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レティシア15歳 輝く未来へ
最終話 輝く未来へ
しおりを挟むフィリップと別れ、パーティー会場に戻る道を歩くレティシア。
彼女は先程のフィリップの告白を思い出しながら……自分は彼の想いに応えるつもりだったのに、なぜそれができなかったのか自問自答していた。
しかし、彼女はもう何となく気づいていた。
フィリップの想いに応えることを決意した時、チクリと胸に痛みが走ったとき、脳裏に浮かんだのは……
「レティ!」
ぼんやりと歩いていたところ、突然名前を呼ばれて彼女は驚いてビクッとなった。
その声は、彼女がよく知るもの。
そして声の方を振り向けば、やはり予想通りの人物が。
「あ……リディー……?」
彼女は、息を弾ませているリディーを不思議そうに見る。
そして、どういうわけか少し彼女はほっとした。
「ふぅ、探したぞ。……フィリップは?」
「え?……あ、え~と……そこで別れて……」
「そうか」
レティシアの言葉は歯切れ悪いが、それでリディーはおおよその事情は察した。
「寒くないか?」
「……ううん、大丈夫。もう少し、酔いを覚ましたいかな」
本当は少し肌寒く感じていたが、今はリディーと一緒に歩きたい気分だった。
「そうか。じゃあ、そこの庭園まで散歩するか」
「……うん」
そうして二人は、庭園へ向かう小道を並んで歩いていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
パーティーで火照っていたレティシアの身体だったが、外に出てしばらく過ごしていたせいか、もうすっかり冷えていた。
それでも、優しく頬を撫でる夜風は心地よく感じる。
酔いもかなり覚めただろう。
二人はしばし無言で歩いていたが、その雰囲気は穏やかなものだった。
やがて二人は庭園にやって来た。
魔法の光が照らし出す光景は幻想的で……やはり無言のまま、二人は静かにそれを眺める。
そう言えばあのときも二人で……と、レティシアは、かつて王城の庭園でリディーと踊ったときの事を思い出した。
懐かしい思い出に、彼女の心は暖かくなる。
「静かだな……」
「うん。まるで異世界みたいだね」
どれくらいの間そうしていただろうか。
リディーが沈黙を破ると、レティシアはそんなふうに答えた。
それがきっかけとなったのか、リディーは彼女を誘い出した目的を果たそうとする。
彼は上着の内ポケットから何かを取り出すと、それをレティシアに手渡した。
「これを……受け取ってくれないか?」
「これって……切符?でも……」
手渡されたのは一枚の切符。
レティシア鉄道で発行しているものだ。
券面に記載された発駅はイスパルナ。
しかし……行先と有効期限が書かれていない。
レティシアは首を傾げ、戸惑いながら視線でリディーに問う。
彼は緊張の面持ちでそれに応えた。
「イスパルナで……モーリス公爵家で初めてお前に出会った時から、俺の長い旅は始まった。お前と……みんなと一緒に頑張って、ついに鉄道を開業させることができた。俺達の夢は、一つの終着駅にたどり着いたんだ。だが……まだまだ終わりじゃない。そうだろう?」
その問いに、彼女は即座に答える。
「もちろん。もっともっと、どこまでも線路を伸ばしていくんだよ。これからね」
「そうだ。これからも……俺はお前のパートナーとして、まだ行き先の決まっていない旅をずっと一緒に続けていきたいと思っている。一生をかけて。それは、そのための切符だ」
「えと……それってもしかして……」
流石の彼女も、そこまで言われれば彼の言葉の意味は分かる。
平静を装ってはいるが、彼女の心臓はドキドキと激しく鼓動しはじめた。
先程フィリップから告白を受けた時以上に……
「……そうだ。俺はお前が小さな頃からずっと一緒にいて……最初は妹のように思ってた」
「……」
「だが、少しずつ成長していくお前をずっと見ているうちに……いつしか一人の女性として見ていることに気付いた」
「……う、うん」
自分の顔が熱を帯びて赤くなっているであろうことを、彼女は自覚する。
ドキドキが止まらない。
「以前、フィリップがお前に婚約を申し込んだと聞いたとき、俺はその想いを一度は諦めようと思った。だが……どうしても諦めることなんて出来なかったんだ」
そこでリディーは、レティシアの前に跪いて手を取る。
真っ直ぐと彼女の顔を見つめて、彼は切なる想いを込め……
「レティシア……愛してる。どうか俺と……結婚してくれないか?」
はっきりと、そう言った。
その言葉を聞いた瞬間、レティシアの瞳から涙が溢れる。
想いが溢れる。
フィリップの告白に応えようとした時に痛みを感じた理由がようやく分かった。
いや……本当はずっと前から分かっていた。
それを考えようとするたびに心に蓋をしていただけだ。
しかし、もう彼女は心に蓋をしていない。
ただ素直に……心のままに……
これまで育んできたリディーに対する想いが今、彼女の心から解き放たれる。
前世の記憶が枷となって、これまで気付かないふりをしていたその想いを、彼女はもう否定することはないだろう。
そして、彼女はリディーの手を握りしめ、心のままに彼の想いに応える。
「はい……わたしも、あなたを愛しています」
溢れる涙も拭わず、満面の笑顔を浮かべて言う彼女の表情は、これまで見てきた中で最も美しい……リディーはそう思った。
リディーは立ち上がって、レティシアを抱きしめた。
二人の心が幸せな気持ちで満たされる。
やがて二人は見つめあい……その影が再び重なる。
ピィー………
その瞬間、まるで二人の輝く未来を祝福するかの様に……遠くから響く列車の警笛が、星空に木霊した。
~~ レティシア15歳 輝く未来へ 完 ~~
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