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からっぽの自分
しおりを挟む布団の中で、今日のできごとについてぼんやり思い出す。
──願い事が今は特にない、と言うと、なんだかかわいそうなものを見る目を向けられてしまった。
まぁそうだと思うけど!
今は気持ちがまとまっていないから……と苦笑いしながら、僕は逃げた。
つまらない人間なんだよな。
バレたくないな。
胸が苦しくなる……
なんとなく平凡に毎日を送ってきて、これといった強い要望もなく、夢というものも特になく……困ったことに僕の心の中は今、絶句するほど、空っぽだった。
それを自覚させられた。
ああ、みんなを責めてるわけじゃなくてね。
羨ましいなって。
すぐに夢を語ることができて。
みんなのまぶしい笑顔を思い出す。
どうしてあんなに輝いていられるんだろう。
意外だったのは、ひとつ。
「私もまだかな」
って、雨宮さんが悩んだことだ。
あとは神谷さんは「内緒」ってダンディな内緒ポーズで言ってのけた。でも彼には何かあるだろう。イメージは察して。
二人だけが保留で、他のみんなは黒猫ユウレイを拝んでから、笑顔で帰ったんだ。
寝返りをすると、コタツが見える。
みんながいた名残を感じる。
その向こう側には、地元の港街の写真。
学生の頃のぼくの夢って、なんだっただろうか……。
小さい頃に考えていたのは漁師だった。
船に乗って魚を持ち帰ってくる、そんな近所の漁師の様子を見ていたから、体がでかい男達はとてもかっこよく思えた。男子たちのヒーローだったんだ。
その後大人になっていくにつれて、不漁のときの大変さだったり、法律で魚を取る量が制定され働きづらくなったり、税金のことを知って、怖じ気づいて諦めた。
大人になって目が覚めた。
泉さんみたいな、直近の小さな夢は、考えてみたけれど……それはまた全然浮かんでこなかった。
だって僕は今の仕事に、とくに魅力を感じていないから。
地元の学校では成績が一番だったから、都会に来れば、華やかな職場で活躍することに憧れていた。でも面接に落ち続けて、すっかり自信を砕かれてしまった……。僕が通っていた学校の知名度は低く、学年一位なんて企業にとっては旨みがなかった。
完全に田舎者だったんだよな。
就職の氷河期だったことも災いした。
華やかな仕事への期待は潰れて、何とか内定をもらった携帯ショップに就職することにした。
ただお金のために働いて、生活をして……
楽しみといえば、自分の舌にあったご飯を作ること。それを黒猫と食べることは楽しみ。
でも、それだけ”だった”。
……今は?
机の上に、泉さんと雨宮さんが忘れていったヘアピンとシュシュが、ぽつんと残っている。来客用の飴の缶も置かれている。
「今は……週末が楽しみなんだよなぁ」
口に出してみると、口角が上がった気がして、思わず押さえる。
今は鏡がないから自分の頭が見えないけれど……ネコミミがご機嫌に入れているような気がした。
ぼくの夢は、まだ見つからないし、平凡な日常がとても退屈で、何のために生きているのかよく悩んだりもする……。
でも他の人と話していくうちに「何か」が見つかればいいなぁ、と、ほんの少しだけ期待して、考えるのだった。
その「何か」が明確になったとき、ぼくは特別なお願い事を、黒猫ユウレイに告げるのかもしれない。
来週も全員に会えますように。
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