忘れられた妻

毛蟹葵葉

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離縁届は、一週間後に提出することになった。
すでに白い結婚は成立して二週間ほど経っているので、問題なく受理されるだろう。

チネロは、そう考えるだけで肩の荷が降りたような気分になった。
離縁届が受理されたら、そのまま旅行に行く事になった。サラと何人かの護衛とメイドを連れて行く予定だ。
チネロは、サラどころか護衛までと固辞しようとしたけれど、それを、ローディンもダイアナもそれを止めた。

そして、今日は、護衛と新しいもう一人のメイドとの顔合わせの日だ。
チネロは、部屋に挨拶に来てくれた、ガッチリとしたメイドと、屈強そうな護衛の青年たちに目を見開く。

「こんなに沢山の方が付き添ってくれるんですか?」

「はい。ダイアナ様のご命令ですから、ご安心して旅をしてください。何かとお手伝いできると思います」

青白い肌をした痩せた頬をしたメイドは、無駄に高い声をしていて、名前をユイと名乗り、頼りになりそうなくらいガッチリとした体つきをしている。

身長はローディンよりも高そうだ。
鈍いチネロも、さすがにこれは……。と、思ったが何も言わずに笑顔で「よろしくお願いします」と頭を下げた。
サラは明らかに青ざめた顔をして何か言いたげに口を開こうとした、けれど、何も言わないチネロの手前、何も言わなかった。いや、言えなかった。

屈強な集団は挨拶を済ませると、「むさ苦しい男たちは出ていきます」と、言って部屋から出て行った。もちろん、ユイも一緒に出て行った。

「あの、ユイって人……」

サラがそう言いかけて、チネロは、「やめましょう」とそれを止めた。

「世の中には色々な人がいますから、その、いい事だと思いますよ。自分を表現できて」

「でも、化粧がちょっと……」

サラは、青白くすら見えた化粧がどうも引っかかったようだ。
チネロはそこではない。と、思ったけれどあえて何も言わなかった。

「ところで、チネロさん。やっと離縁ですね。清々します?」

「そうかもしれませんね。離縁できたらやっとあの悪夢から解放された気分になれるのかも」

チネロが笑顔で言うとサラは、ポンポンと励ますように彼女の肩を叩いた。

「旅行、楽しみですね」

サラが話題を変えると、チネロは、楽しそうに声を出して笑った。

「護衛は少しでいいのに、お仕事もあるでしょうから申し訳ないです」

チネロが不思議そうに首を傾けていると、サラは苦笑いした。

「ダイアナ様は心配性ですから、それに、人を多くつければ人手がどうしても必要な時に助かりますし。まだ、チネロさんは本調子ではありませんから」

サラにそう説明されて、まだ、本調子ではないチネロは、それもそうだと思った。ダイアナの好意を大袈裟とは捉えないで、感謝することにした。

「それでは、歩く練習をしましょうか」

サラに促されて、チネロは、ゆっくりと杖をついて歩き出した。
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