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新しい旅路
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旅の目的地を考えるとき、今一番重視することはなるべく人気のない田舎に行くことだろう。そうなると、東宿駅からなるべく南下するべきだと思った。手っ取り早く、つまりおおよそ2時間くらいの旅路で人気のない海岸線まで連れて行ってくれる路線・・・1日に5本程度出ている特急に乗ることとした。途中までは国有鉄道なのだが、海辺についた当たりから下豆鉄道という、なんともローカルな私鉄線に直通する列車である。
午後3時ちょうど発の特急は30分ほど前に入線してきた。まだ帰宅ラッシュの時間ではないが、それでも在来線ホームでは、スーツ姿の男たちがあっちからこっちへ、色々な方向に歩いている。ああ、大変なんだと思った。この社会で生きていくには。僕は一足先に辞めてしまった。辞めて正解だと思った。どうして死ぬまで歯車にならないといけないのか。自分がやりたいことなんて、結局何も出来ないんだ。そんな社会の歯車を続ける意味が、果たしてあるのだろうか。僕は正直ないと思った。
彼らは僕のことを羨むだろう。平日の日中から旅が出来るのだから、と。でも、僕は犯罪者であるから褒められる存在ではないのだ。まあ、彼らには分からないことだと思うが・・・。
列車が入線して車内整備が終わるとドアが開き、僕は車内に乗り込んだ。ちょうど僕が生まれた頃に誕生した車両であり、また海岸線を頻繁に走ることもあって老朽化の痕跡が至るところで垣間見れた。もうじき引退するのではないかと噂されるほど・・・思い返せば幼い頃両親に連れられて何回かこの列車に乗ったことがあって、その時はみんな希望を抱いていたのだ。それが・・・年を経ればみんな古くなっていく。有機物も無機物も、それは自然の摂理なのだから仕方がない。
発車を知らせる鈴のベルが鳴り響く。新しい旅路に胸を弾ませながら・・・僕はただ前を見ていた。
「乗ります、乗りまーす!!!」
駆け込み乗車、ではギリギリなかった。甲高い女性の声がホームから聞こえた。女性が乗り込んだのを確認してドアが閉まり、そのままゆっくりと動き始めた。どうやらその女性は僕と同じ先頭号車の指定席を購入したらしい。しかも、僕のちょうど一列前の座席であった。
これも一つの運命なのか・・・そういえば、聞きなれた声だとは思った。でもまさか・・・彼女はどこまで僕の邪魔をすれば気が済むのだろうか。これも、神様が仕組んだせいなのか?
「どうして。こんなことが起こり得るのだろうか。でも、実際に君はここにいるわけだから・・・まあ、君に質問したところで分かることではないな・・・」
「あらあら、奇遇ですね。こんなところで遭遇するだなんて・・・ていうか、どうして犯罪者が1人で電車に乗っているんですか?」
この社会では彼女のほうが上の立場である。だから、僕のことを蔑んでいた。それは慣れている・・・彼女だけが特別ってことじゃないから。でも、どうしてだか悲しく泣いているようにも見えた。
「君も・・・これから旅をするのか?学校はどうしたんだ?」
「あなたって・・・私のお父さんかなにか?」
「・・・別にそういうわけじゃないが・・・」
「あら、そうですか。まあ、いいや・・・」
彼女はふうっと息を吹いた。そして言った。
「私はこれから、翼を探す旅に出るの」
彼女は間違いなく飛鳥だった。最初に飛鳥と出会った時、確かに同じことを言っていた。その翼を探しに行くと言うのか。本当の話なのだろうか。翼とは何なのか。特にこれといって目的のない旅路となるはずだった。それが、飛鳥との再会で目的のある旅路に変わろうとしていた・・・。
午後3時ちょうど発の特急は30分ほど前に入線してきた。まだ帰宅ラッシュの時間ではないが、それでも在来線ホームでは、スーツ姿の男たちがあっちからこっちへ、色々な方向に歩いている。ああ、大変なんだと思った。この社会で生きていくには。僕は一足先に辞めてしまった。辞めて正解だと思った。どうして死ぬまで歯車にならないといけないのか。自分がやりたいことなんて、結局何も出来ないんだ。そんな社会の歯車を続ける意味が、果たしてあるのだろうか。僕は正直ないと思った。
彼らは僕のことを羨むだろう。平日の日中から旅が出来るのだから、と。でも、僕は犯罪者であるから褒められる存在ではないのだ。まあ、彼らには分からないことだと思うが・・・。
列車が入線して車内整備が終わるとドアが開き、僕は車内に乗り込んだ。ちょうど僕が生まれた頃に誕生した車両であり、また海岸線を頻繁に走ることもあって老朽化の痕跡が至るところで垣間見れた。もうじき引退するのではないかと噂されるほど・・・思い返せば幼い頃両親に連れられて何回かこの列車に乗ったことがあって、その時はみんな希望を抱いていたのだ。それが・・・年を経ればみんな古くなっていく。有機物も無機物も、それは自然の摂理なのだから仕方がない。
発車を知らせる鈴のベルが鳴り響く。新しい旅路に胸を弾ませながら・・・僕はただ前を見ていた。
「乗ります、乗りまーす!!!」
駆け込み乗車、ではギリギリなかった。甲高い女性の声がホームから聞こえた。女性が乗り込んだのを確認してドアが閉まり、そのままゆっくりと動き始めた。どうやらその女性は僕と同じ先頭号車の指定席を購入したらしい。しかも、僕のちょうど一列前の座席であった。
これも一つの運命なのか・・・そういえば、聞きなれた声だとは思った。でもまさか・・・彼女はどこまで僕の邪魔をすれば気が済むのだろうか。これも、神様が仕組んだせいなのか?
「どうして。こんなことが起こり得るのだろうか。でも、実際に君はここにいるわけだから・・・まあ、君に質問したところで分かることではないな・・・」
「あらあら、奇遇ですね。こんなところで遭遇するだなんて・・・ていうか、どうして犯罪者が1人で電車に乗っているんですか?」
この社会では彼女のほうが上の立場である。だから、僕のことを蔑んでいた。それは慣れている・・・彼女だけが特別ってことじゃないから。でも、どうしてだか悲しく泣いているようにも見えた。
「君も・・・これから旅をするのか?学校はどうしたんだ?」
「あなたって・・・私のお父さんかなにか?」
「・・・別にそういうわけじゃないが・・・」
「あら、そうですか。まあ、いいや・・・」
彼女はふうっと息を吹いた。そして言った。
「私はこれから、翼を探す旅に出るの」
彼女は間違いなく飛鳥だった。最初に飛鳥と出会った時、確かに同じことを言っていた。その翼を探しに行くと言うのか。本当の話なのだろうか。翼とは何なのか。特にこれといって目的のない旅路となるはずだった。それが、飛鳥との再会で目的のある旅路に変わろうとしていた・・・。
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