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レティシア15歳 輝く未来へ

第170話 フィリップの告白

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「寒くないかい?もう結構、夜は冷えるね」

「え、ええ……大丈夫です」


 パーティー会場を出て、旧王宮の庭園に向かう小径を並んで歩く二人。

 レティシアは、フィリップが自分を外に連れ出した理由を察して、緊張で身を固くする。

 そしてフィリップは、そんな彼女の様子を見て……


「レティ、緊張してるね。と言うことは……もしかして、僕がこれから何を言うのか分かってるのかな?」

 もう彼は確信しているが、あえてそれを口にした。

 そして、その言葉にレティシアは少し恥ずかしそうにしながら俯いて……

「は、はい……」

 と、小さな声で答えた。


「なら話は早いね。前に約束したことを果たそうと思う。今日この日、君の夢だった鉄道は開業となった。そして、また次の夢に向かって君は再び邁進する」

「……はい」

 今度は、しっかりと目を合わせて、彼女は肯定する。

 そして、ついにフィリップはその言葉を口にした。


「レティシア……僕はその君の夢を、一緒に叶えたいと思う。一生のパートナーとして……ずっと一緒に」

「フィリップさん……」


 彼の告白の言葉に、レティシアは真っ直ぐ目を見つめ応えようとするが……


「フィリップさんは、何で私のことを好きになったの?」

 咄嗟に出たのは、そんな質問だった。

 だが、フィリップは気を悪くすることもなく、問われた言葉を真面目に考える。


「『何で好きになったか』か。う~ん……難しい質問だね。理由……というか、理屈は色々あるかもしれないけど……。でも、やっぱり人を好きになるのって理屈じゃないんじゃないかな?直感……というか。初めて君に出会った時、そう感じた……。それじゃ答えにならないかな?」

 少し困った顔をしながら、それでも彼は真剣に考えて答えた。
 彼は自分の言葉にあまり自信が無いようだが、むしろレティシアはその答えが腑に落ちた。

 色々な理由を並べ立てられるより、彼の真摯な気持ちが伝わってきた。

 だからこそ彼女は心を決めて、フィリップの想いを受け入れて返事をしようとした。

「フィリップさん……私は……私……」


 しかし、そこから先の言葉が出てこない。


 彼に好意はある……たぶん、異性として。
 彼のパートナーになることも、確かに嫌じゃない。

 なのに……そう、『直感』が違うと言っている。


 フィリップの想いに応えるつもりだったのに、応えられない。

 自分でもコントロールできない感情に、彼女はいつしか涙を流していた。


「え?あれ……?なんで……」

 なぜ、自分が泣いてるのか、彼女は理由わけもわからずパニックに陥る。


「ご、ごめんなさい!ど、どうして……!」


 慌てふためく彼女と、その涙を見たとき……彼女の心にあるのは自分ではないと気付いた。


「レティ……ごめん。僕は、君にそんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ」

「ち、違うの、フィリップさんは悪くないの!もう、なんで泣いてるの……私……」

「いいんだよ。こうなることも、僕は覚悟していたんだから。その上で、はっきりと答えを出せたんだ。後悔はないよ」


 そうしてフィリップは、これが最初で最後……と、レティシアを抱き寄せて、あやすように背中を優しく叩く。

 そして暫くの間……彼女が落ち着くまで、そうしているのだった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「もう、落ち着いたかい?」

「は、はい……ごめんなさい、泣いたりして」

 ようやく落ち着いたレティシアは、恥ずかしそうに俯いてフィリップに謝る。


「もう、いいんだよ。……さあ、涙を拭いて、もう行くといい。君が今、一番会いたいと思っている人のもとに。……次に会うとき、僕らはお互いを尊敬しあう技術者仲間であり……そして、かけがえのない友人だ」

 それは彼の強がりもあるだろう。
 だが、それは偽らざる彼の本心であるし、きっとそうありたいと願うものであった。


「……はい」

 レティシアは、彼の心遣いを申し訳なく思った。
 しかし、自分もそうあることを願う。


 そして、彼女はフィリップのもとから立ち去っていく。
 名残惜しそうに、時々後ろを振り向きながら……




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「ちょっと格好つけ過ぎじゃないかい?」

 レティシアを見送ったあとも小径で一人佇んでいたフィリップに、いつの間にか近くまで来ていたリュシアンが声をかけた。


「……これでも傷心なんだよ。ちょっとくらい格好つけたっていいじゃないか」

 ちょっと拗ねたように彼は親友に言葉を返す。

 告白した相手にフラレたのだから心中穏やかではないはずだが……その態度は普段と変わらないように見えた。
 やるべきことをやって白黒はっきりした……だからこそ、切り替えることはできるのかもしれない。
 それでも、失恋の痛みは感じていないわけじゃない。

 リュシアンはそれを分かってるので、慰めの言葉をかける。
 あまり湿っぽくならないように、彼も普段通りの態度で。


「元気をだして……というのを、私が言うのは変かな?」

「失恋相手のお兄さんだからねぇ……まぁでも、ありがとう」

「どういたしまして。……私の見立てだと、あの娘はかなり君のことを男として意識してたと思うのだけど」

 レティシア自身は自覚がなくとも、外から見る者にはそう見えたようだ。


「やっぱり、長年の想いを積み重ねてきた相手には敵わない、と言うと負け惜しみになるのかな。薄々分かっていたことではあるけど……だからといって自分の気持ちを諦める理由にはならないからね」

 彼の言葉に、リュシアンは無言で頷いた。
 人の心はままならぬもの……それは二人とも、よく分かっていた。


 そしてリュシアンは、ことさら明るい調子で言う。

「実は良い酒を手に入れたんだ。私は普段は飲まないから、誰か一緒に飲んでくれる人がいると、助かるのだけど……」

「いいね。僕も普段は酒は飲まないけど……今日は朝まで飲みたい気分だよ。付き合ってくれるかい?」

「もちろん」



 彼らは、歩き出す。

 そして……フィリップは夜空を見上げて呟いた。


「リディー。次は君の番だよ。しっかり彼女の心を繋ぎ止めるんだ」

 もう一人の親友にして、一人の女性をかけて争ったライバルに、そんなエールを送るのだった。

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