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5月

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あきらくん、北店の売り上げ急上昇でしょ、見たわよ」

「そうでもないですよ…まぁ指名客はうまく誘導できたのでそのおかげですかね」

松井まついは炊き込みご飯をふぅふぅと冷ましながら、ニヤリと笑う奈々ななに仕事モードの笑顔を返した。

「謙遜しちゃって…自信満々に誇って見せなさいよォ」

「ふふ、すごいでしょ」

そう言うなら、と彼は堂々と胸を張り、「えっへん」とばかりに嬉しそうに歯を見せる。


 彼が本店から北店へ転勤してからまだ半月ほど、新天地でゴールデンウィークを戦い抜いた松井は奈々を招いてお疲れ会を開いていた。

 北店は本店の約半床ほどの中規模店だが、この連休での売上額が全国規模でもなかなかのラインへ食い込んだのだ。

 それはワンランク上の商品を巧みにお勧めして買わせてしまう松井の接客が冴えていたことと、彼の固定客がこぞって北店へと流れてしまったことによる効果だった。


「すごいわよォ…はァ…おかげでこっちは日曜だってのにノー残業で帰れたわけだけど…堪んないわね」

 流れた額は元々は本店の売り上げになるはずだったもの、実績不振は嫌みな叱責となってWeb会議で管理職へ注がれるのだ。

「北店に無い物でも本店が協力してくれるし…やり易いですよ」

「そう…コーナー長は?どう?」

「特にこれってことは無いですね…でも責任というか…フロア長不在の時とかは身が引き締まるというか…僕、本店では随分とのびのびさせてもらってたんで」

「そうね、責任って人を強くするわよね…引き締まるっていえば、ジムは?最近」

 松井は月額制の契約で北店の近くのジムに通っていたのだが、これまではついダラけてしまい週1のトレーニングでやった気になっていた。

 それが今ではその北店に転勤したため、仕事帰りに少しでもと通うようになり全体的に余分な肉が落ちてスッキリした見た目に仕上がっている。

「今週は3回行けてますね。僕…ナナさんと食事するようになってからひとりの晩酌を辞めたから、それだけでも体重が落ちてたんですよ」

「わ、すごいじゃない。でも私との呑みでガブガブいくからプラマイゼロでしょ」

「普段の食生活も変わったんですよ、雑穀とか…無理しない健康食」

 玄米・押麦・キヌア・チアシード…松井はこれまで数々のパワーフードもお洒落ごはんに取り入れてきたが、普段の飯は結局白米にもち麦少々に落ち着いた。

 無理なく食べる、便通が良くなる、排出する、そこに運動も加わって良いサイクルが出来つつあるようだ。

「へェ…いいわねー。私も行こうかな、ジム。近いし…ねェ、紹介とかしてない?」

「し、てますけど……ダメですよ」

「なんでよ」

全粒粉のスパゲティをくるくる巻いていた手を止めて、奈々はまさか断られると思ってなかったので目を剥いて松井を見つめる。

「いや、薄着になるし…ひとりでは危ない」

「な、に、が、危ないのよゥ…言いなさいよ、」

松井の部屋はダイニングテーブルは無くリビングの大きな座卓が食卓なのだが、テレビに向かって横並びに座っていた奈々はフォークを置き、ずりずりと彼に擦り寄った。

 そして目を逸らす松井のそれなりに筋肉のついた腕へ自慢のHカップの爆乳をぽよんと押し付ける。

「いや、分かってるじゃんか、ナナさん、もー…それ、む、胸が…見られるから、絶対みんな見ちゃうから、」

「ガチガチに固めるわよ。乳腺切れちゃうもん……なら待ち合わせして一緒に行こう?私も健康的に汗かきたい♡ね、旭くん、」

犬のお座りのように両手を揃えて床につけば、押された胸はより前にり出し男の理性を試しては弄んだ。

「当たってる、ナナさん、」

「当ててんのよ」

「分かったから…か、隠さなきゃダメだよ、本当…」

「うん、もちろんよー…楽しみ♡」

「肉圧…」

 まだまともに触ったこともないその胸、なにせ二人は交際こそしているがその実態は上司と部下のままなのである。
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