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猟師と青年 1

青年、猟師と年齢の話になる

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ロウさんと山を歩く。
今日からは馬も一緒だ。

「で、薪を倍にするんだって?」
「そうなんす。
 いつもは7束くらいだから、その倍だとかなりきついと思うんすけど…。
 やっぱり生木切るしかないっすかね」
「うーん、幹からじゃなくて、枝打ちならどう?
 薪くらいの太さの枝を、色んなとこから集めるんだ。
 それなら、長さを揃えるだけだから、オレも手伝えるし」

ロウさんの小屋には薪割りの台が1個しかないから、いつもおれだけで薪割りしているけど、のこぎりで切るぶんには台はいらないから…ってことらしい。

そういうもんなのか?

だけど、なあ…お世話になりすぎだよな。

「こんなんでも一応軍務だし、民間人の手は借りられないっすよ。
 飯も食わしてもらってるのに」

魅力的な提案だけど、さすがにそこまで頼れない。
本来軍が支給するべき3食分もタカってるし。

すると、

「いいよそういうのは!そんなの関係ないもん!」

ロウさんはプイっと顔を背けて、ふくれっ面をする。

一緒にいて思うけど、ロウさんは表情が豊かでわかりやすい。
時々、そういうところが何だか可愛くて楽しい気持ちになる。

”可愛い”なんて自然を相手に自分の腕で生きてる人に失礼かもしれないけど、つい笑ってしまう。

「オレはどう言われても手伝うからね!」
「はい…ありがとうございます」
「ん、そうそう、最初からそれでいいの」

そういってニコッと笑う。
つられておれもフフフと笑う。

「それにしても、何で急に倍にしろって言われたの?サボってるように見えたとか?」

ロウさんが当然の疑問を口にする。
でもおれも理由は知らない。

「さあ、わかんないっすね」
「分かんない?教えてくれないの?」
「言われた事をやるのが兵隊ってもんですから」

聞いても殴られて終わりだろう。
理由を聞くのは口ごたえと一緒だから。

「そもそも理由がどうとか、あんまりそういうの考えたことないっすよ」
「そうなの?」
「今までは指揮官の言うこと聞いとけば生きてこれたんで…運がいいだけかもしれないっすけど」

そう、今までは。

今まで北にいた時は、どうしてこれをやるかって説明がちゃんとあった。
だから「それならこうした方がいいんじゃないか」とか色々みんなで話しながら出来た。
解決方法はそうやってみんなで見つけて来た。

おれはひとりじゃ何も考えつかない。

戦うしか能が無い人間だから…
戦いを取られた今は能無しだ。

「なんか、懐かしいな」

ここに来たのが随分昔の事のような気がしてきた。
みんな元気かな。
手紙も出せないから何も分からないし、祈るしかないんだけど。

「……」

俺が感傷に浸っていると、ロウさんが言った。

「…そういえばソラ君って、兵隊さんになって何年になるの?」
「12年ですかね」
「えっ、そんなに?」
「10で入隊して、今22なんで、そうっすね」

ロウさんは急に申し訳無さそうな顔をする。
おれの知ってる顔だ。
これは少年兵に向ける大人の顔。

やっぱりロウさんは優しい人だ。

おれの小さい頃は、子どもを戦場へやるなんて…と思えるほど、北は豊かじゃなかった。
馬鹿みたいに高い税金を取られて、払えなければ借金で、借金が払えなければ身売り。
人買いだって毎日のように来てたしな。

女性や子どもを売らせる事でおれたちの部族の人数を減らす作戦だろうって、友達は言ってたけど。

でも今は違う。
兵士は、なりたい人が大人になってからなるものだ。
おれたちは頑張った!
領主様に恵まれてたのは確かだけどね。


でも、ロウさんがそんな顔をしたから、おれは話の方向を変えることにした。

「もしかして、22歳に見えないっすか?」
「あ、いや、その…」
「もー、いくつだと思ってたんすか~?」

北の部族は若作りってね。
そういやロウさんはいくつなんだろ?

「ロウさんは、いくつなんすか?」
「あっ、えっと、わかんない!」
「えっ?」
「えーと、山の暮らしが長いから、忘れた!」
「そうなんすね~」

分かんない…?
ますます謎の人だな。
まあ、優しくて良い人ってことが分かってればいいか。

そんな話をしているうちに、ロウさんちに到着。
馬の手綱を小屋の隣の木にくくりつけて、水と草を用意してやっていたら、ロウさんが狼の遠吠えのような声を上げた。

「こうしておくと、熊がこないんだよ~」

だって。
すごいなあ。

「おれにもそれ、できますかね?」
「うん!教えてあげる!」

ロウさんはすごくいい笑顔になった。
なんか…かわいいな、やっぱり。
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