早くこの空間からおろしてくれ)
痴話喧嘩に巻き込まれ、カミュは影のように気配を消した。
だが、途中で誰かに受け止められ、宙ぶらりんな状態となる。
「大丈夫か?」
鋭く冷たい声に顔を上げると、冷ややかな目がマオを見つめていた。
大きな羽を有した金髪の男性の翠色の双眸に恐怖を覚え、思わず目を逸らす。
視線を下に移したら二人のホッとしている様子が見られる。
「あの、ありがとうございます」
感謝の言葉を伝えるが、男性はニコリともしない。
「何故このような事を企てた。不法侵入に罪が重いとは知らなかったか?」
マオを抱えて降り、その後剣を突きつける。
リオンとカミュも同じく駆け付けた警備兵に囲まれている。
「お待ちください、エリック様。マオは僕の為にこのような事をしたのです、責めるならば僕を!」
リオンは一か八かでマオを助けた男性に声を掛ける。
数年前に一度会ったっきりの関係で覚え居ているかもわからない。
しかもヴォールク王家がなくなったとは知っているはずだ。
その上でエリックが話を聞いてくれるかはわからなかったが、このままではマオが不法侵入の容疑で捕らえられ殺されるだろう。
正規の手順で入らない者を許す程甘くはない、ヴォールクでマオが成功したのは情勢が不安定で運が良かったと言わざるを得なかった。
(もっと本気で止めれば良かった)
リオンは頭を下げる。
「エリック様、お願いです。マオは見逃してください、この通りです」
リオンは今は無きヴォールクの紋が入ったブローチを差し出そうとしたが、エリックがそれを隠すようにして押し返した。
「あなたが誰かはわかる。だからそれは仕舞うように。大事なものだろう、傷でもついたら大変だろう。……リー殿」
「エリック様」
何も言わずとも彼はわかってくれたようだ。
そして死んだとされるリオンの名前を、あえて仮名で呼んでくれている。
「リー殿。従者に躾はきちんとしていてくれ、危なく侵入者かと思って落とすところであった。猫族は木登りが好きと聞いていたが、まさか壁も登れるとはな。今度からは俺の許可をとってから戯れを行なって欲しいものだ。とはいえここは人目につきすぎる。城内にいい場所があるからそこへ案内しよう」
エリックが剣を収めると周囲の者も剣を収めた。
「よろしいのですか?」
「あぁ。リー殿の話も聞きたいからな。数年前に会った以来だから、互いに積もる話のある。もし都合が良ければ城で色々な話をしたいのだが」
そう言った時にマオのお腹がくぅっとなる。
「お話もいいけど食事もお願いしたいです」
ファルケの王太子に言う言葉ではない。
「なかなか度胸のある女性だな」
たまらず苦笑してしまう。
先程まで剣を突きつけられていたのに、堂々とした性格だ。
「緊急時とはいえ、触れてしまった事は失礼した。リー殿の大事な女性にわざと触れようとしたわけではないとご了承願いたい」
「いえ、助けて頂き感謝しています」
多少もやもやはしたが、仕方がない事だ。
それに彼にそんな気はないのも知っている。
「では一緒に来ていただこう。誰か。彼らに馬の手配を」
エリックはふわりと羽を広げ、先導するように飛んだ。
雄々しいその姿はとても目を惹くものであった。
「綺麗、ですね……」
初めて鳥人を見たマオはエリックの飛ぶ姿に見とれてしまっていた。
「……どうせ僕はエリック様みたいな美形ではないさ」
拗ねるように口を尖らせ、リオンは憮然とした表情で馬車に乗り込む。
ムードメーカーなリオンが不機嫌になって黙ってしまったために車内は無言となってしまった。
「リオン様はお腹すいて機嫌が悪いのですか?」
マオがひそひそとカミュに尋ねる。
「どう考えても違うだろ」
カミュは気づいているがマオは自分の言葉が原因とは気づいていない。
聡すぎて拗らせるリオンと、恋愛ごとに鈍いマオに挟まれ、カミュが無の表情になる。
(早くこの空間からおろしてくれ)
痴話喧嘩に巻き込まれ、カミュは影のように気配を消した。
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