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第三話 蘇我瑞葉のプロローグ

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 などと考えながら、わたしは午後の講義を受講し、少し大学図書館に寄り、十九時くらいに大学を出て、電車に乗る事およそ三十五分、最寄り駅のスーパーで手早く夕飯の材料を買って、二十時ちょっと過ぎに帰宅した。

 手洗い、うがい、調理、食事。洗い物を済ませてシャワー。身体を拭く。スプレー化粧水でスキンケア。
 髪を乾かしつつ、ぼんやりとする。ショートボブの髪は大学生らしい。赤く太めのフレームの眼鏡もそうだ。服装と髪型は文脈なのだと、とりとめもなく思う。人をじろじろと見るのは失礼だが、自分の顔なら問題ない。高校を出て二年経ったが、髪型も眼鏡も変えたおかげか、我ながら随分印象が変わったように思う。高校の頃は、もう少し地味だった。クラスメイトと全く話さなかったわけではないが、親しくなるほどでもなかった。大学受験の事を考えると余裕がなかった。わたしは勉強が好きだが、上には上がいる。果てしなく続く岩壁を登り続けるように、わたしは日々を過ごしていた。天辺てっぺんは見えない。天辺ははるか先にある……。

「……課題やるか」

 眼鏡をかける。一人は退屈ではないが、何かしていないと気が持たない。そういう意味で、課題は助かる。
 パソコンを立ち上げて、書きかけのレポートを見る。

 ――蘇我さん。フルネームは、蘇我瑞葉みずは
 まるで連想ゲームのように彼女の名前が頭に浮かぶ。下の名前がかわいい。
 勢い、彼女と親交を深める事になったが……そもそも彼女はどうしてわたしと仲良くなりたかったのだろう。身に覚えがない。同じ講義をたまたま取っていて、たまたま名前を知っていたというだけだ。

 服装と髪型は文脈というさっきの思考にのっとるなら、蘇我さんの文脈とは一体どういうものだろう。自然に伸ばしたようなもじゃもじゃの長髪。化粧っ気のない綺麗な肌。知性と好奇心が玉のような光を帯びるどんぐり眼。

 彼女、一体何者なのだろう。
 いや、連絡先まで交換しておいて何者も何もないかもしれないけれど。それはそうだけど。
 考えようにも材料がない。所詮わたしはまだ、彼女とカードゲームを始めて二週間程度しか経っていないのだ。

「日曜、行くか」

 結局、行動を共にする事でしか相手を知る事はできまい。
 まずは蘇我さんに返事をしなくては。まあ、明日でいいだろう。今日はもう夜だし。夜は一人の時間を取っているものだろうから、邪魔はしないようにしよう。

 小一時間ほど課題に費やした。

 頭が疲れてきたので、何か気晴らしをしよう。
 とはいえ、わたしの気晴らしは大概勉強だ。知識をつける事。あとはお笑い番組も嫌いじゃない。
 最近の勉強は、もっぱらカードゲームだ。《彼方ノ国物語》カードゲームのデジタル版プレイ動画を見て、ひとまず知識をつける事にしている。

 ……azumatsuの動画は見ないけれども。
 動画に付けられたタグを手がかりに、興味を引かれるものを探す。何かあるだろうか。このカードゲームはデッキの種類が多過ぎるので、どれを見るか決めるのもちょっと苦労する。

「…………ん」

 何か、気になる文字が目に入った。動画のタイトルは『ルンルン・マグネットぶん回し その三』。
 投稿者は〝sogagaga〟。

「……いやいやいや」

 わたしは一人画面の前で呟く。
 偶然にしては、実に気になる名前だ。
 蘇我と、〝sogagaga〟。
 いやでも、いくら何でも本名をもじっただけの、こんな雑なネーミングがあるだろうか。

「あるな……」

 実の姉がそうだ。
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